【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理

文字の大きさ
32 / 45
二章

もう一人の僕

しおりを挟む
「……でも、話しても、私が楽になるだけで」
「話してくれたら、君を……嫌いになれるかも」
「!」

 そうか、そういう方法もあるんだ。
 私が楽になるためじゃなく。
 リッカルド様に、嫌われるために。

「ねぇ、教えて、ソフィア。君は、僕に好かれると困った顔をするよね。だったらーー僕が君を嫌いになるために、教えて」

◇◇◇

 全部、話した。
 過去の私が、リッカルド様にしたことも。
 悪魔のことも、全部。

「……なるほど」

 リッカルド様は、私が話終わると、頷いた。

「そんなことがあったんだね」

 リッカルド様は口を挟むことなく、最後まで聞いてくれた。

「話してくれてありがとう」
 リッカルド様は微笑むと、私の手を握った。

「……あの?」
「僕のお願い……聞いてくれる?」
「私にできることなら」

 リッカルド様が、私に死んで欲しいというなら、死ぬ。
 それでも、許されるとは思っていないけれど。

「うん、だったら、明日は学園に来て。明日も明後日も、卒業するまで、ずっと」
「……え?」

 学園にいく?
 それはもちろん、リッカルド様のお願いなら、構わないけれど。

 どうして、そんなことを。

「それで、学園を卒業したら……ううん、その後のことは、その時に伝えるね」
「わかりました。……それがリッカルド様の望みなら」

 リッカルド様は頷くと、花を一輪手折り、私に差し出した。

「それから、ソフィア」
「……はい」

 その花を受け取る。花からは、芳しい香りがした。

「僕は、君が好きだよ」
「……っ」

 うそ、嘘だって。
 私は許されないことしたのに。
 それなのに。

「何度だって伝えるよ。僕は、ソフィアが好きだ。だからね……」

 あとずさった私との距離を詰めて、リッカルド様は、微笑んだ。

「君を許さないことにする。だから、これから教えてね。どうしたら、君が幸せを感じるのか」

 それは、私の幸せとは反対のことをしてくれる、ということ……?

「君は僕のそばで、幸せになるんだ。僕にいつか、許されるために」
「え?」
「君は許されたいんだろう? だったら、僕の願いごと、叶えてくれるよね」

 でも、私にとってそんな都合のいいこと……。

「それが君が僕にできる、最善のことだよ」
「!! ……わかりました」

 リッカルド様が決めたことなら、従うしかない。

「うん。……ソフィア。また、明日」
「また……明日」

 リッカルド様は、ここで研究があるからと小屋の中へと入って行った。

 邪魔はできない。

 女子寮に戻るまで、ずっと、今日起きたことを考えていた。

 私ができる最善のこと。

 それは、リッカルド様が今度こそ笑える世界をつくることだった。

 でも、リッカルド様にとっての、それが違うのなら。
 私は、それに従うべきで、でも、本当に、いいのかな。

 私が幸せになっても、いいの……?


◆◆◆


「……さて」
 ソフィアが完全にいなくなるのを確認して、僕は、影に話しかけた。

「いるんだろう? ……悪魔」
 影は、何も応えない。

「いや、こう呼んだ方がいいかな。『もう一人の僕』」

 影が、揺れる。
 躊躇っているかのようだ。


「自分だけ勝ち逃げなんてずるいじゃない。姿を現しなよ」

 
 影が大きくゆらめいた。
 そして、影の中から、ぼんやりとした姿を見せる。
 徐々に実態を伴っていくその姿を見て、思わず笑った。
「やっぱり、君……、というか、僕か? 世界を渡ったんだね」
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

処理中です...