まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第八章:散るは忠誠、燃ゆるは誇り――約束の交差点、勇者計画の終焉

第143話:戦争二日目――吸血鬼の夜と、電撃戦の朝

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夜、帝国軍は明日の作戦に備え、警戒しながらも束の間の休息を噛みしめていた。
セリナもレンと共にドクターの部屋で寝ていたが、夜中にトイレに起きた時、まさかのことに部屋の明かりがまだついているのに気づいた。
ドクターはコーヒーカップを手に、机の上の資料と地図をじっと見比べていた。
「マオウさん、まだ起きてるんですか? もう朝の2時ですよ」
トイレのことなど忘れ、セリナは一気に目が覚めた。昨夜、彼女たちを先に寝かしつけた後、ドクターはずっとこのままだったのだ。
「ノクターンの夜襲も十分あり得る。その時に指揮が取れる者がいなければどうする? 今我々は戦場にいる。敵はこちらの生活パターンに合わせて攻めてくるに違いない。それに……突然の新メンバーの加入で、私のベッドを占拠されたからな。休みたくても休めないだろう」
「あう……」セリナとレンは戦争開始直前に同行を申し出たため、二人用の部屋が用意できていなかった。女性二人を男性ばかりの兵舎に入れるわけにもいかず、当然ながら彼女たちを受け入れたドクターが世話を任されていた。
「別に気にすることはない。君たちが来なくても、寝る予定はなかった」
「体を壊しますよ」
「この程度で壊れるほど、私は甘い人生を送ってきたわけではない。それより君は寝なさい。魔王ダークソウルとの戦いで、睡眠不足が原因で負けたら折檻するぞ」
「いいえ、大丈夫です」
セリナは引き出しからエプロンを取り出し、パジャマの上に着けた。
「セリナは大体この時間に起きるんです。お夜食を作りますね。コーヒーも入れ直します」
「おお、頼む。セリナ君のコーヒーは久しぶりだな、楽しみにしている。豆はいつもの場所に置いてある。味は私の好みで、少し濃いめで頼む」
「はいはい……でもマオウさん、カフェイン中毒は前より酷くなってませんか?」
そう言いながらも、セリナは顔の緩みを抑えきれず、鼻歌まじりに厨房へと向かった。

遅い……
いつものセリナなら、とっくに熱々のドーナツとコーヒーを、百万ゴールドの笑顔で運び出してくる頃合いだ。
なのに……これは。
「馬鹿な娘め……まだマインドコントロールから抜け出せていないとは。ゴーストタウンでの成長は何だったのか」
時の針が止まり、すべてが静止に帰する。ドクターの首に、あと一寸で届かんとする聖剣も――
「お見事。時間停止もおできになるとは……いつから人間をお辞めになったのですか?」
時間停止されたセリナの背後から、一人の老紳士がゆっくりと歩み出る。
「時間停止の中でも動ける……ヴァンパイアか。君は何秒時を止められる? 5秒か、10秒か」
「いいえ、私はこの静止された世界で行動できるだけで精一杯でございます。だから驚きました……あなた様ほどの男が帝国にいらっしゃるとは。おっと、失礼。私はノックターン……」
ヴァンパイアの自己紹介を聞く暇などない。何の前触れもなく、私は時間停止を解除すると同時に、手にしたコーヒーカップを錬金術で鉄の鎖へと変え、セリナを縛り上げた。まずは人質にされぬよう確保だ。さらに彼女の手から聖剣を奪い、元の姿に戻る前にヴァンパイアへと投げつける。
ノクターンは優雅にそれを回避。聖剣はセリナの手を離れたことで元の姿――包丁へと戻り、ドアに刺さった。
「野蛮ですね。名乗らせてすらくれないとは……紳士とは言えません」
「こんな幼気な少女に狼籍を働く外道に、紳士もクソもない」
「いやいや、私の名誉のために言っておきますが、私は熟女が趣味で、そちらのお嬢さんのような未熟な青い果実には興味がありません。ちょっと――」
隙など与えるつもりはない。椅子を銀へと錬成し、さらに銃弾のように加工。速射可能な拳銃に装填し、発砲する。
あまりの予想外の行動に、さすがのノクターンも対応できず、数発を喰らう。
「痛い! 私はヴァンパイアであって、狼男ではありません! それになんなんですか、あなたは魔法使いのはずなのに、なぜ平然と銃を使う? 魔法使いの矜持はないのですか? ちょっ、ちょっ、ちょっと!」
「ないな」
ヴァンパイアは光に弱い……だが太陽光でなければ効果は薄いか。明星の光ならともかく、彼はここにはいない。他の弱点は……白木の杭、十字架、聖水、ニンニク。この場には一つもない。仕方ない、灰になるまで焼き尽くそう。手を振れば、ノクターンの周囲に青い炎の渦が巻き起こり、一瞬で彼を飲み込む。
青い炎は完全燃焼の証。温度は1万度まで上がる。これで仕留められるか。
灰は一か所に集まり、まさかの復活――いや、そんなに意外でもないか。
「人の話を聞かない方ですね。あなたには会話の重要性が理解できているのでしょうか?」
「夜襲でマインドコントロールを使う輩に、礼儀など必要ない」再び魔法を発動し、奴を灰へと燃やし尽くす。当然、まだ再生する。こういう不死系は嫌いだな……勝つのが難しくないくせに、殺しにくい。安易に攻撃を避けない戦闘スタイルにも腹が立つ。
「いい加減にしろ!」
ノクターンは今回の再生で、もはや話す気はないらしい。細剣を構え、私へと突撃しようとする。が――
「月滅一刀!」
銀色の一閃が、ノクターンの首と胴体を分断する。これまでの騒ぎで、さすがにレンも目を覚ました。彼女は気の呼吸で剣の威力を増し、真祖の首すら一刀で断ち切った。
(あのアニメの世界観なら、首を切られたヴァンパイアはそのまま死ぬんだが……)
ノクターンの体は、自らの首を拾い上げ、胴体へと戻す。
(だよねー……先ほど灰になっても再生できたんだ。首を切られたくらいで死ぬはずがない)
「野蛮な人間どもとは、これ以上付き合っても結果は得られぬようです。それに……今引かないと、そこの卑怯極まりない将軍の小細工でやられそうですし」
(バレたか……)
こっそり時間を少しずつ加速していた。今や5時……太陽はもうすぐ登る。こいつが再生している間に天井を開ければ、いくら真祖でもあの世行きだと思っていた。時計の針の不自然な速さに気づいたか。なるほど、面白い。
「逃がさない!」
レンが再び斬りかかろうとするが、ノクターンの体は無数のコウモリへと変わり、散り散りになり始める。
「その剣筋……20年前の勇者一行、剣聖の弟子と見た。師匠以上の剣術を見せたが、しかしその剣では私を殺せぬ。それは20年前、お前の師匠と同じだ。お前は私を倒せない」
「そして、貪狼将軍……次に会う時は必ず仕留め」
話が長いので、さらに魔法を発動し、コウモリの群れを灰へと帰す。彼のお喋り好きな性格は、どうも刺客に向いていない。
「貴様!」
叫び声が空中に響き、ノクターンの夜襲は失敗に終わった。
(でもまだ来るよな……下手したら毎晩。これは短期決戦で決めるしかないな……)

夜襲の報告を朝の会議で伝えると、将軍たちはそれぞれ異なる反応を示した。
エンプラはドクターの勝利を当然のことと思っているようで、さらに煽ってきた。
「へえ~、ドクターもあのヴァンパイアを仕留められなかったでありますか。それでよく吾輩をボンコツ呼ばわりできたでありますね。ざーこ、くそ弱い、貪狼将軍(笑)であります」
もちろん拳骨ものだったが、エンプラは何だか幸せそうだった。昨日の徹底的な和解で、遠慮が完全になくなったようだ。
「まさか初日でもう襲撃を仕掛けたとは……今回はノクターンの単独行動ならよかったものの、軍を率いたなら危なかった。今日から夜の警備を強化しよう」
アリストは自身の慢心を反省しながら、隣のミラージュの不自然な沈黙に気づいた。
「ミラージュ? なぜ黙り込んでいる?」
「いいえ……さすがはドクターですわ。彼が後方にいる限り、こちらも安心です」
そう口では言うものの、彼女の心境は穏やかではなかった。
(夜のノクターンを追い返しただと……? あのかつて勇者一行の三人と五分以上戦った彼が、劣勢と判断して撤退するとは。ドクターの実力は想像以上かもしれぬ。下手すれば、魔王ダークソウル以上……いや、そんなはずはない。あいつは八咫烏(やたがらす)と雷鳥(サンダーバード)の子、神格を持つ。負けるはずがない)
(どうする? そのまま将軍を装い魔王ダークソウルを討伐すれば、我が子ティアノは帝国の皇帝として権勢を保てる。しかし神格持ちのダークソウルに勝つのは不可能に等しい。仮に魔王ダークソウルが勝ったとしても、彼はあの勇者カズキの娘にしか興味がない。ティアノの皇帝の座は安泰だ。女なら、狐族の雌はいくらでもいる。むしろ、この戦争でわらわが功績を立てれば、ツバキ腹の子を恩賞として貰い受けられる。どうせダークソウルにとってはどうでもよいものだ。ツバキには悪いが……わらわは息子とこれから生まれる孫が無事であれば、彼女を犠牲にもやむなしと考えている)
(お手柄は大将首が一番じゃ……ドクターよ、わらわのため、わらわの子狐たちのために、人柱となってくれのじゃ)
新たな暗殺計画を練りながら、コハクは心中で決意を固める。
戦争の雲行きは、さらに不透明さを増していった。

簡素な反省会を終え、三将軍率いる帝国軍の本格的な進軍が始まった。
制空権の確保を最優先とし、最初に出撃したのはエンプラの空挺部隊である。
「エンタープライズCVN-6、抜錨であります!」
他の飛行艇とは異なり、エンプラはカタパルトに乗せられて空中へと射出された。その後ろから、電子機械的な光沢を放つ翼が展開し、大空へと羽ばたいた。
これはドクターがセリナの天使化から着想を得て、エンプラに実装した新機能。空中戦に特化した、「虎に翼ならぬ、エンプラに翼」である。
「山地エリアを目指せ。途中の森林エリア、湿地エリア、砂漠エリア、平原エリアの制空権を確保しろ。『あ号作戦』開始!」
後方の作戦司令室で、ドクターが命令を下す。百枚以上あるモニターを見つめながら戦況を分析し、迅速に指示を出す。この戦いは、速度こそが命なのだ。
「レーダー反応、多数! コカトリスの群れです!」
「F66戦闘機『ヘルキャット』を発進させろ。コカトリスはあの高度まで上がれない。上から蹂躙する」
ドクターの命令を受けて、ヘルキャットが次々と飛行艇から発進する。
「へい! 見てみろよ、空に七面鳥が飛んでるぜ! どっちが多く撃墜できるか勝負だ!」
「ジョーンズ、こんな食欲をそそらない七面鳥は初めてだぜ。来世では美味しい鶏に生まれ変わってくれよ。酒のつまみに食ってやるからな」
ドクターの予想通り、コカトリスはF66の飛行高度まで上がれず、攻撃も届かない。逆に帝国空軍の機関砲は、容易にコカトリスの体を貫く。これは戦闘ですらない。
「ヒュー! 一石二鳥、ダブルキル! 撃墜王は俺だ!」
「バカ、その熟語はそういう意味じゃないぜ。それに撃墜数は俺の方が上だ。エンプラ将軍に褒められるのも俺だ!」
「何を! エンプラ将軍はみんなの将軍だ! 抜け駆けはさせない! 行くぜ!」
七面鳥撃ち大会、ここに開催。
「ずるいであります! 吾輩こそ将軍であります! 誰にも負けませんよ! 行け! トロンーちゃんたち!」
エンプラの背後から、無数のドローンが次々と発進する。大気を震わせるエンジン音。空一面を埋め尽くすその数は――
3000機
「やべえ……デストロイヤーだ! 退避! 全員退避しろ!」
「やりやがった……ドクターは何してるんだ! 止めろ!」
「すべての恐怖は火力不足によるものであります! オープンファイア!」
味方の戦闘機までもが回避する勢いで、3000機のドローンによる絶対的な機銃射撃が炸裂する。先ほどまでレーダーを埋め尽くしていたコカトリスの群れは、消しゴムで消されたようにレーダー画面から消え去った。
「見たかであります! え? ドクター、来月のお小遣いはなし? そんな……あんまりでありますよ!」
無線からの知らせに、現職の貪狼将軍に悲報が届く。
「どれだけ無駄撃ちしたと思ってる?! 銃弾はただじゃないぞ! それに肝心な時に弾がなくなったらどうする? 君が撃つ一発一発は、国民の税金で賄われている。全部君のお小遣いから引いたからな。今後は無駄のないように」
「了解であります……」
こうしてエンプラの来月のお小遣いは花火と消えたが、帝国軍は初勝利を手にした。
しかし、勢いは止めてはならない。それこそが電撃戦の要諦だ。
「行ってくるぜ、大将!」
軍帽を深くかぶり、散弾銃を背負ったアリストは軽戦車に乗り込む。
「今回の陸軍は植物系モンスター特化の装備だ。他の天王に遭遇したら、すぐに撤退しろ」
「わかったぜ、大丈夫。俺は逃げるのが一番得意な『逃げ上手のアリスト』だぜ」
「死ぬなよ、アリスト。死んだらお前の愛人リストをネットに流出させるからな」
「そいつはマジで勘弁してくれよ!」
戦車のエンジンが唸りを上げると、アリストの軽戦車を先頭に、鋼鉄の洪水が決壊したダムのように流れ出した。
陸軍の目的地は森林エリア。そのためには砂漠エリアを突破しなければならない。砂漠の砂は柔らかく、重戦車は沈みやすい。だが広い履帯(キャタピラー)や特殊タイヤで重量を分散させ、砂の上を平原のように駆け抜ける。
「敵発見! 前方3時方向、4キロメートル先にサボテンの群れが出現! 全員、直ちに戦闘準備!」
砂漠の地平線が、サボテンの影で黒く染まり始める。
「Yahoo!! レッツパーティーだぜ、ブラザーズ!」
アリストの掛け声で、部隊の空気が一気に活気づく。
「空軍の野郎たちと違って、こっちは植物ばっかりかよ。俺はヴェジタリアンじゃないんだがな」
「そうだそうだ、パーティーに肉がないんじゃ質素すぎる。これじゃやる気でねえな」
「野郎ども、仕方ねえぜ! 戦争が終わったら、祝いの酒は全部俺持ちだ! いくらでも飲んでいいぜ!」
「そいつは楽しみだ! 将軍さま、悪いが財布がカラカラになっても恨むなよ、な?」
戦車の主砲から砲弾が発射され、サボテンの群れへと飛んでいく。しかし命中する前に空中で炸裂する。何かの液体が降り注ぎ、それに浴びたサボテンはみるみる萎れ、枯れていく。
これがドクター特製のスーパー除草剤EX。他の生物には作用しないが、植物系モンスターには絶大な効果を発揮する。今回の四天王ベノムローズ攻略の要だ。
しかしサボテンたちも無抵抗ではない。体を圧縮し、全身の針を矢のように飛ばしてくる。
「将軍! 針が飛んできます! 退避を!」
「大丈夫大丈夫、あの針が何ミリもある戦車の装甲を貫けるわけないだろ!」
「いやいや、将軍が乗ってるのは軽戦車です! 上は丸裸同然ですぞ!」
「あれ?」
針の雨が降り注ぐ。重戦車部隊の装甲は針を防ぐが、天蓋のないアリストの車両は直撃を受け、ハリネズミのように刺さる。
「将軍!!!」
「あ……死ぬ死ぬ……はい、死んでない! サプライズ!」
針だらけの上半身の軍服を脱ぎ捨てる。針は彼の鋼鉄の体を貫けなかった。全身が鋼鉄パーツで構成されたサイボーグであるアリストにとって、彼自身が戦車そのものなのだ。
「クソ! また騙された! 死ね、地獄に堕ちろ、ファッキング野郎!」
「俺は不死身のアリストだ! 死にたい奴は前に出ろ!」
背中の散弾銃を構え、腰の剣を抜く。戦車から飛び降り、サボテンの群れへと切り込んでいく。
散弾銃が轟音を立て、除草剤なしでもその衝撃力で一面のサボテンを粉砕する。近づくサボテンを剣で両断。今のアリストは、解き放たれた野獣のようにサボテンたちを蹂躙していく。
「どうする? 将軍さまもいるけど、発砲する?」
「するに決まってるだろ。あの除草剤は植物系モンスターにしか効かないんだ」
「そうだな……勝手に敵のど真ん中で無双する将軍が悪い」
こうしてアリストの奮闘と、戦車部隊による除草剤の活躍のもと、砂漠エリアの攻略は完了した。
その頃、エンプラからも平原エリア制圧の捷報が前線から届く。
半日も経たぬうちに、帝国軍は二つのエリアを攻略した。まさに電撃の如き速さである。
だが、まだ終わらない。これからが本番だ。

「こちら、海軍第四艦隊。湿地エリアへの接近を完了。海水大砲の発射準備、カウントダウンに入ります」
戦艦アイオワの16インチ(406mm)三連装砲塔が照準を定め、海水を凍結させて作られた特殊砲弾を装填する。
「射角、よし! 撃ち方、よし! 大砲巨艦のロマンを味わえ! 全艦隊、撃て!」
提督の命令により、海水の氷弾が湿地へと飛翔する。発射時の熱で氷は徐々に解け、着弾時にはちょうど海水へと戻る。その塩分により、ドクターの予想通りスライムたちは脱水反応を起こし、まるで塩をかけられたナメクジのように溶けていく。
「ソナーに反応あり! 海から大王イカが艦船に巻きついてきます!」
「ひるむな! 駆逐艦に魚雷装填の準備を!」
想定外の海からの襲撃にも、ドクターは当然対策を講じていた。旗艦アイオワには多くの護衛艦が随伴し、最新型の対海獣用魚雷を搭載している。
「Type93 五連装酸素魚雷、発射!」
雷鳴のような発射音と共に、魚雷が発射される。そして、さらに雷鳴が続く。
「命中確認! 次の目標を捕捉中! こちらもイカの触手に絡まれています!」
「了解! 対潜爆雷の準備完了! 投下しますか?」
「許可する! できる限り旗艦から距離を置いてから使用しろ!」
「Sir! Yes, Sir!」
帝国海軍は抜群に優秀だった。ミラージュが長くツバキの秘書として不在でも、各自が状況を判断し行動できるように訓練されている。この戦いのように……既に完成されたシステムには、ミラージュが介入する余地はほとんどない。
「ちょっと……一旦砲撃を止めた方がいいのかしら」
「それはどういった理由でしょうか、将軍閣下? 今こそ攻勢に出る好機であり、止めるメリットは一つもありません。もしそのような指示を強行されるなら、我々はドクター閣下に直接報告し、彼の同意を得てから実行します」
「いいえ……それで大丈夫です。お任せします」
正解すぎるシステムは、安易な命令を実行しない。アリストの陸軍のように個人のカリスマに強く依存するのではなく、各部門が連携し、指揮官がいなくても機能するシステムなのだ。
「ちょっと……疲れたので部屋に戻るわ」
「はい。我々にお任せください。何か異変があれば、必ず報告いたします」
ミラージュの中のコハクは焦る。このままでは何もできずに戦争が終わってしまう。たとえ最終的にダークソウルが勝ったとしても、自分に功績がなければ、孫を取り戻すことなどできない。ならば、やることは一つしかない。
コハクは自室に戻り、鍵をかける。
湿地エリアも間もなく陥落……しかし、四天王グロムスの姿はなかった。逃げたのか? それとも気づかぬうちに退治されたのか?
帝国軍は南から北へ、矢のように戦線を押し広げていく。
本来、平原、砂漠、湿地の三エリア全勝という報告書が届くはずの状況に、何か陰謀の匂いが漂っている。
戦争二日目、終了
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