まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第一章:覚醒せよ、灰かぶりの勇者――ゴーストタウンに隠された声

第21話:正義と金塊と、朝の始まり

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俺の朝は早い



「よし、今日も頑張るぞ。まずはセリナを呼んで、朝練を――」

「はい! お呼びでしょうか、教官!」



……少女セリナの朝は、俺より早かった。

昨日も夜遅くまで家事をしていたのに。

こいつ、本当に寝てるのか?



「いち、に! いち、に!」



ランニングは剣士の基本中の基本だ。

特に俺たちのような女剣士は、

男より力で劣る分、速度と持久力が命となる。



戦闘経験が少ないセリナには、

まず逃げ切れる足を身に付けさせる必要がある。

戦場で足を止めたら死ぬからな。



「次は素振りだ。100回を1セット、まずはワンセット!」

「了解です、教官!」



俺の剣はスピード重視の片手剣スタイルだが、

セリナが片手で聖剣を振り回すのはまだ無理だ。

今は両手剣から始めさせる。



「続いて――突きの練習だ。これも100回1セット!」



斬撃は便利だが、致命傷にはなりにくい。

魔物や人間には骨や鎧がある。

だからこそ、全身の力を込めた「突き」が重要になる。

切り札としては申し分ない。



「了解です、教官!……でも、どうして的が"マオウさんの似顔絵付きの丸太"なんですか?」

「敵だからよ。女の敵、エロ大魔王は、千回突いても足りないぐらいだからな。覚えときない、セリナ二等兵!」



あの男、絶対いつか刺してやる。

――よりにもよって俺の裸を見て、

「見るところがない」だと?

俺は確かに、母様やツバキ姉様みたいなナイスバディじゃないけど、

これでも一応姫なんだからな!? 扱いが酷い!!



そんな怒りを原動力に、

今日の突き稽古はよく捗った。



「レン君、……いえ、レンさん。くつろいでいてください、私はご飯の準備をしますので」

「レン君でいいよ。その格好なら、そっちのほうが自然だろ。あと姫の正体も、まだ隠しておきたいしな」



この娘……体力の化け物か?

俺と同じ訓練メニューをこなして、

なお食事の準備をする余力があるとは。

普通なら、ランニングの時点でバテてるぞ。



「あら、お帰りなさい。今日もよく頑張ってますね。素晴らしいことですわ」

「ね~僕、今日はハンバーグの気分。早くして!」



宿の一室に自然にくつろぐ見知らぬ少女?が二人。

昨日突然現れた悪魔と天使。

一人は以前見たことのある、自称・悪魔の占い師。

もう一人は、翼の生えた……たぶん天使。

マーリンさん以外の天使を見るのは、俺も初めてだ。



「……何、この娘たち?」



俺はとりあえず、あの男――マオウに問いただす。



「はいっ♪ 誘拐された児童その①で~す♪」

先に答えたのは、悪魔の方だった。



「誘拐された児童その②――ちょっと、なんでお前が①で僕が②なんだ!? 僕の方が偉い!」

「先に来たのは私です。あなたは、後から着いてきた新婚旅行について来る、空気の読めない親戚の子供みたいなもの。邪魔ですわ」

「僕はそんなの知らない。僕が一であることに、そんなの関係ない。ただ裏でこそこそやる悪魔より、最強の僕の方がマスターの役に立てるのだ。地獄に落ちろ、悪魔!」



こいつら……仲悪いな。

昔の俺と兄貴みたいなもんか。



その隣で、あいつ(マオウ)は平然と読書中。

えっと、読んでる本は――

『勇者カズキのチートスキルが強すぎてヤバい件について』



(……うちの父様じゃねーか)



「私の家族だ」

「……まさか、あんたの子ども!?」

「違う。血のつながりがないと"家族"と認められない人間には、我々の関係は理解できないだろう。……勘ぐりたければ、ご自由に。人間はそういう下賤な生き物だからな」



どこか寂しそうな――

それでいて、優しい表情だった。

俺はその姿に、少しだけ父様の面影を見た気がした。



「……まぁ、いろいろあるのね。深くは聞かないよ。俺も複雑な家庭だったしな」

「それより、旅費とか大丈夫か?」

「金か。なるほど、人間は金きんが大好きだからな。理解はしている」



そう言うとマオウは、手のひらを開き――



「金塊!?」



まさかの錬金魔法!?

錬金術って、本当に金を錬成できるの!?



「ほら、これで困るまい」

「困るわ!! 偽金じゃない、これ!?」

「本物だ。確かめてもいい」



重み、輝き……本物だ。でも――



「ダメだって!! 勝手に金を作るなんて!!」

「大丈夫です。小分けに市場へ流せばバレませんし、金相場にも影響しません」

「そうだセリナ君、君はだんだん理解してきたようだね」

「はい! 徐々に金の流通をコントロールして、この国の経済を裏から支配できるようになります!」

「満点だ、セリナ君! 君に教えることはもう何もない! わははは!」

「わはははです♪」



やばい、この娘、どんどん毒されてる……!



「セリナ、もっと真っ当な方法でお金を稼ごうな……」



こうして、新たに結成された五人の勇者パーティーは――

果たして"正道"を進むことができるのか?

──次回へつづく。
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