大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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  翌朝、韓媛からひめは父親のつぶらとも少し話しが出来た。だがまだ安静にする必要がある為、すぐに彼の部屋を後にして自分の部屋に戻ってきた。

  結局の所、どうして彼が突如倒れたのか、その原因は不明なままである。

「お父様の容態が落ち着いたのは本当に良かったけど、どうして今回こんな事になったのかしら……」

  そんな父の事を思っていると、ふと韓媛は、先日彼から受け取った短剣を思い出した。

「確かあの剣は、災いごとを断ち切る剣と呼ばれてたのよね」

  その事を思い出した彼女は、その剣を取ってきて、鞘から取り出した。
  剣自体は少し古そうだが、とても作りの良い物に見える。素材ももしかしたら、この時代では珍しい鉄かもしれない。

「ふーん、やはり見た目は普通の短剣ね。でも災いごとを断ち切る意味があると言うのなら、儀式か何かで使われていたのかしら?」

  韓媛は軽くその剣を振ってみた。やはり剣の割りに比較的軽く、これなら自身の着ている服の中に忍ばせても大丈夫そうだ。

(これだけ軽いと、護身用としても申し分ない剣ね)

「この剣で本当に災いごとを断ち切れるのなら、どうかお父様を守って……」

  韓媛は両手で剣を握り、思わず目をつぶって祈った。

  すると何故だか、剣が少し熱くなってきた感じがする。
  韓媛が変だなと思っていると、急に彼女の脳裏に、不思議な光景が見えた。

「ここは、この家の食料等がおいてある部屋だわ?」

  彼女がその光景を見ていると、その部屋に1人の男性がいた。彼はお酒の中に何か薬のような物を入れている。

(あの人は、どうやらお父様の従兄弟の能吐のとのようね)

「よし、これで準備は出来た。これぐらいの量で大丈夫だろう。この酒は円個人の物だから、本人が飲んで数日後には毒が回って反応が出てくるはずだ。
  それにもしこの毒がバレたとしても、大和にあった毒だから、最悪大和に濡れ衣を着せれば良い。
  まぁ、そうなると真っ先に疑われるのは、最近ここに来ている大泊瀬皇子おおはつせのおうじだろう」

(これは一体どういう事なの……まさか能吐は、お父様を狙って今回の事を行ったというの)

  円の従兄弟にあたる葛城能吐は、韓媛達が住んでいるこの場所から少し行った所に住んでいる。ここにも時々やって来るため、ここの住居の作りも良く理解していた。

「まぁ、体が不自由になるだけで、命までは失くならないだろう。そうなれば、葛城の実権は俺が握れる可能性が十分に出てくる」

  韓媛はその話しを聞いてゾッとした。これは彼女の父である葛城円を失脚させるために、能吐が考えたことのようだ。

「そうすると、お父様は今後体が不自由になって、葛城の実権を握れなくなってしまう。しかも、もし毒の事が知られたら、その濡れ衣を大泊瀬皇子に着せようとまで考えている……」

  そう思うと、韓媛はふつふつと怒りが込み上げてきた。こんな事は絶対に許される事ではない。能吐はそこまでして、葛城の実権を握りたいのだろうか。


(これが、この剣が見せる災いなのね……)

  韓媛は誰かに言われた訳でもなく、そう確信した。そしてこの災いをこの剣で断ち切る事が出来るような気がしてきた。

「お願い、この災いごとを断ち切って!」

  韓媛がそう強く思い、その光景の中で剣を振った。すると『プチッ』と何かの糸が切れたような感覚がした。

  そして、その瞬間に彼女はハッと我に返った。

  彼女は自分の部屋の中にいる。彼女の持っていた剣も、それまであった熱が徐々に無くなっていき、元の状態に戻った。

「こ、これが災いを断ち切るって事なの?」


  とりあえず彼女は、その後何か変わった事が起きてないか気になり、再度円の元に行ってみる事にした。

  韓媛が円の元に向かっていると、前から葛城能吐かつらぎののとが現れた。彼を見た瞬間、彼女は少し身震いがした。

  能吐は韓媛に会ったので、とりあえず挨拶だけする事にした。

「おや、誰かと思えば韓媛じゃないか。今回は本当にお父上の円が災難だったね。その後体調は大丈夫なのか」

  それを聞いた韓媛は、また怒りが込み上げてきた。この男は本当に許せない。

「それは、あなたがお父様に毒を盛ったのが原因なのでしょう、能吐」

  それを聞いた能吐は、とても驚いたように眼をみはった。そして何故この娘はその事を知っているのだと言いたげそうな表情をしている。

「韓媛、一体お前は何を言ってるんだ。じ、冗談じゃない。何故私がそんな事を」

  彼のひどく驚いた表情を見て、やはり先程の光景は本当だったんだと韓媛は思った。

「冗談などではないわ!  お父様のお酒に毒を入れたのでしょう。それにもし毒の事が知られたら、大泊瀬皇子に濡れ衣を着せようって魂胆までして」

  能吐はそこまで言われて、驚きの余りその場で笑いだした。

「韓媛、何故お前がそんな事を知ってるのだ。酒に毒を入れた事だけならまだしも、大泊瀬皇子へ濡れ衣を着せようって魂胆まで知っているとは。だがその証拠がないと、私をどうする事も出来ないぞ」

  それを聞いて、韓媛はハッとした。確かに能吐が実際にお酒に毒を入れた事が証明出来ないと、どうする事も出来ない。

「韓媛、お前も軽々しくそういう事を言うものではないぞ。お前の父親も今回命だけは助かったが、次回はどうなるか分からないからな」

  韓媛は悔しさの余り、ぶるぶると体を震わせた。しかしふとある事を思い出した。

「でも、その毒は大和から手に入れた物なのでしょう。であれば、大和に確認したらあなたが毒を手に入れた事が分かるのではない?ただ大泊瀬皇子に濡れ衣を着せようって話しだから、そう簡単には証拠は見つからないかもしれないけど」

  それを聞いた能吐は、それまでとは打ってかわって表情が急に変わった。

(俺がやり取りしていた大和の奴には、俺が毒を受け取った事を口止めさせている。だがそれも絶対にバレない保証はない。これは毒が見つかった時の最終手段だ)
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