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第八章:散るは忠誠、燃ゆるは誇り――約束の交差点、勇者計画の終焉
第154話:戦後──物語は続く、世界はこんなにも騒がしい
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戦争勝利の知らせは帝国に届き、帝都の港には人々が集まっていた。
その大半は女と子供たちである。戦勝は喜ばしいことではあるが、彼女たちにとって何よりも大事なのは、家族が無事に帰還することだった。
戦艦が港に着岸し、兵士たちが舷梯を降りてくる。人垣の中から自分の家族の姿を見つけ、安堵と喜びに沸く者もいれば、戦死者の報せを聞き、その場で泣き崩れる者も数多くいた。
「そうか……兄は……。兄は最後まで帝国の軍人として、立派だったか……」
アレックスの兄、ジョージ少尉は、アリスト将軍と共に森を突破する際の五人の中の一人だった。森の夜雨による低体温症で殉職した。アレックスが誇りにしていた兄は、今回は戻ってこなかった。
「ああ……最後まで軍人としての責務を全うした」伍長は帽子を深くかぶり直し、自らの涙を隠した。
七千四十九人──これが、わずか七日間の戦争で失われた帝国軍人の数である。
数字にすればただの冷たいデータに過ぎないが、その一つ一つが、一つの家族を、一つの人生を、そして一つの未来を砕く山のような重みを持っていた。
勝利の歓声はなかった。祝賀の礼砲も鳴らされなかった。
帝都は静かな悲しみに包まれた。
女帝ツバキとその夫は、犠牲となった兵士たちのために国を挙げての葬儀を執り行った。
その日、帝国の国旗は半旗となった。
帝国三将軍──
貪狼将軍エンプラはメンテナンスのため欠席。代わりにドクターが列席した。
破軍将軍アリストは命の危機を脱したものの、重傷により入院中。
七殺将軍ミラージュは行方不明。彼女が九尾の狐コハクであることは、軍部ですらまだ知らない。
初めて三将軍全員が揃わない葬儀。今回の魔族との戦いは、帝国に深い爪痕を残した。
王国のカズキ一家も、長女ツバキを気遣い帝都を訪れた。
墓標が立ち並ぶ霊園を見つめながら、王国で数ヶ月前に起こったクーデターの記憶が蘇る。戦火の傷跡は、国境を越えて人々の心に刻まれていた。
犠牲者を弔った後、王国と帝国は正式に不可侵条約を結んだ。
戦争は終わったが、その代償はあまりにも大きく、人々の心に残った空虚と悲しみは、簡単には癒えるものではなかった
*
何ヶ月もの時が経ち、帝国の人々はようやく長い戦争の深い悲しみから抜け出そうとしていた。
そして女帝ツバキは、無事に出産を終えた。生まれたのは、健やかな男の子。
母であるツバキに似た銀色の髪を持ち、父であるティアノの血を引いて、生まれつきふさふさとした一本の狐の尾もあった。
魔族との戦いの痛みを決して忘れず、かつ新たな未来への希望を託して、二人は皇子に「ノア」と名付けた。その名は、新たな始まりを意味していた。
これを帝国全体で祝うため、一週間にわたる盛大な祝祭が催された。当然、帝国大学付属高校も例外ではない。
「去年の勝負は曖昧に終わったが、今年こそ白黒つけようじゃないか! 公平会と、てめえら新平等会、どっちが上か、この学園祭の売上で決着だ!」
「ご随意に。こちらの面々は、アルバイトで何年も鍛えていますから。それと、『平等会』じゃなくて『新平等会』ですよ? あんなオカルト同好会と一緒にしないで頂戴」
アレックスを筆頭とする公平会と、リディアが率いる新平等会による、新たな模擬戦の火蓋が切られた。ただし、その戦いはあくまで「平和的な売上競争」。祭りの終わりには、全ての売上金が慈善事業へ寄付される予定だった。
校門が開くその瞬間、勝負は始まる。ぼったくりや規律違反がないよう、審判として中立委員会エンプラシステムが監視につくが、その出番はまずないだろう——皆、そう思っていた。
*
「あのう、私は毛玉の姿の方が気楽なのだが……」
魔王は、家族サービスとして一家を連れて学園祭を回ることになっていた。
「だめです。それじゃあ、デートっぽくありません」
隣では、セリナが嬉しそうに彼の腕を組んでいる。しかし、人間姿の魔王と並ぶと、恋人同士というより、父と娘に見えなくもない。
「セリナ、次は俺の番だからな。ちゃんとルールは守れよ、一人三十分で」
「えー? だってレン君は、セリナに内緒で今までマオウさんとたくさんイチャイチャしてたじゃないですか。セリナの埋め合わせくらい、させてください」
「そんなにしてないよ……黙ってたのは悪かったと思ってる。だからこそ、これはこれで」
あの後、レンとセリナは話し合い、魔王に黙っていたことの「埋め合わせ」として、一年間の「魔王とのイチャイチャイベント」は全てセリナ優先、という取り決めがなされた。肝心の当の本人に発言権がなかったのは、言うまでもない。
「おおお! 射的の屋台があります! 吾輩、ちょっと行くでありますよ!」
「戻ってこい。あれは素人が楽しむものだ。プロが場を壊すじゃない。」
自前の狙撃銃を持ち出してワクワクするエンプラの首根っこを、魔王がさっと掴んだ。
「それはロボ差別であります! 吾輩、あの『貪狼将軍』限定モデルが欲しいであります!」
「家に帰ったら作ってやる。それまで我慢しろ」
「あ、それ俺にも作ってくれよ! ロボット、かっこいいよな」
レンもやはり、男の子らしい趣味を持っていて、帝都で流行のロボ文化にすっかりはまり、ロボのエンプラともすぐに打ち解けていた。
「セリナにも、作ってください」
「セリナ君は、そんなにロボが好きなのか?」
「掃除機と炊飯器なら、便利でほしいかもです」
「……あれは家電だ。セリナ、いい加減機械とロボの違いくらい、覚えよう……」
*
「あの、そのお金を……」
「は? 僕にお金を請求するのか?」
さっきからクレープの屋台前で、大きなイチゴクレープをむしゃむしゃ食べているのは、堕天使ルキエルだった。
「野蛮ですこと。お金を払わずに物をいただくなんて、山賊の所業ですわ。バカ天使にはお似合いですけど。ふふっ。店員さん、こちらは私の分の代金ですわ。」
「いや、会長のお金は受け取れませんよ。折角まだ遊びに来てくださったのに。」
その隣で、優雅にクレープのクリームを舐め取りながら、ルキエルを蔑むように言い放つのはモリア。彼女はかつて公平会の会長を務めており、今も関係者からの人望は厚く、この公平会出店のクレープ屋では、彼女から代金を取らないのが暗黙のルールとなっていた。
「何を! 僕には取るのに、僕にはお金を取るのに、この悪魔からは取れないのか。滅ぼしてやる。」
その事情を知らないルキエルが、当然のように癇癪を起こす。
「はいはい、私が払うので、落ち着け。」
背後から、ロンギヌスの槍を展開しようとするルキエルの手首を、魔王が軽く掴んだ。
「マスター! あのね、あのね、この『クレープ』って食べ物、すごくうまいんだよ! マスターも食べる?」
先ほどまでの高圧的な態度が嘘のように、口調が幼くなったルキエルは、自分がかじったクレープを差し出した。
「ああ、ありがとう、ルー。私も、この生地の柔らかさがいいんだよね」
魔王は躊躇わず、一口味わった。
「……間接キス……」
モリアの呟きが、火種となった。
「あの俺も実は甘いものが好きなんだ、それを俺にも食べさせて。」
「ルールを忘れましたか、レン君。順番はセリナが優先です。その後で」
「待て! それはただ、セリナと間接キスしただけじゃないか! いやよ、そんなの。」
「——頂くであります」
エンプラは、二人がもめる隙に、残りのクレープをパクリと一口で平らげた。
「「あああっ!?」」
「美味しいであります」
「食べ方が汚いな。ほら、ティッシュで拭いてやるから、動くな」
漁夫の利とは、まさにこのことだ。エンプラにその計算があったわけではなさそうだが。
「キス? あ! そうだ! マスター、ただいまのキス、まだだった!」
ルキエルは、何の前触れもなく魔王の首に腕を回し、自らの唇を重ねた。クレープの甘い香りが、二人の間にほんのり広がる。
「いつまでキスしてんのかしら、このキス魔バカ天使っ!」
腹の底が煮えくり返るほどの嫉妬に駆られたモリアが、強引に二人を引き離した。
「邪魔する気が、悪魔!」
「いやですわ、それ以上すると、彼女たちは可哀想だからね。」
先のルキエルと魔王のキスで撃沈した女の娘約二名。
「マオウさんが……男の子と……キス……した。」
「ホモだった…俺を好きになったのもホモ…だったからか!?」
セリナは目が泳ぎ、レンは青ざめた。そして、
「生、生キス初めて見たであります!ねぇ、ドクター。吾輩も試したいであります」
「いや、君の口の中鉄しかないだろ、拷問か………」
好奇心だけは人一倍のエンプラも、無遠慮に口を挟む。
魔王一家揃ったことで本格的に学園祭を周り始めた。
*
最初に回るのはお化け屋敷だ。
正直なところ、この面子ではかなり危険だ。
魔王一名、勇者一名、姫一名、天使一名、悪魔一名、ロボット一体。
とてもではないが、お化けに驚かされるより、むしろお化けを退治しに行くようなものだと誰もが思った。
「げっ、マサ兄!」
「おお!レンか、奇遇だな」
「ダーリン♡」
お化け屋敷の前には、小梅とマサキの師弟、
「レン姉ちゃん!」と王家の末子ユウキ、
「ルキエル様、なぜここに?いえ、お越しくださり光栄でございます」と苦労人のマーリンがいた。
「父様と母様は?」レンは家族が来ることは予想していたが、まさかこんなに早く会うとは思っていなかった。
「あの二人は『恋愛相談コーナー』に行ったらしいぜ。いい歳して仲が良すぎるだろ。ガルドとリリアンヌもそっちに行ったし、正直俺も行きたかった」
「なにを言っているある。気の修行は毎日欠かさずやるね。ちょうど修行の場所も用意されて親切ある」
「だから、お化け屋敷は修行の場所じゃないだろ。出入り禁止にされたらどうするんだ」
「はい。迷える魂を導くのも聖職者の使命です。滅ぼすのではなく、導く方が正しいと、神はそうおっしゃいました」
「僕は怖くなかったよ。だって怒ったお母さんの方がずっと怖いもん」
「「それには同意だ」」クリシア王妃の怖さは、子供時代を共に過ごした彼らの間では揺るぎない共通認識だった。
「そんなわけで、師匠とマーリンが大暴れしたせいで、俺たちは出入り禁止になったぞ。お前らも気をつけろよ」
マサキたちが去った後、空気は重くなった。とても入る気にはなれない。
「まあ、折角来たし、ペアで少しずつ入っていこうか」
魔王はブレーキ役として、残りの五名と一人ずつ組んで入ることにした。
最初は、やはりセリナ。
暗闇の中、二人は進んでいく。
「ゴーストタウンみたいではないですね。まあ、作り物ですからね」
「マオウさん、マオウさん、見てください。幽霊さんです。足が出ていますね。新種でしょうか?」
「あれは人が偽装したものだ。そっとしておいてあげて…」
元々幽霊を怖がらないセリナは、一年間の旅でさらに図太くなっていた。むしろ魔王の教えで、静かに現れる幽霊やお化けを観察し始めた。
スタッフの生徒たちには申し訳ないが、セリナのターンは何事もなく終了した。
「手、離さないでよ」
「はいはい。君、幽霊は怖くなくなったんじゃなかったのか?」
二人目のレン。幽霊が苦手という弱点は、案の定まだ健在だった。
「はは、何言ってるんだ。怖いわけないだろ、俺は——」
不意に白い影が現れ、レンの声はそこで途絶えた。
「気絶したのか…すまないな、ちょっとこの子を外まで送ってくるよ」
入って早々、レンはお化け屋敷の幽霊役の生徒の嚇しによってリタイアとなった。
「ドクター、ドクター、ゾンビでありますよ。撃ちたいであります」
「ダメに決まっているだろ。さっきの連中みたいに出入り禁止にされたいのか?」
エンプラの光学センサーは暗闇で自動的に夜間モードに切り替わるため、ここは外と変わらない明るさに感じられるらしい。
「大蝙蝠発見であります。今回は吾輩はちゃんと閃光弾を持参しているでありますよ」
「ちょっと待——!」
魔王が一瞬気を緩めた隙に、エンプラはやらかした。閃光弾が周囲一面を白く染め上げた。あまりの強光に目をやられたスタッフも当然出た。
そして結果は言うまでもない。
出入り禁止。
「ねえ?どうして僕の番が来なかったの?」
魔王は思った。ルキエルの前にエンプラで終わらせたことは、ある意味で運が良かったのかもしれない、と。
*
次に訪れたのはメイド喫茶。名前からして、誰がやっているか想像がつく。
「いらっしゃいませー、ご主人様、お嬢様!」
教室いっぱいに広がるメイド服の姿。その一番奥に立っているのはリディアと──
「セリナさん、レンさん、それと……お母さん!」
「セリナちゃん、久しぶりね」
マリ商会会長のマリだった。
席を取り、六人の大所帯が腰を下ろす。
「ご主人様、何をご注文なさいますか?」マリは自らオーダーを取りに来た。
「それはもちろん、『美味しくなる呪文』をかけてもらったオムライスでしょ?」
「セリナも、前回は呪文を習得できなかったので、お願いします」
「お断りします」マリは二度と以前のような恥ずかしい思いをしないと誓っていたので、断固として拒否した。
「なにそれ?僕、聞いたことないんだけど」ルキエルも興味をそそられた。
「あら、知らないのかしら?『お~い~し~く~な~れ♡萌え萌えきゅーん♡』って唱えると、料理がもっと美味しくなれますわ。ふふふ。」
「へえ~。じゃあ僕、やってみる」
「え?」
まもなく、全員分のオムライスが運ばれてきた。前回の失敗を踏まえ、全員がまずは何もせずに一口味見した。
…普通のオムライスだ。
そしてルキエルが、不器用ながら手をハート形に添え、呪文を唱えた。
「『お~い~し~く~な~れ、萌え萌えきゅーん』」
明らかに、オムライスが不自然に──いや、グルメ漫画さながらに輝きだした。
「嘘だろ…」ルキエルとモリアを除く全員がそう思った。
皆、半信半疑でその輝くオムライスを口へ運んだ。
…ふわっ。
スプーンが触れた瞬間、薄金色のオムレツが優しく裂け、中から湯気とともにケチャップライスの甘酸っぱい香りがたちのぼる。卵はちょうど半熟で、とろりとした部分が熱々のご飯を包み込む。
ライスには玉ねぎの微かな甘みと、鶏肉の旨味がしっかり染み込んでいる。オムレツの滑らかな口当たりと、ほどよいケチャップ味のご飯が絡み合う。ふわとろの卵と、ほくほくのご飯の二重奏。
最後にスプーンの背でデミグラスソースをすくい、一緒に口へ運ぶ。
…ほっこりとした、優しい味わい。懐かしくて、どこか新しい、そんな一皿だった。
「マジか…」さっきまでのオムライスとは完全に別物だった。あの意味不明な呪文が、本当に美味しくしてしまうなんて。
「ふむ、へえ~、すごいじゃん」ルキエルも自分のオムライスを食べ、素直に美味しいと認めた。
「いや、すごいのはあんただろうが」
全能のルキエルにとっては、文字通り「彼がそうしたい」と思えば何でもできる。こんな奇跡など、朝飯前なのだ。
「お願いです、是非その魔法を教えてください!」逆にマリの方が、ルキエルに呪文の教えを乞うことになった。
だが、そんな和やかな時ではなかった。
「やめてください。ここはそういうお店ではありません」
「はあ?俺はご主人様だろ、ちょっと触ったくらいいいじゃねえか」
リディアが態度の悪い男の客に絡まれていた。学校を開放する学園祭では、こういった下衆な輩が紛れ込むこともある。メイド喫茶を何かのキャバクラと勘違いし、店員にセクハラを働く。それは学園祭にとって、そしてマリ商会にとって絶対に許されない行為だ。マリが止めに入ろうとしたその時、モリアが彼女の腕を軽くつかんだ。
「少し待って」
「なんで?あの子はあなたのことを母親のように慕っているのに、こんな時ただ見てるだけ?私は店長として、自分の店員がそんな辱めを受けるのを見てられない」
「いやだわ、私のかわいいリディアちゃんをいじめる奴は許さないわ。だけど、こういう時は…『お父さん』が止めに入った方がいいと思うの。ふふっ」
リディアが男に詰め寄られたその瞬間、
「よう兄弟、レディーにそんな扱いはないだろう」男の背後から、大きな手が彼の首筋を絡み取り、強く締め上げた。
「誰だ…貴様は!?」
整った金髪、ハンサムな顔立ち、自信に満ちた笑顔。
「破軍将軍、アリスト。この学校の教師にして、てめえがちょっかいを出した娘の父親だ」
男は一瞬で状況を理解した。降参したいが、アリストの腕力が強く首を締め上げられて声も出せない。
「店の迷惑にならないよう、ちょっと外で話そうか。時間はたっぷりあるぜ」
アリストは男をそのままズルズルと店の外へ引きずり出していった。
「いいお父さんじゃない」
「ダメな男よ。ああ見えて、戦場から帰った時、体はボロボロ。酒と女癖もなかなか直してくれないんだから」リディアは厳しい口調で愚痴をこぼすが、その表情にはどこか柔らかなものが感じられた。
「でも、他のバカな男よりはずっとましかもね」
アリストが入院していた時、リディアはボランティア活動の帰りに彼の世話をしに時折訪れるようになった。一度死にかけたアリストは覚悟を決め、リディアと血縁検査を行った。結果は、紛れもない実の親子だった。
アリストはどこかほっとした。ずっとどこにも居場所がなく漂っていた彼に、ようやく拠り所ができたのだ。
リディアの男嫌いは相変わらずひどかったが、アリストが父であること自体には、それほど嫌悪感はなかった。酒は一日一杯まで、女遊びはやめる、そして仮にアリストが結婚しても、彼女の母親はモリアだけ──この三か条で、二人の親子関係は静かに始まった。
不器用な二人だが、すれ違っていた時間を取り戻すように、ゆっくりと歩み寄ろうとしている。
*
そして、最後に訪れる場所はやはり──
「恋愛相談部へようこそなのじゃ。今は開業キャンペーン中で、カップルのお客様には無料でご相談するのじゃ」
部室の前で幼女姿のコハクが看板娘として客引きをしている。可愛らしい姿ともふもふの尻尾は女子学生から大人気で、すぐに人の列ができていた。
「最後尾はこちらです。はう~、アスちゃんの悪魔使いが荒い~」最後尾の看板を持ってしょんぼり立っているのは、恋愛相談部の新メンバー、ヴェネゴールだ。相変わらずだらけているが、アスモデウスに無理やり働かされている。
「あ~、魔王様、いらっしゃい~」
「これ、まずくはないか? ルキエルもいるのに……え?」
「マスター、行こう行こう! 僕たちの相性、知りたいんだ」
悪魔のヴェネゴールは完全に眼中になかったらしい…。
恋愛相談部には様々なカップルが相談に訪れ、中には夫婦の姿も少なくない。
「最近、主人の夜の生活がうまくいかないんです。いつも帰ってくると酒を飲んでそのまま寝てしまいます。昔はあんなに積極的に求めてきたのに……」
「セックスレスね♪ 奥様」
クリシア王妃もその一人だった。
「いやいや、もう四人も子供がいて、それ以上増やすのもね……それにユウキもいることだし、万が一また授かっちゃったらどうするんだ」カズキ王は隣で弁解するが、クリシア王妃とアスモデウスの女性陣の輪には入れない。
「これを使えばいいじゃない♪ アスにゃん特製・倦怠期殺し♪」
アスモデウスは明らかに怪しい小瓶を取り出した。
「まあ、それは……」
「一滴で、一夜中びんびんだよ♡ 奥様、用量に気をつけて、朝まで楽しんできてね♪」
「ちょっと、わしに何を飲ませる気だ」
「素晴らしいわ、ありがとうございます。早速今夜、試してみますね。ねぇ、あなた」
カズキ王の言葉は王妃には届かず、クリシア王妃は満足げに帰っていった。
「うち、ガルドとの子供が欲しいす。どうすればいいすか」
「えっと……そんなこと、処女の私に聞きますか……?」
ミリアムに相談しに来たのは、ガルドとリリアンヌの夫婦だった。
「だって、ツバキ姉の子供、すっごくかわいいじゃん。うちもほしいす」
「……そんなに急ぐことでもないだろ」子供を欲しがるリリアンヌに対し、ガルドは冷静だ。
「……いつかは、できるさ」
「あああ、もう待てないよ! うちはツバキ姉とママ談議したいすよ! 魔王も倒したことだし、ママライフを満喫したいすよ!」
「コウノトリが運んでくるかしら……」
「なにその処女みたいな答え! そんなわけないじゃん!」
「ああ、処女ですよ、悪い! 幸せな家族計画は他所でやってくれませんか。だから私は向いてないって、何度もアスモデウス様に言ったのに……ねぇ、聞いてますか?」
相談するはずが、逆に相談されたのはガルド夫婦の方だった。
「ええ~、魔王さま、何やっていらっしゃるデースか?」
魔王一家の相談担当はベリアルだった。
「君はこの仕事に向いてないだろ、ベリアル。どう考えても……」魔王は手で顔を覆い、ため息を漏らした。
「いいのよ、ベル。思ったことを言っていいから、話しなさい」
「はい! 姉さん。あの……率直な感想を言うと、魔王様のハーレム、ロリとショタ率が高くないデースか?」
「セリナはロリじゃありません。立派なレディです」
「ねえ、今、俺はロリとショタのどっちに入れられているかな?」
「吾輩は性別がないので、どちらでもないであります」
「悪魔の分際で、僕をショタ呼ばわりするとは……死にたいか?」
魔王一家の雰囲気は一気に険しくなり始めた。
「そうだな……意識してやってないが、モリアがやったんだろ? どうせ」
「あら、よくわかったわね。そうよ、だって私より背が高くて胸が大きい女の子なんて、あなたのそばにいさせられるわけないわ。その縁は全部、芽が出る前に摘んだわ」
モリアは魔王に幸せになってほしかった。だからこそ、様々な女性を彼に引き寄せた。だが、その強い嫉妬心ゆえに、彼女よりも女らしい体つきをした女性との縁だけは、ことごとく発生させなかった。それが、魔王のハーレムにロリとショタしかいない謎の正体だった。
「ちょっと! それで俺の胸が、男の体のモリアに負けたってこと? 嘘でしょ!」
「セリナ、この見た目でよかったかも」
その答えに憂い者もいれば、喜ぶ者もいた。
「恋愛相談部へようこそなのじゃ」
コハクが部室の前で呼び込みをしていると、その時、意外な客がやって来た。
「あの娘が言っていた通り、本当にいたね」
「!?」
そこに立っていたのは、ティアノとツバキの夫婦だった。生まれてまだ何日も経たないノアを抱き、彼女の前に現れたのだ。
逃げたい──でも、そんなことをすれば余計に怪しまれる。今の彼らは小さくなった彼女を知らないはずだ。あくまで他人のふりをすればいい。
「恋愛相談部へようこそなのじゃ。今は立て込んでおって、少々お待ちくださるのじゃ」
「母さん、もう演じなくていいんだよ。戦争はもう終わったんだから」
コハクの心が揺らぐ。前回ティアノに「母さん」と呼ばれたのは、もう20年以上も前のこと。今の彼は、もう3歳の子狐ではなく、立派に成人している。だが自分は帝国の罪人であり、悪魔の使い魔まで堕ちた、幼女姿の狐だ。今さら認めたところで、何になる?
「人見違いなのじゃ。わらわはただの狐の幼女、お主の母ではないのじゃ」
「母さんを見分けられない息子はいないよ」
「嘘なのじゃ、わらわはずっと……あっ!」コハクは言葉を言いかけて、ようやくティアノのトリックに気づいた。
「やっぱり母さんだね。どんな姿に変わっても、僕にはわかるんだ。『花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに』」
ティアノは、その句の書かれた花札を取り出した。
「戦争は終わった。あなたは魔王コハクも、ミラージュも演じる必要はないの。ただ、ティアノの母でいられればいいのよ」
「わらわ……罪を犯した。お主のことをダークソウルに差し出すことで、わらわの子狐の安全を守ろうとした。今のわらわに、どんな顔を下げて母でいられるというのじゃ」
「笑っている顔でいいと思う。私も母になったからわかる。この子のために例えどんな罪でも犯す覚悟ができる。だから、あなたがそうしたのも理解できるようになった。私に対するあなたの罪は、すべて許す。他の罪は時間をかけて、一緒に償っていきましょう。だって、家族だから」
「総統閣下……」
小さな体が震え、涙が幼い瞳からこぼれ落ちる。
「母さん、一緒に最初からやり直そう。ゼロから、いや、マイナスからでもいい。もう一度、家族になろうよ」
「うん……狐太郎──」
コハクは二人を抱きしめ、初めて誰かを演じることなく、本当の自分を家族に見せることができた。ノアも、そんな祖母を見て、その気持ちを理解したかのように、同じく泣き始めた。
「え?」
(狐太郎って誰?)
夫婦二人は思った。後で知ることになるが、それはティアノの乳名であった。
*
学園祭の最後は、キャンプファイアーを囲んだフォークダンス。
「はは、楽しいある」
「師匠、俺の足を踏んでる、踏んでる!」
学園祭の最後に一緒に踊ったカップルは結ばれるという伝説がある。
学校自体はそこまで長い年月を経ていないので信憑性は低いはずなのに、皆の熱意は衰えない。
「お嬢さん、俺と一曲踊らんか?」
「お父さんと踊るなんて恥ずかしすぎます。公平会の決着も結局引き分けだったし、もうお母さんと踊ればいいのに」
「はは、振られたか。では、そこのお嬢さん──痛い痛い痛い痛い!」
ナンパしようとしたアリストは、リディアに耳を引っ張られて家に連れ帰られた。
「ガルド、上手い、かっこいい! あれから考えたけど、やっぱりまだ二人の世界がいい」
「……女って、よくわからん……」
ガルドとリリアンヌの明るい家族計画は、しばらく延期されたらしい。
「ミリリン♪ どう、アスにゃん、上手いでしょ♡」
「なんで男子側のステップがそんなにうまいんですか! まさか……!」
「♪♪♪」
「ごまかさないでくださいよ! 帰ったら正直に白状しなさい!」
女の子同士で踊る姿もあった。
「あの……いい加減、旦那を返してくれませんか……」
「いやなのじゃ! 狐太郎はわらわと踊るのじゃ! 嫁ごときが姑に逆らうんじゃないのじゃ!」
「ちょっと、母さん。もう……」
ティアノ(狐太郎)は、嫁姑の戦場に挟まれ、これからも賑やかになりそうだ。
「あら、お上手なこと。まあ、知っていますけど」
「それは……君には恥をかかせないように、だよ。ありがとう、モリア。今まで私のためにしてくれたことを」
「ずるいわ。そう言われるとわかっていても、この胸の高鳴りは抑えられませんわ」
モリアと魔王は、キャンプファイアーを背景にキスを交わした。
「ちょっと! キスするなんて聞いてません! セリナ、今日はまだしてないのに!」
「俺もだぞ! 俺の番までにフォークダンス終わらないかな」
「早くしろであります! 後ろは控えでいるであります!」
「えいっ!」
魔王と一緒に踊っているはずのモリアが、いつの間にかルキエルに入れ替わっていた。
「あのバカ天使、強引に列に割り込んでたわね。知っていたけど、どこまでわがままなのかしら」
邪魔をされたモリアは、当然いい気分ではなかった。
「べえ~だ、お化け屋敷の時、僕の番来なかっただもん。このくらい譲ってもらって当然なのだ」
そんな賑やかな争いの中、学園祭は静かに幕を下ろした。
その大半は女と子供たちである。戦勝は喜ばしいことではあるが、彼女たちにとって何よりも大事なのは、家族が無事に帰還することだった。
戦艦が港に着岸し、兵士たちが舷梯を降りてくる。人垣の中から自分の家族の姿を見つけ、安堵と喜びに沸く者もいれば、戦死者の報せを聞き、その場で泣き崩れる者も数多くいた。
「そうか……兄は……。兄は最後まで帝国の軍人として、立派だったか……」
アレックスの兄、ジョージ少尉は、アリスト将軍と共に森を突破する際の五人の中の一人だった。森の夜雨による低体温症で殉職した。アレックスが誇りにしていた兄は、今回は戻ってこなかった。
「ああ……最後まで軍人としての責務を全うした」伍長は帽子を深くかぶり直し、自らの涙を隠した。
七千四十九人──これが、わずか七日間の戦争で失われた帝国軍人の数である。
数字にすればただの冷たいデータに過ぎないが、その一つ一つが、一つの家族を、一つの人生を、そして一つの未来を砕く山のような重みを持っていた。
勝利の歓声はなかった。祝賀の礼砲も鳴らされなかった。
帝都は静かな悲しみに包まれた。
女帝ツバキとその夫は、犠牲となった兵士たちのために国を挙げての葬儀を執り行った。
その日、帝国の国旗は半旗となった。
帝国三将軍──
貪狼将軍エンプラはメンテナンスのため欠席。代わりにドクターが列席した。
破軍将軍アリストは命の危機を脱したものの、重傷により入院中。
七殺将軍ミラージュは行方不明。彼女が九尾の狐コハクであることは、軍部ですらまだ知らない。
初めて三将軍全員が揃わない葬儀。今回の魔族との戦いは、帝国に深い爪痕を残した。
王国のカズキ一家も、長女ツバキを気遣い帝都を訪れた。
墓標が立ち並ぶ霊園を見つめながら、王国で数ヶ月前に起こったクーデターの記憶が蘇る。戦火の傷跡は、国境を越えて人々の心に刻まれていた。
犠牲者を弔った後、王国と帝国は正式に不可侵条約を結んだ。
戦争は終わったが、その代償はあまりにも大きく、人々の心に残った空虚と悲しみは、簡単には癒えるものではなかった
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何ヶ月もの時が経ち、帝国の人々はようやく長い戦争の深い悲しみから抜け出そうとしていた。
そして女帝ツバキは、無事に出産を終えた。生まれたのは、健やかな男の子。
母であるツバキに似た銀色の髪を持ち、父であるティアノの血を引いて、生まれつきふさふさとした一本の狐の尾もあった。
魔族との戦いの痛みを決して忘れず、かつ新たな未来への希望を託して、二人は皇子に「ノア」と名付けた。その名は、新たな始まりを意味していた。
これを帝国全体で祝うため、一週間にわたる盛大な祝祭が催された。当然、帝国大学付属高校も例外ではない。
「去年の勝負は曖昧に終わったが、今年こそ白黒つけようじゃないか! 公平会と、てめえら新平等会、どっちが上か、この学園祭の売上で決着だ!」
「ご随意に。こちらの面々は、アルバイトで何年も鍛えていますから。それと、『平等会』じゃなくて『新平等会』ですよ? あんなオカルト同好会と一緒にしないで頂戴」
アレックスを筆頭とする公平会と、リディアが率いる新平等会による、新たな模擬戦の火蓋が切られた。ただし、その戦いはあくまで「平和的な売上競争」。祭りの終わりには、全ての売上金が慈善事業へ寄付される予定だった。
校門が開くその瞬間、勝負は始まる。ぼったくりや規律違反がないよう、審判として中立委員会エンプラシステムが監視につくが、その出番はまずないだろう——皆、そう思っていた。
*
「あのう、私は毛玉の姿の方が気楽なのだが……」
魔王は、家族サービスとして一家を連れて学園祭を回ることになっていた。
「だめです。それじゃあ、デートっぽくありません」
隣では、セリナが嬉しそうに彼の腕を組んでいる。しかし、人間姿の魔王と並ぶと、恋人同士というより、父と娘に見えなくもない。
「セリナ、次は俺の番だからな。ちゃんとルールは守れよ、一人三十分で」
「えー? だってレン君は、セリナに内緒で今までマオウさんとたくさんイチャイチャしてたじゃないですか。セリナの埋め合わせくらい、させてください」
「そんなにしてないよ……黙ってたのは悪かったと思ってる。だからこそ、これはこれで」
あの後、レンとセリナは話し合い、魔王に黙っていたことの「埋め合わせ」として、一年間の「魔王とのイチャイチャイベント」は全てセリナ優先、という取り決めがなされた。肝心の当の本人に発言権がなかったのは、言うまでもない。
「おおお! 射的の屋台があります! 吾輩、ちょっと行くでありますよ!」
「戻ってこい。あれは素人が楽しむものだ。プロが場を壊すじゃない。」
自前の狙撃銃を持ち出してワクワクするエンプラの首根っこを、魔王がさっと掴んだ。
「それはロボ差別であります! 吾輩、あの『貪狼将軍』限定モデルが欲しいであります!」
「家に帰ったら作ってやる。それまで我慢しろ」
「あ、それ俺にも作ってくれよ! ロボット、かっこいいよな」
レンもやはり、男の子らしい趣味を持っていて、帝都で流行のロボ文化にすっかりはまり、ロボのエンプラともすぐに打ち解けていた。
「セリナにも、作ってください」
「セリナ君は、そんなにロボが好きなのか?」
「掃除機と炊飯器なら、便利でほしいかもです」
「……あれは家電だ。セリナ、いい加減機械とロボの違いくらい、覚えよう……」
*
「あの、そのお金を……」
「は? 僕にお金を請求するのか?」
さっきからクレープの屋台前で、大きなイチゴクレープをむしゃむしゃ食べているのは、堕天使ルキエルだった。
「野蛮ですこと。お金を払わずに物をいただくなんて、山賊の所業ですわ。バカ天使にはお似合いですけど。ふふっ。店員さん、こちらは私の分の代金ですわ。」
「いや、会長のお金は受け取れませんよ。折角まだ遊びに来てくださったのに。」
その隣で、優雅にクレープのクリームを舐め取りながら、ルキエルを蔑むように言い放つのはモリア。彼女はかつて公平会の会長を務めており、今も関係者からの人望は厚く、この公平会出店のクレープ屋では、彼女から代金を取らないのが暗黙のルールとなっていた。
「何を! 僕には取るのに、僕にはお金を取るのに、この悪魔からは取れないのか。滅ぼしてやる。」
その事情を知らないルキエルが、当然のように癇癪を起こす。
「はいはい、私が払うので、落ち着け。」
背後から、ロンギヌスの槍を展開しようとするルキエルの手首を、魔王が軽く掴んだ。
「マスター! あのね、あのね、この『クレープ』って食べ物、すごくうまいんだよ! マスターも食べる?」
先ほどまでの高圧的な態度が嘘のように、口調が幼くなったルキエルは、自分がかじったクレープを差し出した。
「ああ、ありがとう、ルー。私も、この生地の柔らかさがいいんだよね」
魔王は躊躇わず、一口味わった。
「……間接キス……」
モリアの呟きが、火種となった。
「あの俺も実は甘いものが好きなんだ、それを俺にも食べさせて。」
「ルールを忘れましたか、レン君。順番はセリナが優先です。その後で」
「待て! それはただ、セリナと間接キスしただけじゃないか! いやよ、そんなの。」
「——頂くであります」
エンプラは、二人がもめる隙に、残りのクレープをパクリと一口で平らげた。
「「あああっ!?」」
「美味しいであります」
「食べ方が汚いな。ほら、ティッシュで拭いてやるから、動くな」
漁夫の利とは、まさにこのことだ。エンプラにその計算があったわけではなさそうだが。
「キス? あ! そうだ! マスター、ただいまのキス、まだだった!」
ルキエルは、何の前触れもなく魔王の首に腕を回し、自らの唇を重ねた。クレープの甘い香りが、二人の間にほんのり広がる。
「いつまでキスしてんのかしら、このキス魔バカ天使っ!」
腹の底が煮えくり返るほどの嫉妬に駆られたモリアが、強引に二人を引き離した。
「邪魔する気が、悪魔!」
「いやですわ、それ以上すると、彼女たちは可哀想だからね。」
先のルキエルと魔王のキスで撃沈した女の娘約二名。
「マオウさんが……男の子と……キス……した。」
「ホモだった…俺を好きになったのもホモ…だったからか!?」
セリナは目が泳ぎ、レンは青ざめた。そして、
「生、生キス初めて見たであります!ねぇ、ドクター。吾輩も試したいであります」
「いや、君の口の中鉄しかないだろ、拷問か………」
好奇心だけは人一倍のエンプラも、無遠慮に口を挟む。
魔王一家揃ったことで本格的に学園祭を周り始めた。
*
最初に回るのはお化け屋敷だ。
正直なところ、この面子ではかなり危険だ。
魔王一名、勇者一名、姫一名、天使一名、悪魔一名、ロボット一体。
とてもではないが、お化けに驚かされるより、むしろお化けを退治しに行くようなものだと誰もが思った。
「げっ、マサ兄!」
「おお!レンか、奇遇だな」
「ダーリン♡」
お化け屋敷の前には、小梅とマサキの師弟、
「レン姉ちゃん!」と王家の末子ユウキ、
「ルキエル様、なぜここに?いえ、お越しくださり光栄でございます」と苦労人のマーリンがいた。
「父様と母様は?」レンは家族が来ることは予想していたが、まさかこんなに早く会うとは思っていなかった。
「あの二人は『恋愛相談コーナー』に行ったらしいぜ。いい歳して仲が良すぎるだろ。ガルドとリリアンヌもそっちに行ったし、正直俺も行きたかった」
「なにを言っているある。気の修行は毎日欠かさずやるね。ちょうど修行の場所も用意されて親切ある」
「だから、お化け屋敷は修行の場所じゃないだろ。出入り禁止にされたらどうするんだ」
「はい。迷える魂を導くのも聖職者の使命です。滅ぼすのではなく、導く方が正しいと、神はそうおっしゃいました」
「僕は怖くなかったよ。だって怒ったお母さんの方がずっと怖いもん」
「「それには同意だ」」クリシア王妃の怖さは、子供時代を共に過ごした彼らの間では揺るぎない共通認識だった。
「そんなわけで、師匠とマーリンが大暴れしたせいで、俺たちは出入り禁止になったぞ。お前らも気をつけろよ」
マサキたちが去った後、空気は重くなった。とても入る気にはなれない。
「まあ、折角来たし、ペアで少しずつ入っていこうか」
魔王はブレーキ役として、残りの五名と一人ずつ組んで入ることにした。
最初は、やはりセリナ。
暗闇の中、二人は進んでいく。
「ゴーストタウンみたいではないですね。まあ、作り物ですからね」
「マオウさん、マオウさん、見てください。幽霊さんです。足が出ていますね。新種でしょうか?」
「あれは人が偽装したものだ。そっとしておいてあげて…」
元々幽霊を怖がらないセリナは、一年間の旅でさらに図太くなっていた。むしろ魔王の教えで、静かに現れる幽霊やお化けを観察し始めた。
スタッフの生徒たちには申し訳ないが、セリナのターンは何事もなく終了した。
「手、離さないでよ」
「はいはい。君、幽霊は怖くなくなったんじゃなかったのか?」
二人目のレン。幽霊が苦手という弱点は、案の定まだ健在だった。
「はは、何言ってるんだ。怖いわけないだろ、俺は——」
不意に白い影が現れ、レンの声はそこで途絶えた。
「気絶したのか…すまないな、ちょっとこの子を外まで送ってくるよ」
入って早々、レンはお化け屋敷の幽霊役の生徒の嚇しによってリタイアとなった。
「ドクター、ドクター、ゾンビでありますよ。撃ちたいであります」
「ダメに決まっているだろ。さっきの連中みたいに出入り禁止にされたいのか?」
エンプラの光学センサーは暗闇で自動的に夜間モードに切り替わるため、ここは外と変わらない明るさに感じられるらしい。
「大蝙蝠発見であります。今回は吾輩はちゃんと閃光弾を持参しているでありますよ」
「ちょっと待——!」
魔王が一瞬気を緩めた隙に、エンプラはやらかした。閃光弾が周囲一面を白く染め上げた。あまりの強光に目をやられたスタッフも当然出た。
そして結果は言うまでもない。
出入り禁止。
「ねえ?どうして僕の番が来なかったの?」
魔王は思った。ルキエルの前にエンプラで終わらせたことは、ある意味で運が良かったのかもしれない、と。
*
次に訪れたのはメイド喫茶。名前からして、誰がやっているか想像がつく。
「いらっしゃいませー、ご主人様、お嬢様!」
教室いっぱいに広がるメイド服の姿。その一番奥に立っているのはリディアと──
「セリナさん、レンさん、それと……お母さん!」
「セリナちゃん、久しぶりね」
マリ商会会長のマリだった。
席を取り、六人の大所帯が腰を下ろす。
「ご主人様、何をご注文なさいますか?」マリは自らオーダーを取りに来た。
「それはもちろん、『美味しくなる呪文』をかけてもらったオムライスでしょ?」
「セリナも、前回は呪文を習得できなかったので、お願いします」
「お断りします」マリは二度と以前のような恥ずかしい思いをしないと誓っていたので、断固として拒否した。
「なにそれ?僕、聞いたことないんだけど」ルキエルも興味をそそられた。
「あら、知らないのかしら?『お~い~し~く~な~れ♡萌え萌えきゅーん♡』って唱えると、料理がもっと美味しくなれますわ。ふふふ。」
「へえ~。じゃあ僕、やってみる」
「え?」
まもなく、全員分のオムライスが運ばれてきた。前回の失敗を踏まえ、全員がまずは何もせずに一口味見した。
…普通のオムライスだ。
そしてルキエルが、不器用ながら手をハート形に添え、呪文を唱えた。
「『お~い~し~く~な~れ、萌え萌えきゅーん』」
明らかに、オムライスが不自然に──いや、グルメ漫画さながらに輝きだした。
「嘘だろ…」ルキエルとモリアを除く全員がそう思った。
皆、半信半疑でその輝くオムライスを口へ運んだ。
…ふわっ。
スプーンが触れた瞬間、薄金色のオムレツが優しく裂け、中から湯気とともにケチャップライスの甘酸っぱい香りがたちのぼる。卵はちょうど半熟で、とろりとした部分が熱々のご飯を包み込む。
ライスには玉ねぎの微かな甘みと、鶏肉の旨味がしっかり染み込んでいる。オムレツの滑らかな口当たりと、ほどよいケチャップ味のご飯が絡み合う。ふわとろの卵と、ほくほくのご飯の二重奏。
最後にスプーンの背でデミグラスソースをすくい、一緒に口へ運ぶ。
…ほっこりとした、優しい味わい。懐かしくて、どこか新しい、そんな一皿だった。
「マジか…」さっきまでのオムライスとは完全に別物だった。あの意味不明な呪文が、本当に美味しくしてしまうなんて。
「ふむ、へえ~、すごいじゃん」ルキエルも自分のオムライスを食べ、素直に美味しいと認めた。
「いや、すごいのはあんただろうが」
全能のルキエルにとっては、文字通り「彼がそうしたい」と思えば何でもできる。こんな奇跡など、朝飯前なのだ。
「お願いです、是非その魔法を教えてください!」逆にマリの方が、ルキエルに呪文の教えを乞うことになった。
だが、そんな和やかな時ではなかった。
「やめてください。ここはそういうお店ではありません」
「はあ?俺はご主人様だろ、ちょっと触ったくらいいいじゃねえか」
リディアが態度の悪い男の客に絡まれていた。学校を開放する学園祭では、こういった下衆な輩が紛れ込むこともある。メイド喫茶を何かのキャバクラと勘違いし、店員にセクハラを働く。それは学園祭にとって、そしてマリ商会にとって絶対に許されない行為だ。マリが止めに入ろうとしたその時、モリアが彼女の腕を軽くつかんだ。
「少し待って」
「なんで?あの子はあなたのことを母親のように慕っているのに、こんな時ただ見てるだけ?私は店長として、自分の店員がそんな辱めを受けるのを見てられない」
「いやだわ、私のかわいいリディアちゃんをいじめる奴は許さないわ。だけど、こういう時は…『お父さん』が止めに入った方がいいと思うの。ふふっ」
リディアが男に詰め寄られたその瞬間、
「よう兄弟、レディーにそんな扱いはないだろう」男の背後から、大きな手が彼の首筋を絡み取り、強く締め上げた。
「誰だ…貴様は!?」
整った金髪、ハンサムな顔立ち、自信に満ちた笑顔。
「破軍将軍、アリスト。この学校の教師にして、てめえがちょっかいを出した娘の父親だ」
男は一瞬で状況を理解した。降参したいが、アリストの腕力が強く首を締め上げられて声も出せない。
「店の迷惑にならないよう、ちょっと外で話そうか。時間はたっぷりあるぜ」
アリストは男をそのままズルズルと店の外へ引きずり出していった。
「いいお父さんじゃない」
「ダメな男よ。ああ見えて、戦場から帰った時、体はボロボロ。酒と女癖もなかなか直してくれないんだから」リディアは厳しい口調で愚痴をこぼすが、その表情にはどこか柔らかなものが感じられた。
「でも、他のバカな男よりはずっとましかもね」
アリストが入院していた時、リディアはボランティア活動の帰りに彼の世話をしに時折訪れるようになった。一度死にかけたアリストは覚悟を決め、リディアと血縁検査を行った。結果は、紛れもない実の親子だった。
アリストはどこかほっとした。ずっとどこにも居場所がなく漂っていた彼に、ようやく拠り所ができたのだ。
リディアの男嫌いは相変わらずひどかったが、アリストが父であること自体には、それほど嫌悪感はなかった。酒は一日一杯まで、女遊びはやめる、そして仮にアリストが結婚しても、彼女の母親はモリアだけ──この三か条で、二人の親子関係は静かに始まった。
不器用な二人だが、すれ違っていた時間を取り戻すように、ゆっくりと歩み寄ろうとしている。
*
そして、最後に訪れる場所はやはり──
「恋愛相談部へようこそなのじゃ。今は開業キャンペーン中で、カップルのお客様には無料でご相談するのじゃ」
部室の前で幼女姿のコハクが看板娘として客引きをしている。可愛らしい姿ともふもふの尻尾は女子学生から大人気で、すぐに人の列ができていた。
「最後尾はこちらです。はう~、アスちゃんの悪魔使いが荒い~」最後尾の看板を持ってしょんぼり立っているのは、恋愛相談部の新メンバー、ヴェネゴールだ。相変わらずだらけているが、アスモデウスに無理やり働かされている。
「あ~、魔王様、いらっしゃい~」
「これ、まずくはないか? ルキエルもいるのに……え?」
「マスター、行こう行こう! 僕たちの相性、知りたいんだ」
悪魔のヴェネゴールは完全に眼中になかったらしい…。
恋愛相談部には様々なカップルが相談に訪れ、中には夫婦の姿も少なくない。
「最近、主人の夜の生活がうまくいかないんです。いつも帰ってくると酒を飲んでそのまま寝てしまいます。昔はあんなに積極的に求めてきたのに……」
「セックスレスね♪ 奥様」
クリシア王妃もその一人だった。
「いやいや、もう四人も子供がいて、それ以上増やすのもね……それにユウキもいることだし、万が一また授かっちゃったらどうするんだ」カズキ王は隣で弁解するが、クリシア王妃とアスモデウスの女性陣の輪には入れない。
「これを使えばいいじゃない♪ アスにゃん特製・倦怠期殺し♪」
アスモデウスは明らかに怪しい小瓶を取り出した。
「まあ、それは……」
「一滴で、一夜中びんびんだよ♡ 奥様、用量に気をつけて、朝まで楽しんできてね♪」
「ちょっと、わしに何を飲ませる気だ」
「素晴らしいわ、ありがとうございます。早速今夜、試してみますね。ねぇ、あなた」
カズキ王の言葉は王妃には届かず、クリシア王妃は満足げに帰っていった。
「うち、ガルドとの子供が欲しいす。どうすればいいすか」
「えっと……そんなこと、処女の私に聞きますか……?」
ミリアムに相談しに来たのは、ガルドとリリアンヌの夫婦だった。
「だって、ツバキ姉の子供、すっごくかわいいじゃん。うちもほしいす」
「……そんなに急ぐことでもないだろ」子供を欲しがるリリアンヌに対し、ガルドは冷静だ。
「……いつかは、できるさ」
「あああ、もう待てないよ! うちはツバキ姉とママ談議したいすよ! 魔王も倒したことだし、ママライフを満喫したいすよ!」
「コウノトリが運んでくるかしら……」
「なにその処女みたいな答え! そんなわけないじゃん!」
「ああ、処女ですよ、悪い! 幸せな家族計画は他所でやってくれませんか。だから私は向いてないって、何度もアスモデウス様に言ったのに……ねぇ、聞いてますか?」
相談するはずが、逆に相談されたのはガルド夫婦の方だった。
「ええ~、魔王さま、何やっていらっしゃるデースか?」
魔王一家の相談担当はベリアルだった。
「君はこの仕事に向いてないだろ、ベリアル。どう考えても……」魔王は手で顔を覆い、ため息を漏らした。
「いいのよ、ベル。思ったことを言っていいから、話しなさい」
「はい! 姉さん。あの……率直な感想を言うと、魔王様のハーレム、ロリとショタ率が高くないデースか?」
「セリナはロリじゃありません。立派なレディです」
「ねえ、今、俺はロリとショタのどっちに入れられているかな?」
「吾輩は性別がないので、どちらでもないであります」
「悪魔の分際で、僕をショタ呼ばわりするとは……死にたいか?」
魔王一家の雰囲気は一気に険しくなり始めた。
「そうだな……意識してやってないが、モリアがやったんだろ? どうせ」
「あら、よくわかったわね。そうよ、だって私より背が高くて胸が大きい女の子なんて、あなたのそばにいさせられるわけないわ。その縁は全部、芽が出る前に摘んだわ」
モリアは魔王に幸せになってほしかった。だからこそ、様々な女性を彼に引き寄せた。だが、その強い嫉妬心ゆえに、彼女よりも女らしい体つきをした女性との縁だけは、ことごとく発生させなかった。それが、魔王のハーレムにロリとショタしかいない謎の正体だった。
「ちょっと! それで俺の胸が、男の体のモリアに負けたってこと? 嘘でしょ!」
「セリナ、この見た目でよかったかも」
その答えに憂い者もいれば、喜ぶ者もいた。
「恋愛相談部へようこそなのじゃ」
コハクが部室の前で呼び込みをしていると、その時、意外な客がやって来た。
「あの娘が言っていた通り、本当にいたね」
「!?」
そこに立っていたのは、ティアノとツバキの夫婦だった。生まれてまだ何日も経たないノアを抱き、彼女の前に現れたのだ。
逃げたい──でも、そんなことをすれば余計に怪しまれる。今の彼らは小さくなった彼女を知らないはずだ。あくまで他人のふりをすればいい。
「恋愛相談部へようこそなのじゃ。今は立て込んでおって、少々お待ちくださるのじゃ」
「母さん、もう演じなくていいんだよ。戦争はもう終わったんだから」
コハクの心が揺らぐ。前回ティアノに「母さん」と呼ばれたのは、もう20年以上も前のこと。今の彼は、もう3歳の子狐ではなく、立派に成人している。だが自分は帝国の罪人であり、悪魔の使い魔まで堕ちた、幼女姿の狐だ。今さら認めたところで、何になる?
「人見違いなのじゃ。わらわはただの狐の幼女、お主の母ではないのじゃ」
「母さんを見分けられない息子はいないよ」
「嘘なのじゃ、わらわはずっと……あっ!」コハクは言葉を言いかけて、ようやくティアノのトリックに気づいた。
「やっぱり母さんだね。どんな姿に変わっても、僕にはわかるんだ。『花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに』」
ティアノは、その句の書かれた花札を取り出した。
「戦争は終わった。あなたは魔王コハクも、ミラージュも演じる必要はないの。ただ、ティアノの母でいられればいいのよ」
「わらわ……罪を犯した。お主のことをダークソウルに差し出すことで、わらわの子狐の安全を守ろうとした。今のわらわに、どんな顔を下げて母でいられるというのじゃ」
「笑っている顔でいいと思う。私も母になったからわかる。この子のために例えどんな罪でも犯す覚悟ができる。だから、あなたがそうしたのも理解できるようになった。私に対するあなたの罪は、すべて許す。他の罪は時間をかけて、一緒に償っていきましょう。だって、家族だから」
「総統閣下……」
小さな体が震え、涙が幼い瞳からこぼれ落ちる。
「母さん、一緒に最初からやり直そう。ゼロから、いや、マイナスからでもいい。もう一度、家族になろうよ」
「うん……狐太郎──」
コハクは二人を抱きしめ、初めて誰かを演じることなく、本当の自分を家族に見せることができた。ノアも、そんな祖母を見て、その気持ちを理解したかのように、同じく泣き始めた。
「え?」
(狐太郎って誰?)
夫婦二人は思った。後で知ることになるが、それはティアノの乳名であった。
*
学園祭の最後は、キャンプファイアーを囲んだフォークダンス。
「はは、楽しいある」
「師匠、俺の足を踏んでる、踏んでる!」
学園祭の最後に一緒に踊ったカップルは結ばれるという伝説がある。
学校自体はそこまで長い年月を経ていないので信憑性は低いはずなのに、皆の熱意は衰えない。
「お嬢さん、俺と一曲踊らんか?」
「お父さんと踊るなんて恥ずかしすぎます。公平会の決着も結局引き分けだったし、もうお母さんと踊ればいいのに」
「はは、振られたか。では、そこのお嬢さん──痛い痛い痛い痛い!」
ナンパしようとしたアリストは、リディアに耳を引っ張られて家に連れ帰られた。
「ガルド、上手い、かっこいい! あれから考えたけど、やっぱりまだ二人の世界がいい」
「……女って、よくわからん……」
ガルドとリリアンヌの明るい家族計画は、しばらく延期されたらしい。
「ミリリン♪ どう、アスにゃん、上手いでしょ♡」
「なんで男子側のステップがそんなにうまいんですか! まさか……!」
「♪♪♪」
「ごまかさないでくださいよ! 帰ったら正直に白状しなさい!」
女の子同士で踊る姿もあった。
「あの……いい加減、旦那を返してくれませんか……」
「いやなのじゃ! 狐太郎はわらわと踊るのじゃ! 嫁ごときが姑に逆らうんじゃないのじゃ!」
「ちょっと、母さん。もう……」
ティアノ(狐太郎)は、嫁姑の戦場に挟まれ、これからも賑やかになりそうだ。
「あら、お上手なこと。まあ、知っていますけど」
「それは……君には恥をかかせないように、だよ。ありがとう、モリア。今まで私のためにしてくれたことを」
「ずるいわ。そう言われるとわかっていても、この胸の高鳴りは抑えられませんわ」
モリアと魔王は、キャンプファイアーを背景にキスを交わした。
「ちょっと! キスするなんて聞いてません! セリナ、今日はまだしてないのに!」
「俺もだぞ! 俺の番までにフォークダンス終わらないかな」
「早くしろであります! 後ろは控えでいるであります!」
「えいっ!」
魔王と一緒に踊っているはずのモリアが、いつの間にかルキエルに入れ替わっていた。
「あのバカ天使、強引に列に割り込んでたわね。知っていたけど、どこまでわがままなのかしら」
邪魔をされたモリアは、当然いい気分ではなかった。
「べえ~だ、お化け屋敷の時、僕の番来なかっただもん。このくらい譲ってもらって当然なのだ」
そんな賑やかな争いの中、学園祭は静かに幕を下ろした。
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ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
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取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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