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14.笑顔(佑樹)
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「そんで、話って?」
なかなか切り出す様子がないからこっちから振ってみた。
「うん、そうそう。宮本君さ、バイクに詳しいんやんな?」
「まあ、そこそこな」
「ワイズベーカリーってパン屋さんに勤めてるサラさんって知っとるよな?」
「……っ!」っと危うく吹きそうになった。あなたが今頬張っている玉子焼きを作った人ですがな。
「……そりゃ、知っとるけどなんで?」
「実はな、あたし、自動二輪免許取りに今週から車校に通い始めたんさ」
「え、マジで? ほんの先週まで興味ないってゆうとったのにどういう心境の変化なん?」
「いや、それがさー、運命の出会いってゆうか、どうしても乗りたいバイクに出会ってしもてこれはもう免許取らなと思って」
ああ、その理由なら納得や。むしろその理由で納得できないバイク乗りはほぼ皆無だろう。
「うん。それならしゃーない。そんで?」
「うん。講習はシミュレーションだけ受けて、実技はまだこれからなんやけど、あたしが乗りたいバイクを探しにバイク屋に行ったら廃番になってて売ってなくてさ、現行モデルは解釈違いやったからサラさんに相談したら、会話の中であたしと宮本君がクラスメイトやって知って、それなら宮本君に相談するんがええよって教えてくれたんさ。宮本君がサラさんの[もんちー]の整備をしとるんやんな?」
んー? この言い方からして姉貴の奴、僕と姉弟だって伝えてない? あの愉快犯、今度は何を企んでる?
「あー、はいはい。そういうことな。……ってことは大倉さんが乗りたいバイクって旧タイプのモンキー?」
「うんうん。そやにー。ワイズベーカリーさんの前に停まってた[もんちー]に一目惚れしてな! そしたらサラさんに後ろに乗せてくれてな! もうすっかりはまってしもてん」
いきなりモンキーで二人乗りって姉貴の奴なにやっとるんや。ただまあ大倉さんがモンキーに乗りたい動機はよーく分かった。
「わかった。まあモンキーのことやったらそれなりに理解はしとるで教えられるとは思うけど、何が訊きたいん?」
「そやなー、正直訊きたいことはめっちゃあんねんけど、やっぱ一番大事なんはあれやんな。いい中古のモンキーの選び方とオススメのバイク屋さんかな。サラさんからはネットで買うのは止められてさ、後々の整備のことを考えたら地元のバイク屋で買ってそこで面倒診てもらうんが一番やって」
「あー、それはそうやな。ネットで買うんは自分で整備できる奴じゃないとやめといた方がええな。……ちなみに旧タイプもバリエーション色々あるけどどういうのがいいとか希望はあるん?」
「いやーそれがよう分からんのよね。ネットの画像やと結構カスタムされてるのも多くて逆に違いが分からへんし、そもそもサラさんの[もんちー]もだいぶ本来の形からは変わっとるよなぁ?」
「はい。犯人は私です。私がやりました」
「お前やったんかぁ! ……いやまあそれはええんよ。つまり、サラさんの[もんちー]に見た目を寄せようと思ったら後からでもできるってことやんな。だったら、あのサイズの車体とあの丸っこくて可愛い燃料タンクさえ押さえてくれればそれ以外には要望はないかなぁ」
「5リットルタイプがご所望か。それなら……ん? あー、もしかしてそういうことなんかな?」
なんとなく姉貴がなんで大倉さんを僕に接触させたのか狙いが見えてきた気がする。
「え? なに、なんかあるん?」
「いや、ちょっとまだ一旦この話は後回しにしてええかな? 裏でなにやら企んでる愉快犯をちょっと問い詰めたい」
「愉快犯ってサラさんのこと?」
「そやで。奴はおっとりしてるようで意外と策士で腹黒いからな」
「辛辣ぅ」
「まあとりあえず、大倉さんが乗るモンキーのことは一旦後回しにして……他になんか訊きたいことない?」
「訊きたいことというか……その、折り入って相談が」
「なにかな?」
「宮本君はあたしが中学時代は陸上一筋やったん知っとるから恥を忍んで言うんやけど…………あたし……ぁ……なんよ」
「え、なんて?」
「や、だからその、あたし……アホなんよ。勉強とかぜんぜんしてこやんかったから、今でも授業の内容割とちんぷんかんぷんやし、車校の座学もぜったいヤバいんよ」
「…………あ~」
「しかも車校の座学のテストって95点以上取らんと不合格って聞いとるから割と途方に暮れとるんよね」
「…………うん。で、俺にどうせぇと?」
まあなんとなく流れ的に予想は付くが。
「……その、良かったら勉強に付き合ってくれんかな、って。宮本君もちょっと前に免許取ったばかりやったらそのへんの記憶もまだ新しいんやないかなって」
「あー、おけおけ。まあ俺にできることやったら力になるわ。車校で座学を受けた次の日に授業の復習とか、テスト対策とか一緒にするんはどう?」
「助かるよぅ。おおきんなぁ。宮本君」
大倉さんがホッとしたように表情を崩して柔らかい笑みを浮かべる。健康的に日焼けした小麦色の頬にえくぼが出来て、口元からチャーミングな八重歯が覗く。彼女のこんな笑顔を見るのは中学以来だ。当然、他のクラスメイトたちが見たことがあるはずもなく。
──ざわっ
「あの鉄面皮の大倉さんが笑っとるで!」「マジで!? 笑うんやあの人」「宮本すげぇ!」「……ってか笑ってる大倉さんって実はかなり可愛いくね?」「ああ、やべぇな」
遠巻きにこちらの様子を伺っていたクラスメイトたちがざわつき、僕もずいぶん久しぶりに見る彼女の笑顔に不意打ちを喰らい、不覚にもかなり動揺してしまった。無表情な大倉さんにすっかり慣れてしまっていたけど、彼女にはやっぱり笑顔が似合う。笑顔の大倉さんは、なんというかその、すごくいい感じなのだ。
【作者コメント】
モンキーは年式によって燃料タンクの容量と形が変わります。1969年に登場したZ50A、1972年に登場のZ50Zは3㍑タンク。1974年登場のZ50Jは4㍑タンク。1978年登場のZ50JZからモンキーのトレードマークと言えるティアドロップ型5㍑タンクに変わり、これがAB27型にも継承され、2007年まで約30年に渡って使われます。
香奈のこだわりポイントである丸っこい燃料タンクという条件を満たすのは`78~`07モデルということになりますね。
なかなか切り出す様子がないからこっちから振ってみた。
「うん、そうそう。宮本君さ、バイクに詳しいんやんな?」
「まあ、そこそこな」
「ワイズベーカリーってパン屋さんに勤めてるサラさんって知っとるよな?」
「……っ!」っと危うく吹きそうになった。あなたが今頬張っている玉子焼きを作った人ですがな。
「……そりゃ、知っとるけどなんで?」
「実はな、あたし、自動二輪免許取りに今週から車校に通い始めたんさ」
「え、マジで? ほんの先週まで興味ないってゆうとったのにどういう心境の変化なん?」
「いや、それがさー、運命の出会いってゆうか、どうしても乗りたいバイクに出会ってしもてこれはもう免許取らなと思って」
ああ、その理由なら納得や。むしろその理由で納得できないバイク乗りはほぼ皆無だろう。
「うん。それならしゃーない。そんで?」
「うん。講習はシミュレーションだけ受けて、実技はまだこれからなんやけど、あたしが乗りたいバイクを探しにバイク屋に行ったら廃番になってて売ってなくてさ、現行モデルは解釈違いやったからサラさんに相談したら、会話の中であたしと宮本君がクラスメイトやって知って、それなら宮本君に相談するんがええよって教えてくれたんさ。宮本君がサラさんの[もんちー]の整備をしとるんやんな?」
んー? この言い方からして姉貴の奴、僕と姉弟だって伝えてない? あの愉快犯、今度は何を企んでる?
「あー、はいはい。そういうことな。……ってことは大倉さんが乗りたいバイクって旧タイプのモンキー?」
「うんうん。そやにー。ワイズベーカリーさんの前に停まってた[もんちー]に一目惚れしてな! そしたらサラさんに後ろに乗せてくれてな! もうすっかりはまってしもてん」
いきなりモンキーで二人乗りって姉貴の奴なにやっとるんや。ただまあ大倉さんがモンキーに乗りたい動機はよーく分かった。
「わかった。まあモンキーのことやったらそれなりに理解はしとるで教えられるとは思うけど、何が訊きたいん?」
「そやなー、正直訊きたいことはめっちゃあんねんけど、やっぱ一番大事なんはあれやんな。いい中古のモンキーの選び方とオススメのバイク屋さんかな。サラさんからはネットで買うのは止められてさ、後々の整備のことを考えたら地元のバイク屋で買ってそこで面倒診てもらうんが一番やって」
「あー、それはそうやな。ネットで買うんは自分で整備できる奴じゃないとやめといた方がええな。……ちなみに旧タイプもバリエーション色々あるけどどういうのがいいとか希望はあるん?」
「いやーそれがよう分からんのよね。ネットの画像やと結構カスタムされてるのも多くて逆に違いが分からへんし、そもそもサラさんの[もんちー]もだいぶ本来の形からは変わっとるよなぁ?」
「はい。犯人は私です。私がやりました」
「お前やったんかぁ! ……いやまあそれはええんよ。つまり、サラさんの[もんちー]に見た目を寄せようと思ったら後からでもできるってことやんな。だったら、あのサイズの車体とあの丸っこくて可愛い燃料タンクさえ押さえてくれればそれ以外には要望はないかなぁ」
「5リットルタイプがご所望か。それなら……ん? あー、もしかしてそういうことなんかな?」
なんとなく姉貴がなんで大倉さんを僕に接触させたのか狙いが見えてきた気がする。
「え? なに、なんかあるん?」
「いや、ちょっとまだ一旦この話は後回しにしてええかな? 裏でなにやら企んでる愉快犯をちょっと問い詰めたい」
「愉快犯ってサラさんのこと?」
「そやで。奴はおっとりしてるようで意外と策士で腹黒いからな」
「辛辣ぅ」
「まあとりあえず、大倉さんが乗るモンキーのことは一旦後回しにして……他になんか訊きたいことない?」
「訊きたいことというか……その、折り入って相談が」
「なにかな?」
「宮本君はあたしが中学時代は陸上一筋やったん知っとるから恥を忍んで言うんやけど…………あたし……ぁ……なんよ」
「え、なんて?」
「や、だからその、あたし……アホなんよ。勉強とかぜんぜんしてこやんかったから、今でも授業の内容割とちんぷんかんぷんやし、車校の座学もぜったいヤバいんよ」
「…………あ~」
「しかも車校の座学のテストって95点以上取らんと不合格って聞いとるから割と途方に暮れとるんよね」
「…………うん。で、俺にどうせぇと?」
まあなんとなく流れ的に予想は付くが。
「……その、良かったら勉強に付き合ってくれんかな、って。宮本君もちょっと前に免許取ったばかりやったらそのへんの記憶もまだ新しいんやないかなって」
「あー、おけおけ。まあ俺にできることやったら力になるわ。車校で座学を受けた次の日に授業の復習とか、テスト対策とか一緒にするんはどう?」
「助かるよぅ。おおきんなぁ。宮本君」
大倉さんがホッとしたように表情を崩して柔らかい笑みを浮かべる。健康的に日焼けした小麦色の頬にえくぼが出来て、口元からチャーミングな八重歯が覗く。彼女のこんな笑顔を見るのは中学以来だ。当然、他のクラスメイトたちが見たことがあるはずもなく。
──ざわっ
「あの鉄面皮の大倉さんが笑っとるで!」「マジで!? 笑うんやあの人」「宮本すげぇ!」「……ってか笑ってる大倉さんって実はかなり可愛いくね?」「ああ、やべぇな」
遠巻きにこちらの様子を伺っていたクラスメイトたちがざわつき、僕もずいぶん久しぶりに見る彼女の笑顔に不意打ちを喰らい、不覚にもかなり動揺してしまった。無表情な大倉さんにすっかり慣れてしまっていたけど、彼女にはやっぱり笑顔が似合う。笑顔の大倉さんは、なんというかその、すごくいい感じなのだ。
【作者コメント】
モンキーは年式によって燃料タンクの容量と形が変わります。1969年に登場したZ50A、1972年に登場のZ50Zは3㍑タンク。1974年登場のZ50Jは4㍑タンク。1978年登場のZ50JZからモンキーのトレードマークと言えるティアドロップ型5㍑タンクに変わり、これがAB27型にも継承され、2007年まで約30年に渡って使われます。
香奈のこだわりポイントである丸っこい燃料タンクという条件を満たすのは`78~`07モデルということになりますね。
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