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序章:すべての旅は、茶番から始まる――剣も魔法もまだいらない
第7話:策士、策に溺れ、毛玉が板書する
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「ねえ、マスター、なんで引きこもってるの? 外で遊ぼうよ」
そう言って、天使の少年と悪魔の少女が、
魔王の部屋の前に立っていた。
牢に放り込まれた勇者と違い、
魔王は自分から城の一室に引きこもっていた。
昨日、意気揚々と町へ出たものの──
その後、ルーと合流し、
セリナが"聖剣を抜いて勇者になった"と聞かされた瞬間。
あまりのショックで、
魔王は一歩も部屋から出られなくなったのだった。
「僕は悪くないもん!
マスターがずっとあの人間のメスに執心してたから、
てっきりあれが勇者育成対象だと思っただけだし!
ちゃんと策略を使ったんだぞ?」
「素晴らしい策略でしたこと。
……だから次は、
もう二度としないでくださらないかしら?
脳筋は、無理して頭を使うから厄介なのですわ。
周囲が迷惑するだけですもの。
まあ、世界をぐるり一周してくるような馬鹿に、
最初から期待なんてしてませんけど」
「言ったな!? 言ったな!?
お前の『だからあの時殺せば良かったのに、
策士策に溺れるのはまさにこれですわね』が、
マスターにクリティカルヒットしたんだぞ!」
「記憶にございませんわ」
「ずるいぞ、悪魔!
こういう時だけ関係ないフリをして!
お前、絶対こうなること全部わかってたんだろ!」
「うちの秘書が勝手にやりました」
「お前に秘書なんていないだろ!
表へ出ろ!
今度こそ神魔大戦の決着をつけてやる!」
「……うるさいっ!
静かにせんか!
こっちは引きこもってるんじゃなくて、
反省しているのだ!」
「あら、現実逃避じゃなかったんですね」
「違うっ!
私は、自分の怠惰を……反省しているっ!」
「ヴィネなら地獄の第十八層にいますけど、呼びましょうか?」
「やめろ!茶々をいれるな!」
「わはっ、怒られたー。やーいやーい」
「君もだっ!」
かくして、魔王は"反省会"を開かされることとなった。
「いいか、最初から私はこの計画を
"簡単に実現できるもの"と見誤ったのが最大の敗因だ。
都合のいい王子を見て、勝利を確信し慢心した。
そう、歴代魔王たちがそうであったように……!」
(カタカタカタ……)
小さな毛玉が、黒板に一生懸命板書している。
……なんと可愛らしい。
「思い返せば……私も、
王子が勇者なら楽だなと、つねづね思っていた……。
だから、ほかの可能性から目を逸らした。
それが一番の失策だった……!」
「いちばんの失策は、
どこかの馬鹿天使が聖剣を無理やり抜かせようとしたことだと思いますけどね」
モリアはお茶を飲みながら、
魔王の毛玉を撫でていた。
「相談もなしに勝手なことして、
天使として恥ずかしくないのかしら?」
いつもの毒舌が、今日はやけに鋭い。
「僕は悪くないっ!
あの人間のメスが弱すぎるのが悪いんだ!」
ルーは机の上に寝転びながら、
もう片方の毛玉をもふもふしている。
「だから、私が一番悪いということで話はついた。
責任の押し付け合いをしても、組織は壊れるだけだ。
この場合、リーダーたる私が悪い。
喧嘩はやめろ。
それと、触りすぎるな」
二人の手を払いのけて、
魔王は高らかに宣言した。
「いいじゃないか、メイド勇者!
いいじゃないか、最弱スタート!
我らは最初から"楽な道"ではなく、
"最善の道"を選んでいるだけだ!」
魔王は高らかに腕を広げた。
「さあ、今こそ――
我が『勇者育成計画』、本格始動の時だ!
愚かな人間どもよ、
せいぜい"最強勇者"という幻想に酔っているがいい。
お前たちに待ち受けるのは、絶望だ!
わははははっ!」
――いま、運命の歯車が再び動き出す。
勇者よ、魔王よ。
王子よ、皇帝よ。
天使よ、悪魔よ。
今、舞台の幕が上がろうとしている――。
そう言って、天使の少年と悪魔の少女が、
魔王の部屋の前に立っていた。
牢に放り込まれた勇者と違い、
魔王は自分から城の一室に引きこもっていた。
昨日、意気揚々と町へ出たものの──
その後、ルーと合流し、
セリナが"聖剣を抜いて勇者になった"と聞かされた瞬間。
あまりのショックで、
魔王は一歩も部屋から出られなくなったのだった。
「僕は悪くないもん!
マスターがずっとあの人間のメスに執心してたから、
てっきりあれが勇者育成対象だと思っただけだし!
ちゃんと策略を使ったんだぞ?」
「素晴らしい策略でしたこと。
……だから次は、
もう二度としないでくださらないかしら?
脳筋は、無理して頭を使うから厄介なのですわ。
周囲が迷惑するだけですもの。
まあ、世界をぐるり一周してくるような馬鹿に、
最初から期待なんてしてませんけど」
「言ったな!? 言ったな!?
お前の『だからあの時殺せば良かったのに、
策士策に溺れるのはまさにこれですわね』が、
マスターにクリティカルヒットしたんだぞ!」
「記憶にございませんわ」
「ずるいぞ、悪魔!
こういう時だけ関係ないフリをして!
お前、絶対こうなること全部わかってたんだろ!」
「うちの秘書が勝手にやりました」
「お前に秘書なんていないだろ!
表へ出ろ!
今度こそ神魔大戦の決着をつけてやる!」
「……うるさいっ!
静かにせんか!
こっちは引きこもってるんじゃなくて、
反省しているのだ!」
「あら、現実逃避じゃなかったんですね」
「違うっ!
私は、自分の怠惰を……反省しているっ!」
「ヴィネなら地獄の第十八層にいますけど、呼びましょうか?」
「やめろ!茶々をいれるな!」
「わはっ、怒られたー。やーいやーい」
「君もだっ!」
かくして、魔王は"反省会"を開かされることとなった。
「いいか、最初から私はこの計画を
"簡単に実現できるもの"と見誤ったのが最大の敗因だ。
都合のいい王子を見て、勝利を確信し慢心した。
そう、歴代魔王たちがそうであったように……!」
(カタカタカタ……)
小さな毛玉が、黒板に一生懸命板書している。
……なんと可愛らしい。
「思い返せば……私も、
王子が勇者なら楽だなと、つねづね思っていた……。
だから、ほかの可能性から目を逸らした。
それが一番の失策だった……!」
「いちばんの失策は、
どこかの馬鹿天使が聖剣を無理やり抜かせようとしたことだと思いますけどね」
モリアはお茶を飲みながら、
魔王の毛玉を撫でていた。
「相談もなしに勝手なことして、
天使として恥ずかしくないのかしら?」
いつもの毒舌が、今日はやけに鋭い。
「僕は悪くないっ!
あの人間のメスが弱すぎるのが悪いんだ!」
ルーは机の上に寝転びながら、
もう片方の毛玉をもふもふしている。
「だから、私が一番悪いということで話はついた。
責任の押し付け合いをしても、組織は壊れるだけだ。
この場合、リーダーたる私が悪い。
喧嘩はやめろ。
それと、触りすぎるな」
二人の手を払いのけて、
魔王は高らかに宣言した。
「いいじゃないか、メイド勇者!
いいじゃないか、最弱スタート!
我らは最初から"楽な道"ではなく、
"最善の道"を選んでいるだけだ!」
魔王は高らかに腕を広げた。
「さあ、今こそ――
我が『勇者育成計画』、本格始動の時だ!
愚かな人間どもよ、
せいぜい"最強勇者"という幻想に酔っているがいい。
お前たちに待ち受けるのは、絶望だ!
わははははっ!」
――いま、運命の歯車が再び動き出す。
勇者よ、魔王よ。
王子よ、皇帝よ。
天使よ、悪魔よ。
今、舞台の幕が上がろうとしている――。
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