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3.小さなメイドさん(佑樹)
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一階のガレージから空きっ腹を押さえつつ階段を上りながら朝食に思いを馳せる。ああ、腹減ったなぁ。今日の朝メシはなんやろなー?
調理師免許持ちで現在ベーカリーカフェで働いている姉貴は、母子家庭で母がほぼ家にいない我が家の家事の大部分を引き受けてくれている。正直、姉貴が地元に就職して家に残ってくれたことは本当に感謝している。
いや、もちろん僕も完全に姉貴任せじゃなくてある程度は家事も頑張ってはいるけど、姉貴と同じレベルでやれって言われても無理や。まあだからこそバイクの整備を引き受けているわけだけど。
普段は姉貴に申し訳ないから朝食に過度な期待はしないのだが、今日はだいぶ頑張ったから期待してええんちゃう? ええよな?
ワクワクしながらダイニングに入ると、テーブルの上のカゴには卵とバターをたっぷり使った贅沢なパン『ブリオッシュ』と『クロワッサン』が個別包装のOPP袋(半額シール付き)に入ったまま積んであり、使い捨てのパック容器に入った消費期限が昨日の生野菜サラダがそのまま置いてあり、地元の学校給食ではお馴染みの大内山牛乳の200mlの紙パックがあった。
……えー、これはなんというか、ちょっとショックなんやけど。
「…………」
これ全部、姉貴の勤め先のベーカリーカフェの売れ残りやん。
いや、確かに美味しいし、普段から朝食はだいたいこんな感じではあるけど。でも、今日のこれはなんというか解釈違いというか……。
「……あのさぁ、沙羅姉?」
「なにかな?」
キッチンからなんかすごくいい笑顔の姉貴。
「弟が睡眠時間返上であなたのためにバイクを整備していたというのに、昨日の店の売れ残りオンリーの朝食ってどうなん? いや、贅沢は申しませんが、せめてこう、せめて一品だけでも温かみのこもった手料理なんかを弟は所望しているのですが。サラダもパックのままって、せめてサラダボウルに出すぐらいの取り繕いぐらいしよさ?」
「うふふ。はいっ」
僕のお気持ち表明に姉貴がドヤ顔で、待ってましたーとばかりにずずいっと弁当の包みを差し出してくる。
「ちゃんとユウ君には感謝しとるに? だ・か・ら、ジャーン! 男子高校生の夢の具現化! 『自慢の美人のお姉さん謹製! 愛情たっぷりの手作りお弁当デラックス!』友達からうらやましがられること間違いなし! そっちを頑張りすぎちゃったから朝食は手抜きになっちゃったけどええやんな?」
「うおっ凄ぇっ! ……ってなんで重箱二段やねん! バイク通学なのにこれをどうやって持って行けと!? 羨ましがられる前にドン引かれるわっ! あと、自分で自慢の美人のお姉さんとか言うなし」
「あはは~。ユウ君のツッコミは今日もキレッキレやねぇ」
僕の姉貴はまあ、こういう人だ。茶目っ気というか愉快犯な一面があり、ちょいちょいこういう手の込んだイタズラを仕掛けてくる。
その姉貴の後ろからピョコンと小柄な美少女──小六の妹の咲良が飛び出してきてふんすと胸を張る。見覚えのない白黒のシンプルなデザインのメイド服に身を包み、ロングの黒髪をツインテールに結んでいて、控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い。
「兄上兄上! ワタシも姉上の手伝いをしたのだぞ」
「おぉ、サクも手伝ってくれたんかぁ! おおきんな! てかそのメイド服なっとしたん? サイズもぴったりやし、めっちゃ可愛ええやん!」
「むっふー。姉上が作ってくれたのだ。あと髪もツインテールに結んでくれたのだ」
いかにもコスプレっぽい装飾過多なメイド服ではなく、あくまでも家事作業のしやすさに特化したシンプルで実用的なメイド服に身を包んだ小柄な黒髪美少女のツインテールとか解釈一致すぎる。最近姉貴が自室でこそこそ作ってたんはこれやったか。
姉貴に向けてビシッとサムズアップする。
「マジかよ沙羅姉、マジグッジョブ! いやもう完全に解釈一致だわ。可愛さと実用性のバランスが良すぎる! てかうちの妹マジで天使過ぎる!」
「やんな! やんな! さくにゃんのリクエストが動きやすさ重視の家事をしやすい服やったから割烹着もええかなー思ってんけど、やっぱりここはメイド服一択やんな!」
「おぅふ……割烹着女子のサクやと? それもええなぁ。……けど、まずはメイド服を選んだのは正義や!」
「むふ。ワタシは引きこもりやニートなどではなく、あくまで家事手伝いなのだ。だからちゃんと規則正しい生活をして家のことも積極的にこなすのだ。これはそのための制服なのだ」
「うんうん。サクは本当にえらいなぁ。俺の自慢の妹だよ」
僕に頭を撫でられてにへへと笑う咲良を姉貴が後ろからぎゅうっと抱き締めて頬擦りする。
「あーもう、さくにゃんが可愛いよぅ。さくにゃんマジ天使! この小さいメイドさんが家事のお手伝いをしてくれるとか、もうお姉ちゃん幸せすぎるんだけど~。家事が至福の時間すぎるんだけど~」
「あ、あにぇうえ! しまってる! しまってるから! くるひい……ぐえ……」
これもまた我が家でのいつもの光景。
色々と事情があって学校に行けなくなった妹は、ポジティブに開き直って母や姉貴を師事して文字通りの家事手伝いに真剣に取り組んでおり、僕ら家族はそんな彼女の決定を尊重し、決して行動を急かすようなことはせず、ただ愛情を注ぐと決めた。
小学校は出席日数が足りないからといって卒業できないわけじゃないし、勉強は僕らが教えてやれる。そもそも妹はマジモンの天才だからもし日本に飛び級制度があれば高校生にだってなれるレベルだ。無理して学校に行って心を病むよりずっといい。
咲良は僕と姉貴にとって誰よりも大切な存在なのだから。
【作者コメント】
旧作版では登場しなかった妹の咲良ですが、実際に登場させてみると……ちょっとキャラが良すぎんか? ちなみに大内山牛乳は三重県南部の学校給食ではお馴染みのご当地牛乳です。スーパーではちょっとお高め。牧場は大紀町大内山にあり、見学や体験もできます。
調理師免許持ちで現在ベーカリーカフェで働いている姉貴は、母子家庭で母がほぼ家にいない我が家の家事の大部分を引き受けてくれている。正直、姉貴が地元に就職して家に残ってくれたことは本当に感謝している。
いや、もちろん僕も完全に姉貴任せじゃなくてある程度は家事も頑張ってはいるけど、姉貴と同じレベルでやれって言われても無理や。まあだからこそバイクの整備を引き受けているわけだけど。
普段は姉貴に申し訳ないから朝食に過度な期待はしないのだが、今日はだいぶ頑張ったから期待してええんちゃう? ええよな?
ワクワクしながらダイニングに入ると、テーブルの上のカゴには卵とバターをたっぷり使った贅沢なパン『ブリオッシュ』と『クロワッサン』が個別包装のOPP袋(半額シール付き)に入ったまま積んであり、使い捨てのパック容器に入った消費期限が昨日の生野菜サラダがそのまま置いてあり、地元の学校給食ではお馴染みの大内山牛乳の200mlの紙パックがあった。
……えー、これはなんというか、ちょっとショックなんやけど。
「…………」
これ全部、姉貴の勤め先のベーカリーカフェの売れ残りやん。
いや、確かに美味しいし、普段から朝食はだいたいこんな感じではあるけど。でも、今日のこれはなんというか解釈違いというか……。
「……あのさぁ、沙羅姉?」
「なにかな?」
キッチンからなんかすごくいい笑顔の姉貴。
「弟が睡眠時間返上であなたのためにバイクを整備していたというのに、昨日の店の売れ残りオンリーの朝食ってどうなん? いや、贅沢は申しませんが、せめてこう、せめて一品だけでも温かみのこもった手料理なんかを弟は所望しているのですが。サラダもパックのままって、せめてサラダボウルに出すぐらいの取り繕いぐらいしよさ?」
「うふふ。はいっ」
僕のお気持ち表明に姉貴がドヤ顔で、待ってましたーとばかりにずずいっと弁当の包みを差し出してくる。
「ちゃんとユウ君には感謝しとるに? だ・か・ら、ジャーン! 男子高校生の夢の具現化! 『自慢の美人のお姉さん謹製! 愛情たっぷりの手作りお弁当デラックス!』友達からうらやましがられること間違いなし! そっちを頑張りすぎちゃったから朝食は手抜きになっちゃったけどええやんな?」
「うおっ凄ぇっ! ……ってなんで重箱二段やねん! バイク通学なのにこれをどうやって持って行けと!? 羨ましがられる前にドン引かれるわっ! あと、自分で自慢の美人のお姉さんとか言うなし」
「あはは~。ユウ君のツッコミは今日もキレッキレやねぇ」
僕の姉貴はまあ、こういう人だ。茶目っ気というか愉快犯な一面があり、ちょいちょいこういう手の込んだイタズラを仕掛けてくる。
その姉貴の後ろからピョコンと小柄な美少女──小六の妹の咲良が飛び出してきてふんすと胸を張る。見覚えのない白黒のシンプルなデザインのメイド服に身を包み、ロングの黒髪をツインテールに結んでいて、控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い。
「兄上兄上! ワタシも姉上の手伝いをしたのだぞ」
「おぉ、サクも手伝ってくれたんかぁ! おおきんな! てかそのメイド服なっとしたん? サイズもぴったりやし、めっちゃ可愛ええやん!」
「むっふー。姉上が作ってくれたのだ。あと髪もツインテールに結んでくれたのだ」
いかにもコスプレっぽい装飾過多なメイド服ではなく、あくまでも家事作業のしやすさに特化したシンプルで実用的なメイド服に身を包んだ小柄な黒髪美少女のツインテールとか解釈一致すぎる。最近姉貴が自室でこそこそ作ってたんはこれやったか。
姉貴に向けてビシッとサムズアップする。
「マジかよ沙羅姉、マジグッジョブ! いやもう完全に解釈一致だわ。可愛さと実用性のバランスが良すぎる! てかうちの妹マジで天使過ぎる!」
「やんな! やんな! さくにゃんのリクエストが動きやすさ重視の家事をしやすい服やったから割烹着もええかなー思ってんけど、やっぱりここはメイド服一択やんな!」
「おぅふ……割烹着女子のサクやと? それもええなぁ。……けど、まずはメイド服を選んだのは正義や!」
「むふ。ワタシは引きこもりやニートなどではなく、あくまで家事手伝いなのだ。だからちゃんと規則正しい生活をして家のことも積極的にこなすのだ。これはそのための制服なのだ」
「うんうん。サクは本当にえらいなぁ。俺の自慢の妹だよ」
僕に頭を撫でられてにへへと笑う咲良を姉貴が後ろからぎゅうっと抱き締めて頬擦りする。
「あーもう、さくにゃんが可愛いよぅ。さくにゃんマジ天使! この小さいメイドさんが家事のお手伝いをしてくれるとか、もうお姉ちゃん幸せすぎるんだけど~。家事が至福の時間すぎるんだけど~」
「あ、あにぇうえ! しまってる! しまってるから! くるひい……ぐえ……」
これもまた我が家でのいつもの光景。
色々と事情があって学校に行けなくなった妹は、ポジティブに開き直って母や姉貴を師事して文字通りの家事手伝いに真剣に取り組んでおり、僕ら家族はそんな彼女の決定を尊重し、決して行動を急かすようなことはせず、ただ愛情を注ぐと決めた。
小学校は出席日数が足りないからといって卒業できないわけじゃないし、勉強は僕らが教えてやれる。そもそも妹はマジモンの天才だからもし日本に飛び級制度があれば高校生にだってなれるレベルだ。無理して学校に行って心を病むよりずっといい。
咲良は僕と姉貴にとって誰よりも大切な存在なのだから。
【作者コメント】
旧作版では登場しなかった妹の咲良ですが、実際に登場させてみると……ちょっとキャラが良すぎんか? ちなみに大内山牛乳は三重県南部の学校給食ではお馴染みのご当地牛乳です。スーパーではちょっとお高め。牧場は大紀町大内山にあり、見学や体験もできます。
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