61 / 169
第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
第55話:天使、再臨!パンツ一丁の山賊討伐大作戦
しおりを挟む
あいつが行ってから、三日が経った。
セリナは、かなり堪えているみたいだ。
毎日、鍛錬と家事以外の時間はずっと部屋にこもって、本ばかり読んでいる。
あの『ロミオとジュリエット』。
まるで、速く読み終わったらマオウが早く帰ってくると信じてるみたいに。
……ダメだな、このままだと、あいつが戻る前にセリナが壊れてしまう。
ったく、俺だって会いたいんのに。
________________________________________
「セリナ、新しい依頼を受けたんだけどさ。――一緒に行かない?」
「ちょっと待ってください。このページを読み終わったら……」
「行きなさい。本は逃げないから」
「ちょ、レンくん、引っ張らないで……!」
……まあ、強引だけど、こうでもしなきゃこの引きこもりは出てこない。
「ひどい……いま、ちょうどいいところだったのに」
「陽に当たりなさい。キノコ生えるよ?」
「嘘です。そんなこと書いてありませんでした」
そう言いつつ、慌てて頭を撫でて確かめるのがセリナらしい。
________________________________________
今回の依頼は、山賊退治。
今までに比べたら、大した難度じゃない。
それならセリナも、少し気分を変えられるだろう。
そう思っていた――矢先だった。
「た、助けてーっ!!」
町を出てすぐ、悲鳴が聞こえてきた。
「まさか……山賊!? セリナ、後ろに――あっ!」
やばい。
セリナの聖剣、あれ“人”にはダメージ通らないんだった……どうする――
「レンくん、あれは山賊さんじゃありません。……ゴブリンさんです」
「えっ……?」
何言ってんだこの娘……と、思った次の瞬間。
「聖剣戦略! 私再改造!!」
聖剣が光を放ち、空間が地鳴りのように震える。
セリナは天に剣を掲げ、顔を上げた。
その瞬間――
世界の“色”が、変わった気がした。
________________________________________
足元から、まばゆい光が立ち昇る。
風もないのに、彼女の髪が静かに舞う。
その身体を包むのは、どこまでも澄んだ白――いや、“純白”。
清らかすぎて、見ているだけで息を呑んだ。
セリナの背に、ふわりと翼が現れる。
音もなく、光と共に羽ばたく、真っ白な羽。
「あっちです! 行ってきます!」
声のした方向へ、彼女は一直線に駆け出した。
……あれが、天使化――?
あいつが言ってたけど……もしかして、父様も同じだった?
いや、やめよう。考えるのはやめよう。
________________________________________
「こいつは大当たりだぜ、兄貴!」
「今回はあの貧乏くさいメイドじゃねぇ。上品なご令嬢と見たら……へっへ、売る前にまず味見を――」
「お、お頭! 空から……女の子が――」
「馬鹿か、そんなワケ――」
ドォン!!
親方が言い終わる前に、空から高速で落下してきたセリナに直撃され、地面に沈んだ。
……それがマオウの考えた「セリナ対人戦略」だ。
聖剣は人を傷つけない。だが、セリナ本人は別。
ただし今回は――
「痛たた……まだ二回しか使ってないので、着地の仕方忘れました」
……偶然だった。たぶん。
________________________________________
「よくも兄貴を! てめぇ、前のメイドじゃねぇか……なんで翼が!?」
「ひるむな! あの娘の剣は人を切れないなまくらだ!」
――そう思っていた山賊たちだが、今のセリナはもう、昔のセリナじゃない。
「聖なる光よ、武を制し、刃を眠らせよ――
救いをもたらす力ならば、殺さずとも届くはず」
「聖解の光輪ディスアーム・レイ、放ちます!」
閃光が走る。
聖剣が直接人を傷つけられなくても、武器や防具には効く。
とくに“人を傷つける意志”を持つ者には、余計に。
「えっ――!?」
気づけば、山賊たちは全員――パンツ一丁になっていた。
完全武装解除。
……裸の山賊に、選択肢はなかった。
「月華一刀げっかいっとう!」
レンの居合が、一瞬で逃げかけた山賊たちを薙ぎ払う。
「またつまらぬものを斬ってしまった。……みねうちだけどな」
こうして、山賊討伐はあっという間に完了した。
________________________________________
「レンくん、お疲れさまでした! やっぱりすごいですね」
「セリナほどじゃないけどな」
「そんなことないですよ……」
……照れながら笑うセリナを見て、俺は思った。
聖剣を抜いたのが俺じゃなくてよかった。
……絶対、あの格好は無理だ。
マサキ兄や父様に見られでもしたら、俺は自害する。
________________________________________
「おふたりの冒険者様、助けてくださってありがとうございます。
ぜひ、お屋敷でお礼を――」
馬車から降りてきたのは、レンも知る人物だった。
クセリオス・ヴェスカリア公爵の息子――
シエノ・ヴェスカリア。
まさか、こんなところで会うとは――。
セリナは、かなり堪えているみたいだ。
毎日、鍛錬と家事以外の時間はずっと部屋にこもって、本ばかり読んでいる。
あの『ロミオとジュリエット』。
まるで、速く読み終わったらマオウが早く帰ってくると信じてるみたいに。
……ダメだな、このままだと、あいつが戻る前にセリナが壊れてしまう。
ったく、俺だって会いたいんのに。
________________________________________
「セリナ、新しい依頼を受けたんだけどさ。――一緒に行かない?」
「ちょっと待ってください。このページを読み終わったら……」
「行きなさい。本は逃げないから」
「ちょ、レンくん、引っ張らないで……!」
……まあ、強引だけど、こうでもしなきゃこの引きこもりは出てこない。
「ひどい……いま、ちょうどいいところだったのに」
「陽に当たりなさい。キノコ生えるよ?」
「嘘です。そんなこと書いてありませんでした」
そう言いつつ、慌てて頭を撫でて確かめるのがセリナらしい。
________________________________________
今回の依頼は、山賊退治。
今までに比べたら、大した難度じゃない。
それならセリナも、少し気分を変えられるだろう。
そう思っていた――矢先だった。
「た、助けてーっ!!」
町を出てすぐ、悲鳴が聞こえてきた。
「まさか……山賊!? セリナ、後ろに――あっ!」
やばい。
セリナの聖剣、あれ“人”にはダメージ通らないんだった……どうする――
「レンくん、あれは山賊さんじゃありません。……ゴブリンさんです」
「えっ……?」
何言ってんだこの娘……と、思った次の瞬間。
「聖剣戦略! 私再改造!!」
聖剣が光を放ち、空間が地鳴りのように震える。
セリナは天に剣を掲げ、顔を上げた。
その瞬間――
世界の“色”が、変わった気がした。
________________________________________
足元から、まばゆい光が立ち昇る。
風もないのに、彼女の髪が静かに舞う。
その身体を包むのは、どこまでも澄んだ白――いや、“純白”。
清らかすぎて、見ているだけで息を呑んだ。
セリナの背に、ふわりと翼が現れる。
音もなく、光と共に羽ばたく、真っ白な羽。
「あっちです! 行ってきます!」
声のした方向へ、彼女は一直線に駆け出した。
……あれが、天使化――?
あいつが言ってたけど……もしかして、父様も同じだった?
いや、やめよう。考えるのはやめよう。
________________________________________
「こいつは大当たりだぜ、兄貴!」
「今回はあの貧乏くさいメイドじゃねぇ。上品なご令嬢と見たら……へっへ、売る前にまず味見を――」
「お、お頭! 空から……女の子が――」
「馬鹿か、そんなワケ――」
ドォン!!
親方が言い終わる前に、空から高速で落下してきたセリナに直撃され、地面に沈んだ。
……それがマオウの考えた「セリナ対人戦略」だ。
聖剣は人を傷つけない。だが、セリナ本人は別。
ただし今回は――
「痛たた……まだ二回しか使ってないので、着地の仕方忘れました」
……偶然だった。たぶん。
________________________________________
「よくも兄貴を! てめぇ、前のメイドじゃねぇか……なんで翼が!?」
「ひるむな! あの娘の剣は人を切れないなまくらだ!」
――そう思っていた山賊たちだが、今のセリナはもう、昔のセリナじゃない。
「聖なる光よ、武を制し、刃を眠らせよ――
救いをもたらす力ならば、殺さずとも届くはず」
「聖解の光輪ディスアーム・レイ、放ちます!」
閃光が走る。
聖剣が直接人を傷つけられなくても、武器や防具には効く。
とくに“人を傷つける意志”を持つ者には、余計に。
「えっ――!?」
気づけば、山賊たちは全員――パンツ一丁になっていた。
完全武装解除。
……裸の山賊に、選択肢はなかった。
「月華一刀げっかいっとう!」
レンの居合が、一瞬で逃げかけた山賊たちを薙ぎ払う。
「またつまらぬものを斬ってしまった。……みねうちだけどな」
こうして、山賊討伐はあっという間に完了した。
________________________________________
「レンくん、お疲れさまでした! やっぱりすごいですね」
「セリナほどじゃないけどな」
「そんなことないですよ……」
……照れながら笑うセリナを見て、俺は思った。
聖剣を抜いたのが俺じゃなくてよかった。
……絶対、あの格好は無理だ。
マサキ兄や父様に見られでもしたら、俺は自害する。
________________________________________
「おふたりの冒険者様、助けてくださってありがとうございます。
ぜひ、お屋敷でお礼を――」
馬車から降りてきたのは、レンも知る人物だった。
クセリオス・ヴェスカリア公爵の息子――
シエノ・ヴェスカリア。
まさか、こんなところで会うとは――。
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される
秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる