まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

第61話:帝王術 ―支配の五指―

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セリナがシエノの屋敷でご奉公しているその頃――

魔王はルーとモリアを連れ、ヴェスカリア公爵本家へ向かう馬車に揺られていた。

「ねえマスター、なんでわざわざこんな遅い移動手段で行くの? 空間魔法使えば一瞬で着くのに~」

ルーが退屈そうに窓の外を眺めながら不満を漏らす。

「向こうが用意した馬車に乗るのが“礼儀”だ。それを無視して空間魔法で先回りすれば、こちらの正体を明かすようなものだろう」

「えー、でもこんなところでジッとしてるの退屈だもん……!」

「では、暇つぶしに“バカな天使”に問題を出してあげましょう」

モリアが薄く笑いながら言った。暇つぶしというより、明らかにルーで遊ぶ気だ。

「え~……じゃあ、なになに?」

「問題です。人間の貴族や王は、他の人間より特別強いわけでもないのに、なぜ多くの民を支配できるのでしょう?」

「しらない。バカだからじゃないの? マスターだって僕より強いし!」

「それはない。力だけなら、君に勝てる者はいないだろう。……まったく。仕方ない、膝枕してやるから、もうちょっと我慢しろ」

「わーい! マスターの膝枕だ!」

子どものようにはしゃぎ、魔王の膝に収まってご満悦なルー。

「……軍隊があるから、じゃないか?」

「60点です」

「手厳しいな。まあ、君がそれで納得するとは思わなかったが……答えは“帝王術”だ」

「ていおうじゅつ?」

ルーには少し難しい言葉だったらしい。

「そう。力ではなく、“仕組み”で民を支配するための、五つの術だ」

      ◆帝王術――民を支配する五つの術◆

1.民に“知恵”を与えないこと
  愚かな民ほど、支配しやすい。
  教育は最低限にとどめ、学問や文字は上層が独占する。
  民が真理に触れれば、権力は崩れる。

2.民に“財”を与えないこと
  金があれば武器を買え、兵士を雇え、反乱が起こる。
  だから民は常に貧しくあるべきだ。

3.民に“暇”を与えないこと
  生きるだけで手一杯の者は、考える余裕を持たない。
  時間があれば、人は疑問を持つ。だから労働で縛る。

4.民に“尊厳”を与えないこと
  自らを“下賤”だと信じさせれば、搾取されても従う。
  身分制度や奴隷制は、そのための装置だ。

5.民に“繋がり”を与えないこと
  民が結束すれば、統治者にとって脅威になる。
  だから争わせ、分断させる。
  貧しい者同士で争わせれば、怒りは上には向かわない。

「人間の劣根性ゆえに、彼らは自分より強い者ではなく、自分より“弱い”者に牙を向ける。
 さらに、集団で行動すれば責任は曖昧になり、個人は特定されにくい。

 だから統治者は安心していられる。
 民を木材のように、王国の燃料としてくべて――まるで劇でも見るように、高みから見下ろしていればいいのだ」

「……満点です」

モリアがくすりと笑い、静かに拍手を送った。
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