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最初はスマホの画面を通して、それから少しずつ外に出る練習をして対面で受けられるようになった。それと並行してバース科にも通い、発情期の周期を調べたり、フェロモンチェックをして発情期の始まりと終わりを正確に調べてもらったりして、僕は困らない程度に外出できるようになった。
そこまで出来るようになるまでには実家の母に手伝ってもらった。まだ外に出るのが不安な時は一緒に行ってもらったり、交通機関が使えない時は車を出してもらったり。
智明がいない平日にしていたので母ばかりに頼ってしまったけど、父もとても心配しながらそんな僕を応援してくれた。
大検を受けて合格してからようやく、僕は大学を受験しようと思っていることを智明に告げた。
智明は、最初はとても驚いたけどすぐに喜んで賛成してくれた。僕が外に出られないことを案じてくれたけど、本当は最初からそんなに深刻な状態じゃなかったと嘘をついた。実はものすごく大変だったなんて言ったら、ますます智明の罪の意識は深まり、苦しめてしまうと思ったから。だから全然大したことじゃないよ、と軽い態度を演じた。
それから僕も智明も受験に集中して、二人とも第一志望校に合格した。僕は大したことないと言いながらも、毎日通うことはまだ出来なかったので、通信制の大学にした。そこに関してはずっと家にいたから毎日通う体力がないと誤魔化した。
そうして僕達は大学の4年間も変わらず穏やかに暮らし、僕はその間もさらに外出の練習を重ね、就職も決めることが出来た。
智明はもちろん名門大学を卒業して、大手の会社に就職。僕は、実は小さい頃から好きだった絵を描くことを生かし、大学でデザインを学んで中堅のデザイン事務所に就職した。
そうして僕達は社会人になっても、変わらず二人で暮らしていた。
本当に何も変わらずに・・・。
理想を絵に書いたような僕たちの生活はいつも穏やかで、お互いの誕生日も祝いあった。だけど、クリスマスだけは毎年何も出来ないでいた。その日はいつも、智明がいないからだ。
僕は毎年、クリスマスも必ずささやかだけどいつもとは違う食卓を用意する。
チキンを焼いて、ケーキを作って、そして部屋を飾ってプレゼントを用意して・・・。だけど、それを智明と過ごしたことは無かった。
智明はいつも、何かと理由をつけてこの日の帰りが遅かったから。
ある時には学校の用事が。またある時には実家に呼ばれて。先輩が、先生が、親が・・・。毎年色々な理由でこの日だけは帰りが遅かった。なのに律儀に日付が変わってから帰ってくるのだ。タクシーまで使って。
最初はせっかく用意したのに残念だな、と思ってたけど、それが3回4回と続くとさすがに故意にやってると気づいてしまう。
クリスマスはあのことがあった日だもんね。
僕が智明の人生を狂わせてしまった日。そんな日にお祝いなんてしたくないよね。
きっと智明にとっては最悪な日なんだろうな・・・。
でも僕はそんな智明に気付かない振りをして、毎年この日の予定を聞く。そしてダメだと分かっていても、クリスマスの用意をして待ってるのだ。
毎年律儀にしなくても、とは思う。どうせ早くは帰ってこないのだから。だけど、智明が本当に断れない用で帰れないと言う演技をするから、それに合わせるしかないのだ。だって僕は気づいてないのだから。本当はその日を嫌っている智明の本心に。だから、僕は毎年クリスマスを用意して、帰らない智明を待つのだ。
そして今年もクリスマスがやってきた。
「智、今日はごちそうを用意するから早く帰ってきてね」
朝食をとりながら僕が無邪気にそう言うと、いつも笑顔の智明の顔が少し曇る。
「ごめん。今日は上司と飲み会があるんだ。早く抜けられるといいんだけど、今日の上司は必ず二次会をやるから、何時に帰れるか分からないんだ」
本当に申し訳なさそうに項垂れる。
「そっかぁ。上司と飲み会じゃしょうがないね。でも用意はしておくから、早く帰れたら帰ってきてね」
「ありがとう。でも帰れなさそうだったらメッセージ入れるから」
「うん。分かった。無理しないでね」
笑顔で答える僕の言葉に、智明はほっとした表情をする。
そこまで出来るようになるまでには実家の母に手伝ってもらった。まだ外に出るのが不安な時は一緒に行ってもらったり、交通機関が使えない時は車を出してもらったり。
智明がいない平日にしていたので母ばかりに頼ってしまったけど、父もとても心配しながらそんな僕を応援してくれた。
大検を受けて合格してからようやく、僕は大学を受験しようと思っていることを智明に告げた。
智明は、最初はとても驚いたけどすぐに喜んで賛成してくれた。僕が外に出られないことを案じてくれたけど、本当は最初からそんなに深刻な状態じゃなかったと嘘をついた。実はものすごく大変だったなんて言ったら、ますます智明の罪の意識は深まり、苦しめてしまうと思ったから。だから全然大したことじゃないよ、と軽い態度を演じた。
それから僕も智明も受験に集中して、二人とも第一志望校に合格した。僕は大したことないと言いながらも、毎日通うことはまだ出来なかったので、通信制の大学にした。そこに関してはずっと家にいたから毎日通う体力がないと誤魔化した。
そうして僕達は大学の4年間も変わらず穏やかに暮らし、僕はその間もさらに外出の練習を重ね、就職も決めることが出来た。
智明はもちろん名門大学を卒業して、大手の会社に就職。僕は、実は小さい頃から好きだった絵を描くことを生かし、大学でデザインを学んで中堅のデザイン事務所に就職した。
そうして僕達は社会人になっても、変わらず二人で暮らしていた。
本当に何も変わらずに・・・。
理想を絵に書いたような僕たちの生活はいつも穏やかで、お互いの誕生日も祝いあった。だけど、クリスマスだけは毎年何も出来ないでいた。その日はいつも、智明がいないからだ。
僕は毎年、クリスマスも必ずささやかだけどいつもとは違う食卓を用意する。
チキンを焼いて、ケーキを作って、そして部屋を飾ってプレゼントを用意して・・・。だけど、それを智明と過ごしたことは無かった。
智明はいつも、何かと理由をつけてこの日の帰りが遅かったから。
ある時には学校の用事が。またある時には実家に呼ばれて。先輩が、先生が、親が・・・。毎年色々な理由でこの日だけは帰りが遅かった。なのに律儀に日付が変わってから帰ってくるのだ。タクシーまで使って。
最初はせっかく用意したのに残念だな、と思ってたけど、それが3回4回と続くとさすがに故意にやってると気づいてしまう。
クリスマスはあのことがあった日だもんね。
僕が智明の人生を狂わせてしまった日。そんな日にお祝いなんてしたくないよね。
きっと智明にとっては最悪な日なんだろうな・・・。
でも僕はそんな智明に気付かない振りをして、毎年この日の予定を聞く。そしてダメだと分かっていても、クリスマスの用意をして待ってるのだ。
毎年律儀にしなくても、とは思う。どうせ早くは帰ってこないのだから。だけど、智明が本当に断れない用で帰れないと言う演技をするから、それに合わせるしかないのだ。だって僕は気づいてないのだから。本当はその日を嫌っている智明の本心に。だから、僕は毎年クリスマスを用意して、帰らない智明を待つのだ。
そして今年もクリスマスがやってきた。
「智、今日はごちそうを用意するから早く帰ってきてね」
朝食をとりながら僕が無邪気にそう言うと、いつも笑顔の智明の顔が少し曇る。
「ごめん。今日は上司と飲み会があるんだ。早く抜けられるといいんだけど、今日の上司は必ず二次会をやるから、何時に帰れるか分からないんだ」
本当に申し訳なさそうに項垂れる。
「そっかぁ。上司と飲み会じゃしょうがないね。でも用意はしておくから、早く帰れたら帰ってきてね」
「ありがとう。でも帰れなさそうだったらメッセージ入れるから」
「うん。分かった。無理しないでね」
笑顔で答える僕の言葉に、智明はほっとした表情をする。
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