6 / 171
序章:すべての旅は、茶番から始まる――剣も魔法もまだいらない
第6話:その朝、聖剣の光は牢獄を照らした
しおりを挟む
王都の朝。
最初に光を浴びるのは、聖剣を祀る神殿の尖塔だ。
商人たちは店先に商品を並べ、
一日の商売に備えて忙しく立ち働く。
貴族たちの屋敷でも、
使用人たちが慌ただしく動き始めていた。
――すべてが、いつも通りのはずだった。
セリナもまた、平穏な朝を迎えるつもりで目を覚ました。
しかし、彼女の目に映ったのは"いつも"とは程遠い光景だった。
隣のベッドにいるはずのマリの姿はない。
代わりに彼女を取り囲むのは、
目を見開いた神官と、
警戒した様子の衛兵たちだった。
――原因は、おそらく……
自分の腕の中にある"これ"だ。
寝ぼけた頭で意識を向けた先にあったのは、
昨夜から抱いて眠っていたあの聖剣。
まさか、それが騒動の火種になるとは――
セリナはまだ理解できていなかった。
「おまえ、何をしておる! なぜ聖剣を抱いている!?」
「い、いや、あの……天使様が……!」
「天使? どこにもいないじゃない!」
寝起きにしては刺激が強すぎる光景と怒声に、
セリナの思考は混乱するばかりだった。
昨夜の出来事は夢だったのか、それとも――。
「えっ……えっと……す、すみませんっ!
本当にごめんなさいっ!
わざとじゃないんですっ!」
「ええい、捕らえよ! こやつは聖剣泥棒だ!」
こうしてセリナは、
「勇者になった最初の試練」として、
まさかの"牢屋行き"からその一日を始めることになったのだった。
「号外! 号外!
神殿で聖剣盗難事件発生!
犯人はなんと――使用人の少女だ!」
ニュースは、あっという間に王都全体に知れ渡った。
通りには新聞売りの声が響き、
市民たちは噂話に花を咲かせる。
「処刑すべきだ!
あんな身分の低い娘が聖剣を抜けるはずがない。
なにか不正を働いたに違いない!」
第一王子マサキとその派閥は、
セリナの処刑を強く要求した。
"使用人が勇者になるなど、認められるはずがない"
という論理だ。
それに対し、大司祭は静かに反論した。
「聖剣を抜いた者こそが、神に選ばれし勇者。
それは代々、王家が守ってきた掟です。
前回、誰も聖剣を抜けなかったゆえに、
異世界の勇者を召喚したのでしょう?
ならば今回は――
神は、あの少女を選んだのです。
人の都合で口を挟むなど、
神への冒涜に他なりません」
この問題の最終判断は、
現王――前・異世界勇者に委ねられた。
そして王は、迷いなく言い放った。
「……わしは、あの娘を勇者として認める」
「父上っ!?」
王子の叫びをよそに、
王は静かに目を閉じた。
たとえ実の息子であっても、
かつて異世界で戦い抜いた王の価値観は変わらなかった。
努力と選定、それこそが真の勇者だと、
彼は知っていたのだ。
だが――
王子マサキは、その価値観を受け継いではいなかった。
王家に生まれ、
貴族社会の中で育った彼は、
血筋と格式の正しさを叩き込まれていた。
彼の周囲もまた、
それを"正しい"王の姿と信じていた。
だからこそ、
たとえ王が正式にセリナを勇者と認めようとも、
マサキと彼の背後にある貴族勢力は、
それを到底受け入れることはできなかった。
そして――
王子の心に芽生えたのは、
"怒り"ではなく"憎しみ"だった。
それは小さな種だったが、
いずれは黒き華を咲かせ、
自らを、そして周囲をも飲み込んでいくことになる。
そうとは知らず、
世界は"選ばれし勇者"セリナと、
"認められぬ王子"マサキを中心に、
大きく動き始めていた――。
最初に光を浴びるのは、聖剣を祀る神殿の尖塔だ。
商人たちは店先に商品を並べ、
一日の商売に備えて忙しく立ち働く。
貴族たちの屋敷でも、
使用人たちが慌ただしく動き始めていた。
――すべてが、いつも通りのはずだった。
セリナもまた、平穏な朝を迎えるつもりで目を覚ました。
しかし、彼女の目に映ったのは"いつも"とは程遠い光景だった。
隣のベッドにいるはずのマリの姿はない。
代わりに彼女を取り囲むのは、
目を見開いた神官と、
警戒した様子の衛兵たちだった。
――原因は、おそらく……
自分の腕の中にある"これ"だ。
寝ぼけた頭で意識を向けた先にあったのは、
昨夜から抱いて眠っていたあの聖剣。
まさか、それが騒動の火種になるとは――
セリナはまだ理解できていなかった。
「おまえ、何をしておる! なぜ聖剣を抱いている!?」
「い、いや、あの……天使様が……!」
「天使? どこにもいないじゃない!」
寝起きにしては刺激が強すぎる光景と怒声に、
セリナの思考は混乱するばかりだった。
昨夜の出来事は夢だったのか、それとも――。
「えっ……えっと……す、すみませんっ!
本当にごめんなさいっ!
わざとじゃないんですっ!」
「ええい、捕らえよ! こやつは聖剣泥棒だ!」
こうしてセリナは、
「勇者になった最初の試練」として、
まさかの"牢屋行き"からその一日を始めることになったのだった。
「号外! 号外!
神殿で聖剣盗難事件発生!
犯人はなんと――使用人の少女だ!」
ニュースは、あっという間に王都全体に知れ渡った。
通りには新聞売りの声が響き、
市民たちは噂話に花を咲かせる。
「処刑すべきだ!
あんな身分の低い娘が聖剣を抜けるはずがない。
なにか不正を働いたに違いない!」
第一王子マサキとその派閥は、
セリナの処刑を強く要求した。
"使用人が勇者になるなど、認められるはずがない"
という論理だ。
それに対し、大司祭は静かに反論した。
「聖剣を抜いた者こそが、神に選ばれし勇者。
それは代々、王家が守ってきた掟です。
前回、誰も聖剣を抜けなかったゆえに、
異世界の勇者を召喚したのでしょう?
ならば今回は――
神は、あの少女を選んだのです。
人の都合で口を挟むなど、
神への冒涜に他なりません」
この問題の最終判断は、
現王――前・異世界勇者に委ねられた。
そして王は、迷いなく言い放った。
「……わしは、あの娘を勇者として認める」
「父上っ!?」
王子の叫びをよそに、
王は静かに目を閉じた。
たとえ実の息子であっても、
かつて異世界で戦い抜いた王の価値観は変わらなかった。
努力と選定、それこそが真の勇者だと、
彼は知っていたのだ。
だが――
王子マサキは、その価値観を受け継いではいなかった。
王家に生まれ、
貴族社会の中で育った彼は、
血筋と格式の正しさを叩き込まれていた。
彼の周囲もまた、
それを"正しい"王の姿と信じていた。
だからこそ、
たとえ王が正式にセリナを勇者と認めようとも、
マサキと彼の背後にある貴族勢力は、
それを到底受け入れることはできなかった。
そして――
王子の心に芽生えたのは、
"怒り"ではなく"憎しみ"だった。
それは小さな種だったが、
いずれは黒き華を咲かせ、
自らを、そして周囲をも飲み込んでいくことになる。
そうとは知らず、
世界は"選ばれし勇者"セリナと、
"認められぬ王子"マサキを中心に、
大きく動き始めていた――。
0
あなたにおすすめの小説
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる