まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

第55話:天使、再臨!パンツ一丁の山賊討伐大作戦

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あいつが行ってから、三日が経った。

セリナは、かなり堪えているみたいだ。

毎日、鍛錬と家事以外の時間はずっと部屋にこもって、本ばかり読んでいる。

あの『ロミオとジュリエット』。

まるで、速く読み終わったらマオウが早く帰ってくると信じてるみたいに。

……ダメだな、このままだと、あいつが戻る前にセリナが壊れてしまう。

ったく、俺だって会いたいんのに。

________________________________________

「セリナ、新しい依頼を受けたんだけどさ。――一緒に行かない?」

「ちょっと待ってください。このページを読み終わったら……」

「行きなさい。本は逃げないから」

「ちょ、レンくん、引っ張らないで……!」

……まあ、強引だけど、こうでもしなきゃこの引きこもりは出てこない。

「ひどい……いま、ちょうどいいところだったのに」

「陽に当たりなさい。キノコ生えるよ?」

「嘘です。そんなこと書いてありませんでした」

そう言いつつ、慌てて頭を撫でて確かめるのがセリナらしい。

________________________________________

今回の依頼は、山賊退治。

今までに比べたら、大した難度じゃない。

それならセリナも、少し気分を変えられるだろう。

そう思っていた――矢先だった。

「た、助けてーっ!!」

町を出てすぐ、悲鳴が聞こえてきた。

「まさか……山賊!? セリナ、後ろに――あっ!」

やばい。

セリナの聖剣、あれ“人”にはダメージ通らないんだった……どうする――

「レンくん、あれは山賊さんじゃありません。……ゴブリンさんです」

「えっ……?」

何言ってんだこの娘……と、思った次の瞬間。

「聖剣戦略! 私再改造!!」

聖剣が光を放ち、空間が地鳴りのように震える。

セリナは天に剣を掲げ、顔を上げた。

その瞬間――

世界の“色”が、変わった気がした。

________________________________________

足元から、まばゆい光が立ち昇る。

風もないのに、彼女の髪が静かに舞う。

その身体を包むのは、どこまでも澄んだ白――いや、“純白”。

清らかすぎて、見ているだけで息を呑んだ。

セリナの背に、ふわりと翼が現れる。

音もなく、光と共に羽ばたく、真っ白な羽。

「あっちです! 行ってきます!」

声のした方向へ、彼女は一直線に駆け出した。

……あれが、天使化――?

あいつが言ってたけど……もしかして、父様も同じだった?

いや、やめよう。考えるのはやめよう。

________________________________________

「こいつは大当たりだぜ、兄貴!」

「今回はあの貧乏くさいメイドじゃねぇ。上品なご令嬢と見たら……へっへ、売る前にまず味見を――」

「お、お頭! 空から……女の子が――」

「馬鹿か、そんなワケ――」

ドォン!!

親方が言い終わる前に、空から高速で落下してきたセリナに直撃され、地面に沈んだ。

……それがマオウの考えた「セリナ対人戦略」だ。

聖剣は人を傷つけない。だが、セリナ本人は別。

ただし今回は――

「痛たた……まだ二回しか使ってないので、着地の仕方忘れました」

……偶然だった。たぶん。

________________________________________

「よくも兄貴を! てめぇ、前のメイドじゃねぇか……なんで翼が!?」

「ひるむな! あの娘の剣は人を切れないなまくらだ!」

――そう思っていた山賊たちだが、今のセリナはもう、昔のセリナじゃない。

「聖なる光よ、武を制し、刃を眠らせよ――

救いをもたらす力ならば、殺さずとも届くはず」

「聖解の光輪ディスアーム・レイ、放ちます!」

閃光が走る。

聖剣が直接人を傷つけられなくても、武器や防具には効く。

とくに“人を傷つける意志”を持つ者には、余計に。

「えっ――!?」

気づけば、山賊たちは全員――パンツ一丁になっていた。

完全武装解除。

……裸の山賊に、選択肢はなかった。

「月華一刀げっかいっとう!」

レンの居合が、一瞬で逃げかけた山賊たちを薙ぎ払う。

「またつまらぬものを斬ってしまった。……みねうちだけどな」

こうして、山賊討伐はあっという間に完了した。

________________________________________

「レンくん、お疲れさまでした! やっぱりすごいですね」

「セリナほどじゃないけどな」

「そんなことないですよ……」

……照れながら笑うセリナを見て、俺は思った。

聖剣を抜いたのが俺じゃなくてよかった。

……絶対、あの格好は無理だ。

マサキ兄や父様に見られでもしたら、俺は自害する。

________________________________________

「おふたりの冒険者様、助けてくださってありがとうございます。

ぜひ、お屋敷でお礼を――」

馬車から降りてきたのは、レンも知る人物だった。

クセリオス・ヴェスカリア公爵の息子――

シエノ・ヴェスカリア。

まさか、こんなところで会うとは――。
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