さかなのみるゆめ

ruki

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「そうだ、智。今年僕達は10周年だって気づいてた?すごいよね。僕達もう10年も一緒にいるんだよ。だからね、今年のプレゼントはすごく頑張っちゃった。きっと智もすごく気に入ってくれると思うよ。楽しみにしててね」

智明の本心になんて全然気づいてませんよ、という風に僕が無邪気にはしゃいでそう言うと、智明は目を細めて笑った。

「そうか。僕達10年になるんだ。プレゼント楽しみにしてるよ」

「うん。絶対に智が欲しいものだよ。期待してていいからね」

僕ははしゃいだままにっこり笑った。

その後朝食を終え、いつもなら一緒に家を出るところだけど、智明だけ先に出た。実は僕は先月から部署が変わって、出勤時間が変わったのだ。だから、僕の出る時間は智明よりも遅い。

・・・という嘘を智明はなんの疑いもなく信じている。

僕は智明を見送ったあと、しばらくしてからスーツを脱いで部屋着に着替えた。

本当は先月退職願を出して、受理されている。今は有給消化期間だ。

智明は知らない。僕が会社を辞めたことも、これから何をしようとしているかも・・・。

とりあえず僕は掃除や洗濯といった通常の家事をこなし、それが終わったら、クリスマスの準備を始めた。

スポンジケーキをオーブンに入れ、それが焼き上がるまでにチキンの下準備をする。そしてケーキと入れ替えてチキンをオーブンに入れると、シチューの仕込みに取り掛かった。

僕の好みでいつもクリームシチューだけど、智明は本当はどっちが好きなんだろう?

クリーム?それともビーフ?

シチューだけじゃない。
僕は智明の好みを全然知らない。

何が好きで、何が嫌いか。

僕の出すものはいつもおいしそうに食べてくれる。
実際『おいしい』と言って残したことがない。でも何を出しても同じ顔だ。特別喜ぶことも、嫌な顔もしない。いつもその顔は変わらない。

本当においしく食べてくれてたのかな?
本当は僕なんかが作る料理は食べたくなかったんじゃないかな・・・?

そう思うと胸が痛い。

僕はどれだけ智明にがまんを強いていたのだろう。

だけど、今日で解放してあげるね。

僕は料理を作り、ケーキを仕上げた。

それらを食卓に並べ、部屋をクリスマスで飾った頃、スマホがメッセージの受信を告げる。

『ごめん。やっぱり早くは帰れそうにない。先に寝てて』

予想通りのその言葉に、僕は思わず笑ってしまった。

『大丈夫だよ。無理しないでね。今日は10年目の記念の日だから、手紙書いたんだ。下のポストに入れておくから、マンションに着いたら必ずポストを見てね。せっかく書いたんだから、絶対に忘れないでね』

そしてにこにこ顔のスタンプを送った。
すると智明からも『OK』のスタンプが返ってくる。

それを確認して僕は料理にラップをかけ、ケーキを冷蔵庫にしまった。そして部屋からダンボールを持ってくると、キッチンとリビング、そして洗面所に置いてある僕の物を詰め始める。

それが終わるとまた部屋に持っていき、用意してある3つのダンボールに仕分けする。そして全部仕分けし終わるとそれぞれガムテープで封をした。

時計を見るとそろそろ日付が変わる。

やっぱり、今日中には帰ってこなかったね。

僕は用意してあった智明への手紙を手にとり、上着を着た。そして部屋を振り返る。

僕が10年使った寝室は空っぽだった。

この日に合わせて少しずつものを整理して、必要なものだけ既に場所を移している。実は家具も昨日までに全て処分していた。

本当に、何も無い部屋。
あるのは今仕分けをしたダンボールが3つだけ。これは最後まで使っていた僕の私物で、後でそのまま捨ててもらうように分別してあるのだ。

ベッドも昨日処分しちゃったから、昨夜は床で寝たんだよね。

何も考えずに昨日全部業者に持って行ってもらったのは失敗だった。

夜になるまで気づかなかった自分の間抜けさを思い出して笑ってしまう。

さて、そろそろ行こう。日付が変わったら智明が帰ってきてしまう。ここで鉢合わせる訳には行かない。

僕は最後に電気を消して家を出た。
そして今使った鍵を手紙に入れて封をすると、下のポストに入れた。

本当にこれが最後だ。

智。僕からのプレゼントは智の人生だよ。
僕はもう智から十分もらったから、残りの人生は返すね。
だからこれからは、自分の幸せのために生きてね。
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