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59《息長にて》
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こうして忍坂姫の提案から2週間程した後、彼らは忍坂姫の実家である息長へと向かうこととなった。
「まさか私まで誘われるとは本当に意外でした」
韓媛は馬に乗った状態で思わず呟く。少し前に大泊瀬皇子が自分の元にきた時に今回の件を聞いた訳だが、とりあえず特に断る理由も無かったので、彼女は同行することにした。
「あぁ、今回は本当に済まない……」
韓媛の後ろにいる大泊瀬皇子が、少し申し訳無さそうにしていった。
彼女は今、大泊瀬皇子が乗っている馬に一緒に乗って移動している。
今回は近江の息長まで行くのだが、目的地までは丸1日はかかる距離だ。
そしてそんな2人の前では市辺皇子と阿佐津姫が同じ馬に乗っている。
阿佐津姫は初め市辺皇子と同じ馬に乗ることに酷く腹を立てたが、忍坂姫より「良い大人なのだから」といわれてしまい、渋々市辺皇子と一緒の馬に乗ることにした。
だが実際に馬に乗ってしまうと、意外に彼女は落ち着いている。
そしてそこまで仲は良くないが、後ろの市辺皇子とも少し会話が出来ているようだ。
逆に市辺皇子は至って穏やかで、彼女の話しに耳を傾けている。
そんな2人を韓媛は少し不思議そうに見ていた。
「ねぇ大泊瀬皇子。こうして市辺皇子と阿佐津姫を見ていると、少し不思議な感じに思えます」
「うん?韓媛それは一体どういうことだ?」
大泊瀬皇子は韓媛にそういわれたので思わず前の2人を見る。だが彼らには特に変わった様子は見られない。
「あの2人、特に仲が良い訳ではないけれど、お互いのことを良く分かっているというか……何か通じあうものがあるように思えて、まるで恋人同士のようだわ」
韓媛はこの2人が一緒にいるのを初めて見る。そんな彼女からすると彼らはとても不思議な光景に思えた。
「そうか、俺には全くそんな風には見えない」
大泊瀬皇子は余り心の入っていない風な口調でそう答える。
韓媛は大泊瀬皇子にそう言われてもなお、しばらくそんな2人を見ていた。
(確か市辺皇子は元々阿佐津姫に婚姻の申し込みをしていたのよね。それと何か関係があるのかしら)
今回韓媛は阿佐津姫には初めて会うことになった。大泊瀬皇子が以前いっていたように、とても顔立ちの整った女性に見える。
きっと今より若かった頃は、さぞ綺麗だったことだろう。
なので市辺皇子以外にも、彼女を娶りたいと思った男性は沢山いたのではないかと、韓媛は思う。
だが意外に彼女は親戚の物部の青年の元に嫁いでいった。
当時彼らの間に一体何があったのだろうか。
「ねぇ、大泊瀬皇子。もし阿佐津姫がもっと若くて、誰にも嫁いでいなければ、彼女を娶りたいと思いますか?」
韓媛はふと気になって大泊瀬皇子に聞いた。元々彼は皇女を正妃にと望んでいたので、阿佐津姫のような姫がいたら、婚姻の申し込みを考えたりはしなかっただろうかと。
「ふん、どうだろうな。仮にもし俺が申し出た所であっさりと跳ね返されるだろう。というか、それ以前に俺はああいう性格のきつい娘は好きではない」
大泊瀬皇子は全く何の動揺もなくそういい切った。
「あら、そうですか。まぁ大泊瀬皇子らしい答えですね」
韓媛はそれを聞いて少し可笑しくなってしまい、前の2人に気付かれないようにしながら少し笑う。
特に嫉妬する訳ではないが、彼がどんな姫に興味を持つのか少し気になった。
そんな韓媛の様子を見て大泊瀬皇子は、どうして女性はこういう内容の話しを話題にしたがるのかと、少し呆れる。
「まぁ、そういう意味でいうと、俺はお前が相手で本当に良かったと思う」
そういって彼は韓媛の頭を軽く「ポンポン」と叩いた。
彼からしてみればきっとこれは本心なのだろう。
「まぁ、大泊瀬皇子ったら、うふふ」
韓媛は大泊瀬皇子にそういわれて、とても嬉しい気分になった。
どうして彼が自分を選んだのかは正直分からないが、そんな彼に好いてもらえて、今は本当に幸せだなと思う。
韓媛がそんなことを考えていると、彼女らの横に別の馬が並んできた。相手を見ると、それは忍坂姫と彼女の従者の者だった。
「あなた達、何こんな所で必要以上に仲良さげにしているのよ。まぁ気持ちも分からなくもないけど」
忍坂姫はそんな2人を見て、少し愉快そうにしながらいった。
「ただ普通に話しをしているだけだ。別に誰かに迷惑をかけている訳ではない」
大泊瀬皇子は忍坂姫にそういわれて、少し不愉快そうな表情を見せる。
「別に怒っていっている訳ではないでしょう。まぁ仲良くしたいなら、他の人の目の入らない所でするようにしなさい」
忍坂姫は少し呆れたような感じで自身の息子にいった。
一方韓媛は忍坂姫と大泊瀬皇子の間に挟まれて、中々上手く言葉が出てこない。
(この感じ、少し気まずいわ……)
忍坂姫もそんな韓媛の様子を見てどうも察したらしく、続けていった。
「じゃあ私は先に行ってるわ。韓媛もこんな息子で本当にごめんなさいね」
忍坂姫はそういうと、前にいる市辺皇子と阿佐津姫の元に走っていった。
そんな彼女らを後ろから見て、大泊瀬皇子は少しため息をこぼす。
「母上は少しお節介な所があるからな。きっと俺たちのことが気になって声をかけてきたのだろう」
そんな彼の言葉を聞いて、韓媛もやはり母親というのはそういうものなのかと思った。自分の母親がまだ生きていたならば、今頃はどう思っていたのだろうか。
「とりあえず、今日中には息長には入れるだろう。明日は1日休んでその翌日に俺は狩りにいってくる。お前は申し訳ないが、母上達の相手を頼む」
大泊瀬皇子は韓媛に母親達の相手をさせることに、少し申し訳なく思う。
「はい、分かりました。私は皇后様達と楽しく息長で過ごしてますので、皇子達は心置きなく狩りにいってきて下さい」
韓媛は笑顔で大泊瀬皇子にそう答えた。韓媛も皇后の忍坂姫や阿佐津姫と色々話しをしてみるのは、心なしか楽しみである。
そして尚も彼らは馬を走り続けて、その日のうちに無事息長に辿り着くことができた。
「まさか私まで誘われるとは本当に意外でした」
韓媛は馬に乗った状態で思わず呟く。少し前に大泊瀬皇子が自分の元にきた時に今回の件を聞いた訳だが、とりあえず特に断る理由も無かったので、彼女は同行することにした。
「あぁ、今回は本当に済まない……」
韓媛の後ろにいる大泊瀬皇子が、少し申し訳無さそうにしていった。
彼女は今、大泊瀬皇子が乗っている馬に一緒に乗って移動している。
今回は近江の息長まで行くのだが、目的地までは丸1日はかかる距離だ。
そしてそんな2人の前では市辺皇子と阿佐津姫が同じ馬に乗っている。
阿佐津姫は初め市辺皇子と同じ馬に乗ることに酷く腹を立てたが、忍坂姫より「良い大人なのだから」といわれてしまい、渋々市辺皇子と一緒の馬に乗ることにした。
だが実際に馬に乗ってしまうと、意外に彼女は落ち着いている。
そしてそこまで仲は良くないが、後ろの市辺皇子とも少し会話が出来ているようだ。
逆に市辺皇子は至って穏やかで、彼女の話しに耳を傾けている。
そんな2人を韓媛は少し不思議そうに見ていた。
「ねぇ大泊瀬皇子。こうして市辺皇子と阿佐津姫を見ていると、少し不思議な感じに思えます」
「うん?韓媛それは一体どういうことだ?」
大泊瀬皇子は韓媛にそういわれたので思わず前の2人を見る。だが彼らには特に変わった様子は見られない。
「あの2人、特に仲が良い訳ではないけれど、お互いのことを良く分かっているというか……何か通じあうものがあるように思えて、まるで恋人同士のようだわ」
韓媛はこの2人が一緒にいるのを初めて見る。そんな彼女からすると彼らはとても不思議な光景に思えた。
「そうか、俺には全くそんな風には見えない」
大泊瀬皇子は余り心の入っていない風な口調でそう答える。
韓媛は大泊瀬皇子にそう言われてもなお、しばらくそんな2人を見ていた。
(確か市辺皇子は元々阿佐津姫に婚姻の申し込みをしていたのよね。それと何か関係があるのかしら)
今回韓媛は阿佐津姫には初めて会うことになった。大泊瀬皇子が以前いっていたように、とても顔立ちの整った女性に見える。
きっと今より若かった頃は、さぞ綺麗だったことだろう。
なので市辺皇子以外にも、彼女を娶りたいと思った男性は沢山いたのではないかと、韓媛は思う。
だが意外に彼女は親戚の物部の青年の元に嫁いでいった。
当時彼らの間に一体何があったのだろうか。
「ねぇ、大泊瀬皇子。もし阿佐津姫がもっと若くて、誰にも嫁いでいなければ、彼女を娶りたいと思いますか?」
韓媛はふと気になって大泊瀬皇子に聞いた。元々彼は皇女を正妃にと望んでいたので、阿佐津姫のような姫がいたら、婚姻の申し込みを考えたりはしなかっただろうかと。
「ふん、どうだろうな。仮にもし俺が申し出た所であっさりと跳ね返されるだろう。というか、それ以前に俺はああいう性格のきつい娘は好きではない」
大泊瀬皇子は全く何の動揺もなくそういい切った。
「あら、そうですか。まぁ大泊瀬皇子らしい答えですね」
韓媛はそれを聞いて少し可笑しくなってしまい、前の2人に気付かれないようにしながら少し笑う。
特に嫉妬する訳ではないが、彼がどんな姫に興味を持つのか少し気になった。
そんな韓媛の様子を見て大泊瀬皇子は、どうして女性はこういう内容の話しを話題にしたがるのかと、少し呆れる。
「まぁ、そういう意味でいうと、俺はお前が相手で本当に良かったと思う」
そういって彼は韓媛の頭を軽く「ポンポン」と叩いた。
彼からしてみればきっとこれは本心なのだろう。
「まぁ、大泊瀬皇子ったら、うふふ」
韓媛は大泊瀬皇子にそういわれて、とても嬉しい気分になった。
どうして彼が自分を選んだのかは正直分からないが、そんな彼に好いてもらえて、今は本当に幸せだなと思う。
韓媛がそんなことを考えていると、彼女らの横に別の馬が並んできた。相手を見ると、それは忍坂姫と彼女の従者の者だった。
「あなた達、何こんな所で必要以上に仲良さげにしているのよ。まぁ気持ちも分からなくもないけど」
忍坂姫はそんな2人を見て、少し愉快そうにしながらいった。
「ただ普通に話しをしているだけだ。別に誰かに迷惑をかけている訳ではない」
大泊瀬皇子は忍坂姫にそういわれて、少し不愉快そうな表情を見せる。
「別に怒っていっている訳ではないでしょう。まぁ仲良くしたいなら、他の人の目の入らない所でするようにしなさい」
忍坂姫は少し呆れたような感じで自身の息子にいった。
一方韓媛は忍坂姫と大泊瀬皇子の間に挟まれて、中々上手く言葉が出てこない。
(この感じ、少し気まずいわ……)
忍坂姫もそんな韓媛の様子を見てどうも察したらしく、続けていった。
「じゃあ私は先に行ってるわ。韓媛もこんな息子で本当にごめんなさいね」
忍坂姫はそういうと、前にいる市辺皇子と阿佐津姫の元に走っていった。
そんな彼女らを後ろから見て、大泊瀬皇子は少しため息をこぼす。
「母上は少しお節介な所があるからな。きっと俺たちのことが気になって声をかけてきたのだろう」
そんな彼の言葉を聞いて、韓媛もやはり母親というのはそういうものなのかと思った。自分の母親がまだ生きていたならば、今頃はどう思っていたのだろうか。
「とりあえず、今日中には息長には入れるだろう。明日は1日休んでその翌日に俺は狩りにいってくる。お前は申し訳ないが、母上達の相手を頼む」
大泊瀬皇子は韓媛に母親達の相手をさせることに、少し申し訳なく思う。
「はい、分かりました。私は皇后様達と楽しく息長で過ごしてますので、皇子達は心置きなく狩りにいってきて下さい」
韓媛は笑顔で大泊瀬皇子にそう答えた。韓媛も皇后の忍坂姫や阿佐津姫と色々話しをしてみるのは、心なしか楽しみである。
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