大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

文字の大きさ
60 / 78

60

しおりを挟む
  そして次の日の日中のことである。

  阿佐津姫あさつひめがじろじろと韓媛からひめを見ながら、彼女に話しかけてきた。

「あの大泊瀬おおはつせが相当入れ込む相手だから、どんな娘かと思っていたけど、まさかこんな可愛い子だったなんて……」

  阿佐津姫はそんな韓媛を見て思わずため息をついた。

「本当にそうよ。まぁあの子も女性を見る目だけはあったようね。
  最初葛城かつらぎへの代理には自分が行きたいと、雄朝津間おあさづまに散々いっていたみたい。夫も息子にそこまでお願いされては、流石に駄目ともいえなくなって」

  韓媛は忍坂姫にそういわれて、何となくその光景が浮かぶようで、少し恥ずかしくなる。

  そして恥ずかしさの余り、思わず顔を下に向けてしまった。
  今の大泊瀬皇子おおはつせのおうじなら十分に考えられることだ。

  そんな大泊瀬皇子は女性3人の話しに入るのがどうも嫌だったようで、明日の狩りの準備をするといって、外に出て行ってしまった。

  また市辺皇子いちのへのおうじも、折角息長おきながにきたのでこの辺りを馬で見て回ると話し、同じくこの場から離れていった。

(本当に、私はどう答えたら良いのかしら……)

  韓媛はそんな2人の女性に対して、言葉に困ってしまう。

「まぁ昨日から見ている限り、大泊瀬なりには韓媛を大事にしているように見えたわ。叔母様、とりあえずは大丈夫そうね」

  阿佐津姫は少し呆れながらも、とてもほっとしたような表情で忍坂姫にいった。

「まぁ、確かにそうみたいね」

  忍坂姫も内心はとても喜んでいるようだ。

  只でさえ一度切れると何をするか分からない息子なので、妃になるような女性を本当に大事に出来るのか、忍坂姫は少し心配していたのだろう。

「でも自身の初恋をそのまま成就まで持っていくなんて、本当に大泊瀬らしいというか...」

「え、私大泊瀬皇子の初恋だったのですか?」

  韓媛も流石にこれは初耳だった。ただ当時12歳頃の時点で自分を妃に考えていたのだから、確かにあり得る話ではある。

「ええ、そうよ。どうもあの子は一度好きになると、そのまま突っ走る傾向があったみたい」

  忍坂姫は少し愉快そうにしながらそういった。彼女はそんな息子を特に止める訳でもなく、そのまま温かく見守っていたのだろう。

「ここまでくると、驚きを通り越して本当に呆れてくるわ」

  ただ阿佐津姫の方は、本当に信じられないといった感じで彼を見ていたようだ。

  その時ふと韓媛は、昨日の阿佐津姫と市辺皇子の様子を思い出した。

(どうしよう、今ここで聞いてみても良いのかしら?)


「そういえば、阿佐津姫も昔他の男性から婚姻の申し込みがあったと聞きました。しかもその相手が、あの市辺皇子だったとか……」

  韓媛は恐る恐るこのことを聞いてみた。


「あぁ、そのことね」

  だが阿佐津姫は特に驚いたり、動揺する訳でもなく、何とも平然とした口調で答えた。

  彼女からすればかなり昔の話しなので、もう今さら特に動揺する訳でもないのだろうか。

「私昔からどうも彼とは気が合わないのよ。いつも上から目線だし、一緒になったって疲れるだけだわ」

  阿佐津姫は本当にやれやれといった感じで韓媛にそう答えた。どうやら市辺皇子のことは特に何とも思っていないような口調だ。

(大泊瀬皇子も市辺皇子のことは苦手に思っているようだし、そういうものなのかしら……)

  韓媛から見たら、市辺皇子は年の離れたとても優しい兄みたいな存在で、苦手に思うことは今まで全くなかった。

  市辺皇子と、阿佐津姫や大泊瀬皇子はそれぞれ従兄弟同士なのに、何故ここまで気が合わないのだろうか。

「まぁ、そういうものなのですね」

(ここに来る時の市辺皇子と阿佐津姫は割りと落ち着いて話しているふうに見えたけど、本音は違っていたということなのかしら)

  韓媛は彼らが何とも不思議な関係に思えて仕方ない。

「私が思うに、あなた達は変に意地をはる所もあったようにも見えるけど。まぁこればかりはどうしようもないわね」

  忍坂姫が横から話しに少し入ってきた。

  結局最終的には本人達が決めたことである。周りがとやかくいったところで仕方ないのだろう。

(でも市辺皇子は、阿佐津姫のことをどう思っていたのかしら。
  大泊瀬皇子と一緒で皇女が良いと思ったか、それとも本心では彼女を好いていたということは……)

  ただこれは市辺皇子本人に聞かないと分からないことだ。だが内容が内容なだけに、韓媛も中々彼には聞きずらい。

「それにしても、市辺皇子と大泊瀬はいつになったら帰って来るのやら……」

  忍坂姫はそういって少しため息をついた。

  息長まできても、2人は互いに極力関わりたくないように見える。

  韓媛もそんな忍坂姫を見て、きっと彼女も色々悩んでいたのだろうと思った。

  今大王が不在なこの状況下で、あの2人が険悪になるのは余りよろしくない。ここしばらく間に、数人の大王や皇子が亡くなっている。

(次の大王は恐らく、実質大泊瀬皇子と市辺皇子のどちらかになるはずだわ)

  大泊瀬皇子はこのことについて、何故か韓媛には全く話そうとしない。なので彼女も彼の前ではあえてこの話題には触れずにいた。

(大泊瀬皇子は本当の所どう考えてるのかしら。自分が次の大王になりたいと思ってるの?)

  だが内容が内容なだけに、もし彼に聞くなら、2人でいる時に聞いた方が良いだろう。
  どこで誰に聞かれるか分からないので、下手な話しは控えるべきだ。


  それからしばらくして、やっと2人の皇子が戻ってきたので、韓媛達も一旦解散することにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...