なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ

文字の大きさ
105 / 147
6章.ダイン獣王国編

97話.想いの違い

しおりを挟む
 全身を真っ赤に染めた男が何かを担いだ状態で立っている、斬撃音を響かせることのなくなった土煙の中からそんな姿が少しづつ浮かび上がっていく。
絶望に染まったアキナはもちろん、バロンの守護騎士たちもこの異様な状況を理解できずに先ほどまでとは打って変わって、ただただ静寂な時が流れるのであった。

 そして、その姿を覆い隠していた土煙が消え去り始めた頃、この静寂はその男の声にて破かれるのだった。

「さすがに強いね、まさかここまで苦戦するとは思わなかったよ」

「……ぅ、よく言いますよ。
 あなたの圧勝ですよ、これは……」

「死ななきゃ負けではない、これが最近の俺の格言なんだよね。
 だから、俺的にはまだドローだよ」

 アキナは聞こえてきた声を信じれずにいた。
自分の耳がおかしくなったのだと、幻聴をきているのだと。

 顔を見上げることでアキナの視界にその男の姿が入る。
ただそれだけのことで先ほどまで一切信じれなかった自分が聞いた声が幻聴ではなく、本人の声なのだと素直に信じることができた。

「く、クロムなのよね?
 大丈夫…… なの??」

「心配かけてすまない、さすがに苦戦はしたけど見ての通り元気だよ。
 って……
 全身真っ赤で元気はおかしいか」

 いつものクロムの何かをはぐらかすそんな言い方を聞いたアキナは、自分の目の前にいる存在がクロム本人であることを強く感じることができて心底安心することができたのだった。
そしてアキナはそのままクロムの元まで駆け寄りたかったのだが、極度の緊張状態にあった体は素直にいうことをきかずその場に再び倒れこむのだった。

「あはは、とりあえずしばらくはそのまま休んでてよ」

「う、うん」

 クロムとアキナが先ほどまでの戦闘が嘘であったかのような甘い空気を醸し出し始めた頃、バロンがクロムに問いかけるのであった。

「あなた…… いえ、クロム殿。
 先ほどの攻防……

 私の斬撃が全て防がれたのは理解してますが、なぜ自分がこれほどまでにボロボロになっているのかが理解できないのです。
 …… 教えてはもらえぬだろうか」

「いいよ、まぁ言葉にすれば単純なことになってしまうけどね。
 バロンさんの斬撃を回避しつつ、その斬撃の流れに逆らわないように空気の斬撃エアーカッターをカウンターで入れる。
 それをバロンさんの斬撃全てに対して繰り返した。

 そして、そんな状況に焦れたじれたバロンさんが大振りな一撃を放ってきたところに合わせるようにバロンさんの真下から巨大な氷の杭アイスランスを出現させたってところかな」

 ようするには、バロンの斬撃を回避しつつカウンターで軽く斬りつける。
それを繰り返すことで焦れた相手のスキに大技を食らわせる。
そのために焦らし続けたのだから、その攻撃は必中となり、決め手となる、のであった。

「ことなさげに、サラっといいますね。
 あの速度は人族の反応速度を超えてたはずなんですけどね」

「空間を操ればそんなもんはある程度なんとでもなる、それは同じく空間術の使い手であるバロンさんにもわかるでしょ」

「そうではありますけど……
 しかし空間を操るもの同士の戦闘がこんなに一方的になるなんて理解できません!!!!」

「そんなこと言われてもな……
 あぁ、でも戦いながら一つだけ俺とバロンさんで決定的に違うところがあるっていうのは感じたよ」

「!!!!!!!
 それはどんな……!?」

「バロンさんってさ、絶対に”勝つため”に戦ってるよね?
 暗殺をメインとしてればある意味当然なのかもしれないけどね。

 でもさ、勝つためにでやってるとどうしても焦れる時があるし、前のめりになりすぎる時もある、そしてそれは致命的なスキになるよね」

「それはその通りですが……
 では!
 クロム殿は何のために戦っているのですか!!!???」

「ん~、改めて言葉にすると少し恥ずかしいんだけど……
 俺は絶対に”負けないため”に戦っている。

 今の俺には守りたい人がいる、俺を頼ってくれている人がいる、そんな人たちの想いに応えたい俺がいる。
 そして最愛の人の隣に立ち続けたい」

「……」

「そんな想いを全部果たすためには、俺は負けちゃいけないんだよ。
 そして死んではいけない、だから負けられない。
 だから……
 絶対に”負けないため”に戦う、かな」

「言いたいことはなんとなくですがわかります。
 しかし……
 ”勝つため”と”負けないため”に差が生まれるとは思えません!!!」

「ちょっと偉そうに言わせてもらえば……
 ”負けないため”の境地にたどり着いた者にしかわからない感覚ですよ、たぶんね」

クロムはそういうと最愛の人であるアキナを腕の中に抱きしめつつ、大きな声で笑うのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

処理中です...