さかなのみるゆめ

ruki

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僕は最後にもう一度智明と共に過したマンションを振り返り、呼んでいたタクシーに乗った。

智明は優しくて完璧なパートナーだったけど、最後まで僕のことは好きになってくれなかった。

だから、何も気づかなかった。

智明は僕に興味がないから、リビングにいる時以外の僕を知ろうとしなかった。

僕が大学に入るためにしていたカウンセリングも通院も知らないし、ここを出るための準備にも気づかなかった。

会社に行ってなかったことも、引っ越すために私物を処分していたことにも全然気づかなかった。
ただ一度でも僕の部屋のドアを開けていたら、きっと分かったはずなのに。
キッチンやリビングからも少しずつものが消えていってたのに、それにも気づかなかったね。

僕はタクシーの中で笑ってしまった。

本当に智は僕を好きじゃないんだね。
でも僕は智が大好きだよ。だから返してあげる。智の人生を。

もう涙も出なかった。
ただ虚しさだけが心を占める。

今頃家に帰ったかな?

僕のプレゼントは喜んでくれただろうか?

でももう、それを知る術は僕にはない。使っていたスマホは処分してもらうダンボールに入れてしまった。
今ここにあるのは新しく契約したスマホだ。

これから向かうのは僕の新居。智明が探しても分からないように僕とは縁もゆかりも無い場所だ。

好きでもない僕を探すかは分からないけど、責任感の強い智明のことだから、こんな形でいなくなった僕を探してきっちり話し合いたいと思うかもしれない。それに親への体裁もある。

僕としては決定的な言葉を本人から聞くのは嫌だったし、この期に及んでまだ僕の面倒を見る、と言われるのも嫌だった。だから内緒で出てきたのだ。
それに、僕と智明はこんなに一緒に居たけど、全くの赤の他人だ。
法的にはなんの繋がりもない。だからこうやって別れたところでなんの問題もない。

でも、親は心配するよね。
仲良く上手くやってると思ってるし・・・。

でも僕は親を通して智明に僕の居場所が分かるのが嫌だった。

親にだけは本当のことを話そうか・・・。

心配かけちゃうからずっと黙ってたけど、この状況も心配するよね。

とりあえず今日は遅いし、頃合いを見て連絡してみよう。

そう思いながら、もう少しかかるタクシーの中で僕は目を閉じた。


僕達の生活は、学生時代はお互いの両親から援助してもらっていたけど、就職してからは自分たちの力で生活していた。自分たちと言っても、それは智明の収入だけ。僕のお給料はいくら言っても受け取ってもらえなかった。

でもそのお金で今回、僕は家を出れたんだけど・・・。

それでも引越しの初期費用や家具家電にあてたら貯金もなくなり、あとは転職先のお給料だけでやっていかなければならないので、ある程度新居の家賃を抑えた。そのため都心から離れた郊外の、さらに駅から徒歩20分の所に僕の新居がある。

駅から離れているけど閑静な住宅地にあるこじんまりとした新築のマンション。その4階の角が僕の部屋だ。

一見普通のマンションだけど、オメガ向けにできてるのでオートロックで、寝室にも鍵がついている。住んでる人はみんなオメガで一応フリーのアルファの入室は禁止。
そういう面でのセキュリティは万全の物件だ。

そこに着くと僕はすぐにシャワーを浴びてベッドに横になった。

今日は疲れた。

昨日までに引越しは完了していて、電気もガスも水道ももう通してある。
だから、今からでも普通に生活できるのだけど、今日はもう寝よう。

料理を作るだけ作って実は何も食べてないのだけど、疲れすぎて最早お腹も空かない。
この疲れは身体なのか心なのか・・・。

きっとどっちもだね。

新しい職場への出勤は年が明けてからになっている。
とりあえずそれまでになんとか立ち直っておこう。

そう思いながら重たい身体をベッドに沈めて僕は眠った。

夢も見ないくらい深い眠りから覚めると、知らない天井に少しびっくりする。

・・・引っ越したんだっけ。

ここの天井、こんななんだ。

まだ起ききらない頭でぼうっとそのまま天井を見ていると、カーテンの隙間から明るい日差しが入ってきている。

その明るさにふと時計を見ると、もう時間はお昼を過ぎていた。

あれ?もうこんな時間なの?

遮光カーテンにしたのが仇になった。朝になっても全く気づかなかった。おまけに新しいスマホにはまだアラーム設定がされていない。

でもしばらく考えて、まあいいかと思う。

どうせ早く起きる必要もないからね。
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