まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
62 / 169
第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

第56話:マリという名前の他人

しおりを挟む
王国は一人の王と、多くの貴族によって統治されていた。

それは暴君の誕生を防ぐためのかなめでもあったが、逆に貴族の権力を肥大化させる結果にもなった。

なかでも、ヴェスカリア家はその象徴だった。

長い年月をかけて力を蓄え、貴族たちをまとめあげ、王の権威をも脅かす存在にまで成長した。

だが彼らは、王に取って代わろうとはしなかった。

民から“逆賊”と罵られるより、名目だけの王を担ぎ上げたまま、

陰からすべてを操る方が賢明だと――そう判断したからだ。

ヴェスカリア家は代々、自らの娘を王家に嫁がせ、血縁という名の“呪い”を王家に刻み続けた。

しかし、すべてが変わった。

30年前。誰も聖剣を抜けなかったときから――。

異世界召喚という前代未聞の手段によって、王に即位したカズキ。

彼にはヴェスカリアの血が流れていない。

それどころか、彼は異世界の“民主思想”や“制度”を持ち込み、

貴族の権威をないがしろにしはじめた。

ヴェスカリア家にとって、これだけは絶対に許せない――

だが、まだ手はある。

王妃クリシアには、ヴェスカリアの血が残っている。

そして、その息子マサキもまた、彼らの希望だ。

カズキ王がいなくなれば――

再び王国は、我らが影で支配することになる。

「ヴェスカリア家に、栄光あれ」

公爵クセリオスは、歴代公爵の肖像画の前で静かに呟いた。

________________________________________

私たちが助けたのは――クセリオス・ヴェスカリア公爵の息子でした。

あの“ホップタウンの悲劇”を起こした男、その息子……。

残忍で冷酷な父の血を引いているのか。少し、緊張します。

しかし、その前に――

馬車の奥で、私は“懐かしい影”を見つけました。

「マリさん……?」

そこにいたのは、かつて学園で私と共に過ごした、あのマリさんでした。

私が勇者になって追放された時――

一生懸命、字も書けないのに手紙をくれました。

お金がないのに、私に旅費を残してくれました。

そんな人を、間違えるはずがありません。

「あの……マリさん、ですよね?」

「――は? 知りません」

「……え?」

彼女は、知らないふりをした。

知らない“演技”ではなく、本気で“拒絶”しているように。

「人違いではありませんか? 顔が似てるとか」

「……違います。間違えるはずがないんです。マリさんは……マリさんは……」

返ってくるのは、ひたすら冷たい言葉だけ。

「私は“勇者様”など知りません。マリという名前も、どこにでもあるでしょう」

それは、ナイフのように私の胸に突き刺さった。

________________________________________

「マリさん……っ!」

「もういい、セリナ。そんな奴、放っておけ!」

俺は、今にも泣き崩れそうなセリナを見て、思わず叫んでいた。

いつもなら、彼女の隣には――

あの、頼もしいマオウがいる。

だが今は、いない。

だからこそ、俺が守らなきゃって、思った。

「きっと何か事情があるんです。とりあえず、お助けいただいたお礼として――

屋敷へご案内します。マリのことは……僕が話を聞いておきますから」

そう言って微笑んだのは――あのクセリオス公爵の息子だった。

……果たしてこの出会いが、“運命の再開”なのか、それとも“新たな悲劇の始まり”なのか。

わかっていたのは――

別れであれ、再会であれ、どっちも涙しかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

処理中です...