まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第二章:壊せ、偽りの楽園――不夜城に咲く嫉妬と誘惑の花

第34話:不夜城の誘惑

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王歴41年。

今からちょうど100年前――突如として、この"城"は現れた。

それは、夜にしか姿を現さず、そして"男"しか入れない。

その城の姿は漆黒の天蓋に包まれ、無数の灯りが宙に浮かび、まるで夜なのに昼のように明るい。

人々はその幻想的な異形の都を、こう呼んだ。

――《不夜城》。



その城内に築かれた《翡翠城エメラルド・シティ》は、男たちの欲望が渦巻く楽園。

金と快楽と虚飾があふれ、一夜限りの幻が人々を惑わす。



街の中心にそびえる《紅孔雀楼べにくじゃくろう》は、七層の朱塗りの楼閣。

虹色の提灯が揺れ、階ごとに異なる"悦楽"が用意されていた。

一階では琥珀色の酒を注ぐ猫妖族の女が男を誘い、

二階では炎を纏った竜人の踊り子が艶やかに舞う。

最上階、《天女の間》には、透き通る薄絹をまとった精霊姫たちが宝石の水盤で戯れていた。



「……初めてかい?」

香木の香る裏路地で、銀髪の狐耳娼婦が口元を吊り上げる。

その奥では、角を磨く鬼族の女戦士が宴に鎧を脱ぎ捨て、刺青を晒して盃を傾けていた。

どこからか人魚の歌声が響き、甘い毒のように男たちの理性を溶かしていく。



「この街では、何でも手に入る……代償さえ払えばな」



運河を走る楼船には、仙女を抱きながら金の葡萄を味わう貴族たちの姿。

闇市では魔女が偽りの愛を薬にして売り、闘技場ではヴァルキリーたちが血と汗にまみれて剣を交える。

勝者には、彼女たちとの"一夜の契約"が与えられるという。



そして、夜明け――

街は静寂に包まれ、吸血鬼の歌姫が紅い唇でささやく。

「また、今夜も……」

城は朝になると消え、男たちは二度と戻らない"客"となる。







「……不夜城、か」

私は古書『不夜城伝説』を読んでいた。

その幻想と恐怖の混じった記述に、妙な興味が湧いた。



「……あんたも男ね。そんなのに興味持つなんて」

隣にいたレンが、少しだけ不機嫌そうに呟いた。

彼女は最近、セリナの修行以外の時間は、なぜか私と一緒にいることが多い気がする。



「どんなところなんですか? 遊園地ですか? みんなで行きましょう!」

セリナが目を輝かせて言った。

……いや、間違ってはいない。ある意味では"男の夢のテーマパーク"だ。



「セリナには……まだ早い。いや、一生行くべきではない。穢れる」

「私は機会があれば一度行きたいものだ」

「……スケベ」

「アホ…"男しか入れない"、"帰ってこられない" もしそうなら、なんで不夜城中身はそこまで詳しく書かれている」







一方――

「ダメだ……入れないっす」

真・勇者マサキのパーティーは、城の結界に行く手を阻まれていた。

ある境界線を越えた瞬間、マーリンとリリアンヌの体がピタリと止まったのだ。



「なにやってんだよ! 早く来い!」

「マサキ様……これは、神が進むべきではないと仰っているのではないでしょうか」

「マサキ、状況がおかしい。一度引こう」

「うるせえ! だったら、俺ひとりで行ってやる! 俺は真・勇者だ!」



そう言い捨て、マサキは仲間を振り返りもせずに進んでいく。



「……これ、多分めちゃくちゃ強い結界張ってあるっすね。女性が入れないようにしてあるやつっす。破れないタイプっすわ」

「ですが、マサキ様が……!」

「死にたいやつは、死なせればいいっすよ。信仰系の神さまもきっと、そう言うっすね」

「神はそんなこと言いません! ……あれ、ガルド様……?」



「……俺も行く」

静かに、しかし迷いのない言葉。

ガルドも、マサキの後を追って結界の向こうへ歩き出す。



「ちょっ、ガルド、バカ! あんなやつ、放っときゃいいじゃん! 本気で死ぬ気!?」

リリアンヌは、マサキのときには見せなかった本気の慌て方で叫んだ。



「……王と約束した。それに、マサキは……親友だから」

普段はクールを貫く彼の、不器用で真っ直ぐな言葉。

だからこそ、止めることはできなかった。



「……バカ……バカ……ガルド、帰ってきてよ……!」



そして朝が来る。

城は霧のように消え、

不夜城に入った二人の男は二度と戻らない"客"となった。
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