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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
第56話:マリという名前の他人
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王国は一人の王と、多くの貴族によって統治されていた。
それは暴君の誕生を防ぐためのかなめでもあったが、逆に貴族の権力を肥大化させる結果にもなった。
なかでも、ヴェスカリア家はその象徴だった。
長い年月をかけて力を蓄え、貴族たちをまとめあげ、王の権威をも脅かす存在にまで成長した。
だが彼らは、王に取って代わろうとはしなかった。
民から“逆賊”と罵られるより、名目だけの王を担ぎ上げたまま、
陰からすべてを操る方が賢明だと――そう判断したからだ。
ヴェスカリア家は代々、自らの娘を王家に嫁がせ、血縁という名の“呪い”を王家に刻み続けた。
しかし、すべてが変わった。
30年前。誰も聖剣を抜けなかったときから――。
異世界召喚という前代未聞の手段によって、王に即位したカズキ。
彼にはヴェスカリアの血が流れていない。
それどころか、彼は異世界の“民主思想”や“制度”を持ち込み、
貴族の権威をないがしろにしはじめた。
ヴェスカリア家にとって、これだけは絶対に許せない――
だが、まだ手はある。
王妃クリシアには、ヴェスカリアの血が残っている。
そして、その息子マサキもまた、彼らの希望だ。
カズキ王がいなくなれば――
再び王国は、我らが影で支配することになる。
「ヴェスカリア家に、栄光あれ」
公爵クセリオスは、歴代公爵の肖像画の前で静かに呟いた。
________________________________________
私たちが助けたのは――クセリオス・ヴェスカリア公爵の息子でした。
あの“ホップタウンの悲劇”を起こした男、その息子……。
残忍で冷酷な父の血を引いているのか。少し、緊張します。
しかし、その前に――
馬車の奥で、私は“懐かしい影”を見つけました。
「マリさん……?」
そこにいたのは、かつて学園で私と共に過ごした、あのマリさんでした。
私が勇者になって追放された時――
一生懸命、字も書けないのに手紙をくれました。
お金がないのに、私に旅費を残してくれました。
そんな人を、間違えるはずがありません。
「あの……マリさん、ですよね?」
「――は? 知りません」
「……え?」
彼女は、知らないふりをした。
知らない“演技”ではなく、本気で“拒絶”しているように。
「人違いではありませんか? 顔が似てるとか」
「……違います。間違えるはずがないんです。マリさんは……マリさんは……」
返ってくるのは、ひたすら冷たい言葉だけ。
「私は“勇者様”など知りません。マリという名前も、どこにでもあるでしょう」
それは、ナイフのように私の胸に突き刺さった。
________________________________________
「マリさん……っ!」
「もういい、セリナ。そんな奴、放っておけ!」
俺は、今にも泣き崩れそうなセリナを見て、思わず叫んでいた。
いつもなら、彼女の隣には――
あの、頼もしいマオウがいる。
だが今は、いない。
だからこそ、俺が守らなきゃって、思った。
「きっと何か事情があるんです。とりあえず、お助けいただいたお礼として――
屋敷へご案内します。マリのことは……僕が話を聞いておきますから」
そう言って微笑んだのは――あのクセリオス公爵の息子だった。
……果たしてこの出会いが、“運命の再開”なのか、それとも“新たな悲劇の始まり”なのか。
わかっていたのは――
別れであれ、再会であれ、どっちも涙しかなかった。
それは暴君の誕生を防ぐためのかなめでもあったが、逆に貴族の権力を肥大化させる結果にもなった。
なかでも、ヴェスカリア家はその象徴だった。
長い年月をかけて力を蓄え、貴族たちをまとめあげ、王の権威をも脅かす存在にまで成長した。
だが彼らは、王に取って代わろうとはしなかった。
民から“逆賊”と罵られるより、名目だけの王を担ぎ上げたまま、
陰からすべてを操る方が賢明だと――そう判断したからだ。
ヴェスカリア家は代々、自らの娘を王家に嫁がせ、血縁という名の“呪い”を王家に刻み続けた。
しかし、すべてが変わった。
30年前。誰も聖剣を抜けなかったときから――。
異世界召喚という前代未聞の手段によって、王に即位したカズキ。
彼にはヴェスカリアの血が流れていない。
それどころか、彼は異世界の“民主思想”や“制度”を持ち込み、
貴族の権威をないがしろにしはじめた。
ヴェスカリア家にとって、これだけは絶対に許せない――
だが、まだ手はある。
王妃クリシアには、ヴェスカリアの血が残っている。
そして、その息子マサキもまた、彼らの希望だ。
カズキ王がいなくなれば――
再び王国は、我らが影で支配することになる。
「ヴェスカリア家に、栄光あれ」
公爵クセリオスは、歴代公爵の肖像画の前で静かに呟いた。
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私たちが助けたのは――クセリオス・ヴェスカリア公爵の息子でした。
あの“ホップタウンの悲劇”を起こした男、その息子……。
残忍で冷酷な父の血を引いているのか。少し、緊張します。
しかし、その前に――
馬車の奥で、私は“懐かしい影”を見つけました。
「マリさん……?」
そこにいたのは、かつて学園で私と共に過ごした、あのマリさんでした。
私が勇者になって追放された時――
一生懸命、字も書けないのに手紙をくれました。
お金がないのに、私に旅費を残してくれました。
そんな人を、間違えるはずがありません。
「あの……マリさん、ですよね?」
「――は? 知りません」
「……え?」
彼女は、知らないふりをした。
知らない“演技”ではなく、本気で“拒絶”しているように。
「人違いではありませんか? 顔が似てるとか」
「……違います。間違えるはずがないんです。マリさんは……マリさんは……」
返ってくるのは、ひたすら冷たい言葉だけ。
「私は“勇者様”など知りません。マリという名前も、どこにでもあるでしょう」
それは、ナイフのように私の胸に突き刺さった。
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「マリさん……っ!」
「もういい、セリナ。そんな奴、放っておけ!」
俺は、今にも泣き崩れそうなセリナを見て、思わず叫んでいた。
いつもなら、彼女の隣には――
あの、頼もしいマオウがいる。
だが今は、いない。
だからこそ、俺が守らなきゃって、思った。
「きっと何か事情があるんです。とりあえず、お助けいただいたお礼として――
屋敷へご案内します。マリのことは……僕が話を聞いておきますから」
そう言って微笑んだのは――あのクセリオス公爵の息子だった。
……果たしてこの出会いが、“運命の再開”なのか、それとも“新たな悲劇の始まり”なのか。
わかっていたのは――
別れであれ、再会であれ、どっちも涙しかなかった。
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