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そして次の日の日中のことである。
阿佐津姫がじろじろと韓媛を見ながら、彼女に話しかけてきた。
「あの大泊瀬が相当入れ込む相手だから、どんな娘かと思っていたけど、まさかこんな可愛い子だったなんて……」
阿佐津姫はそんな韓媛を見て思わずため息をついた。
「本当にそうよ。まぁあの子も女性を見る目だけはあったようね。
最初葛城への代理には自分が行きたいと、雄朝津間に散々いっていたみたい。夫も息子にそこまでお願いされては、流石に駄目ともいえなくなって」
韓媛は忍坂姫にそういわれて、何となくその光景が浮かぶようで、少し恥ずかしくなる。
そして恥ずかしさの余り、思わず顔を下に向けてしまった。
今の大泊瀬皇子なら十分に考えられることだ。
そんな大泊瀬皇子は女性3人の話しに入るのがどうも嫌だったようで、明日の狩りの準備をするといって、外に出て行ってしまった。
また市辺皇子も、折角息長にきたのでこの辺りを馬で見て回ると話し、同じくこの場から離れていった。
(本当に、私はどう答えたら良いのかしら……)
韓媛はそんな2人の女性に対して、言葉に困ってしまう。
「まぁ昨日から見ている限り、大泊瀬なりには韓媛を大事にしているように見えたわ。叔母様、とりあえずは大丈夫そうね」
阿佐津姫は少し呆れながらも、とてもほっとしたような表情で忍坂姫にいった。
「まぁ、確かにそうみたいね」
忍坂姫も内心はとても喜んでいるようだ。
只でさえ一度切れると何をするか分からない息子なので、妃になるような女性を本当に大事に出来るのか、忍坂姫は少し心配していたのだろう。
「でも自身の初恋をそのまま成就まで持っていくなんて、本当に大泊瀬らしいというか...」
「え、私大泊瀬皇子の初恋だったのですか?」
韓媛も流石にこれは初耳だった。ただ当時12歳頃の時点で自分を妃に考えていたのだから、確かにあり得る話ではある。
「ええ、そうよ。どうもあの子は一度好きになると、そのまま突っ走る傾向があったみたい」
忍坂姫は少し愉快そうにしながらそういった。彼女はそんな息子を特に止める訳でもなく、そのまま温かく見守っていたのだろう。
「ここまでくると、驚きを通り越して本当に呆れてくるわ」
ただ阿佐津姫の方は、本当に信じられないといった感じで彼を見ていたようだ。
その時ふと韓媛は、昨日の阿佐津姫と市辺皇子の様子を思い出した。
(どうしよう、今ここで聞いてみても良いのかしら?)
「そういえば、阿佐津姫も昔他の男性から婚姻の申し込みがあったと聞きました。しかもその相手が、あの市辺皇子だったとか……」
韓媛は恐る恐るこのことを聞いてみた。
「あぁ、そのことね」
だが阿佐津姫は特に驚いたり、動揺する訳でもなく、何とも平然とした口調で答えた。
彼女からすればかなり昔の話しなので、もう今さら特に動揺する訳でもないのだろうか。
「私昔からどうも彼とは気が合わないのよ。いつも上から目線だし、一緒になったって疲れるだけだわ」
阿佐津姫は本当にやれやれといった感じで韓媛にそう答えた。どうやら市辺皇子のことは特に何とも思っていないような口調だ。
(大泊瀬皇子も市辺皇子のことは苦手に思っているようだし、そういうものなのかしら……)
韓媛から見たら、市辺皇子は年の離れたとても優しい兄みたいな存在で、苦手に思うことは今まで全くなかった。
市辺皇子と、阿佐津姫や大泊瀬皇子はそれぞれ従兄弟同士なのに、何故ここまで気が合わないのだろうか。
「まぁ、そういうものなのですね」
(ここに来る時の市辺皇子と阿佐津姫は割りと落ち着いて話しているふうに見えたけど、本音は違っていたということなのかしら)
韓媛は彼らが何とも不思議な関係に思えて仕方ない。
「私が思うに、あなた達は変に意地をはる所もあったようにも見えるけど。まぁこればかりはどうしようもないわね」
忍坂姫が横から話しに少し入ってきた。
結局最終的には本人達が決めたことである。周りがとやかくいったところで仕方ないのだろう。
(でも市辺皇子は、阿佐津姫のことをどう思っていたのかしら。
大泊瀬皇子と一緒で皇女が良いと思ったか、それとも本心では彼女を好いていたということは……)
ただこれは市辺皇子本人に聞かないと分からないことだ。だが内容が内容なだけに、韓媛も中々彼には聞きずらい。
「それにしても、市辺皇子と大泊瀬はいつになったら帰って来るのやら……」
忍坂姫はそういって少しため息をついた。
息長まできても、2人は互いに極力関わりたくないように見える。
韓媛もそんな忍坂姫を見て、きっと彼女も色々悩んでいたのだろうと思った。
今大王が不在なこの状況下で、あの2人が険悪になるのは余りよろしくない。ここしばらく間に、数人の大王や皇子が亡くなっている。
(次の大王は恐らく、実質大泊瀬皇子と市辺皇子のどちらかになるはずだわ)
大泊瀬皇子はこのことについて、何故か韓媛には全く話そうとしない。なので彼女も彼の前ではあえてこの話題には触れずにいた。
(大泊瀬皇子は本当の所どう考えてるのかしら。自分が次の大王になりたいと思ってるの?)
だが内容が内容なだけに、もし彼に聞くなら、2人でいる時に聞いた方が良いだろう。
どこで誰に聞かれるか分からないので、下手な話しは控えるべきだ。
それからしばらくして、やっと2人の皇子が戻ってきたので、韓媛達も一旦解散することにした。
阿佐津姫がじろじろと韓媛を見ながら、彼女に話しかけてきた。
「あの大泊瀬が相当入れ込む相手だから、どんな娘かと思っていたけど、まさかこんな可愛い子だったなんて……」
阿佐津姫はそんな韓媛を見て思わずため息をついた。
「本当にそうよ。まぁあの子も女性を見る目だけはあったようね。
最初葛城への代理には自分が行きたいと、雄朝津間に散々いっていたみたい。夫も息子にそこまでお願いされては、流石に駄目ともいえなくなって」
韓媛は忍坂姫にそういわれて、何となくその光景が浮かぶようで、少し恥ずかしくなる。
そして恥ずかしさの余り、思わず顔を下に向けてしまった。
今の大泊瀬皇子なら十分に考えられることだ。
そんな大泊瀬皇子は女性3人の話しに入るのがどうも嫌だったようで、明日の狩りの準備をするといって、外に出て行ってしまった。
また市辺皇子も、折角息長にきたのでこの辺りを馬で見て回ると話し、同じくこの場から離れていった。
(本当に、私はどう答えたら良いのかしら……)
韓媛はそんな2人の女性に対して、言葉に困ってしまう。
「まぁ昨日から見ている限り、大泊瀬なりには韓媛を大事にしているように見えたわ。叔母様、とりあえずは大丈夫そうね」
阿佐津姫は少し呆れながらも、とてもほっとしたような表情で忍坂姫にいった。
「まぁ、確かにそうみたいね」
忍坂姫も内心はとても喜んでいるようだ。
只でさえ一度切れると何をするか分からない息子なので、妃になるような女性を本当に大事に出来るのか、忍坂姫は少し心配していたのだろう。
「でも自身の初恋をそのまま成就まで持っていくなんて、本当に大泊瀬らしいというか...」
「え、私大泊瀬皇子の初恋だったのですか?」
韓媛も流石にこれは初耳だった。ただ当時12歳頃の時点で自分を妃に考えていたのだから、確かにあり得る話ではある。
「ええ、そうよ。どうもあの子は一度好きになると、そのまま突っ走る傾向があったみたい」
忍坂姫は少し愉快そうにしながらそういった。彼女はそんな息子を特に止める訳でもなく、そのまま温かく見守っていたのだろう。
「ここまでくると、驚きを通り越して本当に呆れてくるわ」
ただ阿佐津姫の方は、本当に信じられないといった感じで彼を見ていたようだ。
その時ふと韓媛は、昨日の阿佐津姫と市辺皇子の様子を思い出した。
(どうしよう、今ここで聞いてみても良いのかしら?)
「そういえば、阿佐津姫も昔他の男性から婚姻の申し込みがあったと聞きました。しかもその相手が、あの市辺皇子だったとか……」
韓媛は恐る恐るこのことを聞いてみた。
「あぁ、そのことね」
だが阿佐津姫は特に驚いたり、動揺する訳でもなく、何とも平然とした口調で答えた。
彼女からすればかなり昔の話しなので、もう今さら特に動揺する訳でもないのだろうか。
「私昔からどうも彼とは気が合わないのよ。いつも上から目線だし、一緒になったって疲れるだけだわ」
阿佐津姫は本当にやれやれといった感じで韓媛にそう答えた。どうやら市辺皇子のことは特に何とも思っていないような口調だ。
(大泊瀬皇子も市辺皇子のことは苦手に思っているようだし、そういうものなのかしら……)
韓媛から見たら、市辺皇子は年の離れたとても優しい兄みたいな存在で、苦手に思うことは今まで全くなかった。
市辺皇子と、阿佐津姫や大泊瀬皇子はそれぞれ従兄弟同士なのに、何故ここまで気が合わないのだろうか。
「まぁ、そういうものなのですね」
(ここに来る時の市辺皇子と阿佐津姫は割りと落ち着いて話しているふうに見えたけど、本音は違っていたということなのかしら)
韓媛は彼らが何とも不思議な関係に思えて仕方ない。
「私が思うに、あなた達は変に意地をはる所もあったようにも見えるけど。まぁこればかりはどうしようもないわね」
忍坂姫が横から話しに少し入ってきた。
結局最終的には本人達が決めたことである。周りがとやかくいったところで仕方ないのだろう。
(でも市辺皇子は、阿佐津姫のことをどう思っていたのかしら。
大泊瀬皇子と一緒で皇女が良いと思ったか、それとも本心では彼女を好いていたということは……)
ただこれは市辺皇子本人に聞かないと分からないことだ。だが内容が内容なだけに、韓媛も中々彼には聞きずらい。
「それにしても、市辺皇子と大泊瀬はいつになったら帰って来るのやら……」
忍坂姫はそういって少しため息をついた。
息長まできても、2人は互いに極力関わりたくないように見える。
韓媛もそんな忍坂姫を見て、きっと彼女も色々悩んでいたのだろうと思った。
今大王が不在なこの状況下で、あの2人が険悪になるのは余りよろしくない。ここしばらく間に、数人の大王や皇子が亡くなっている。
(次の大王は恐らく、実質大泊瀬皇子と市辺皇子のどちらかになるはずだわ)
大泊瀬皇子はこのことについて、何故か韓媛には全く話そうとしない。なので彼女も彼の前ではあえてこの話題には触れずにいた。
(大泊瀬皇子は本当の所どう考えてるのかしら。自分が次の大王になりたいと思ってるの?)
だが内容が内容なだけに、もし彼に聞くなら、2人でいる時に聞いた方が良いだろう。
どこで誰に聞かれるか分からないので、下手な話しは控えるべきだ。
それからしばらくして、やっと2人の皇子が戻ってきたので、韓媛達も一旦解散することにした。
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