まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
70 / 171
第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

第64話:世界の半分で足りると思うなよ

しおりを挟む
「――あなた様は、やはり“本物”の魔王ですね」

クセリオス・ヴェスカリア。

この男は、最初から私の正体に気づいていた。

世間知らずの姫や、天然のメイドとは違い――一筋縄ではいかぬ。

私は案内された貴族邸の客間で、彼を前に静かに観察していた。

「それでも、君は私を呼んだ。自殺願望か? それとも……勇者の代わりに魔王を討つつもりか?」

「いいえ。私ごときが敵う相手でないことくらい、承知しています。

ただ――命を懸けてでも、あなたと“話”をしたいと願ったまでです」

……食えぬ男だ。

使命感に駆られているわけでも、欲望に溺れているわけでもない。

これだから、人間は

好きになれないものだ。

「話ね。世界の半分でも欲しいのか? ……与えはしないが」

「世界など、必要ありません。

我がヴェスカリア家の手が届かぬ世界に、価値などないのですから」

なるほど。

莫大な富や栄光すら、自らの統治が及ばねば意味がないと――

つまり。

「君は、“国”を売りたいのか? クセリオス・ヴェスカリア」

この男……思っていた以上に危険だ。

________________________________________

「誤解なきよう願います。これは売国ではなく、“和平交渉”です」

「……人間の王を無視して、魔王と和平を結ぶ? なるほど、それが人間のやり方か」

「今の“王”では、あなたにとって価値のある交渉などできはしません。

私は、あなた様に実利のある提案を――それだけです」

「王を見限ったか?」

「カズキ王が生きている限り、我が家の影響力は削がれ続けます。

ですが、あなた様と手を組めば――」

「なるほど、話は聞こう」

彼は懐から文書を取り出し、机の上に静かに差し出した。

「王国は、魔王様の統治を認め、毎年、金銀・布帛・美女・奴隷など、望むままに献上いたします。

加えて、勇者を討伐に差し向けることは、二度と致しません」

「……見返りは?」

「王国への不可侵条約。そして、我がヴェスカリア家の“永遠の栄誉”を」

――この男、己の家名を永劫守るために、王を、民を、国を丸ごと私に差し出したというのか。

恐れを知らぬ胆力。

私が“応じたくなる条件”を見定めて出す、この算段。

……悪魔のような男だ。

「……足りないな。それは、私が直接やれば手に入るものばかりだ。

君が差し出す“対価”としては不十分だ」

「そうですか……」

「だが、クセリオス・ヴェスカリア、君の誠意は認めよう。次に会う時までに、“私が納得する対価”を用意してみせろ。

私は退屈が嫌いだ。次の交渉で、私を楽しませてみせろ。――失望させるなよ、“人間”」

「さすが魔王様。これしきで応じるとは思っておりません。

次こそ、満足いただける“条件”を――必ず、お持ちいたします」

「それを楽しみにしているよ」

私は一礼し、空間魔法で貴族邸を後にした。

________________________________________

邸の外で待機していたルーとモリアが、私の帰還を出迎えた。

「マスター、あの人間と……本当に取引を?」

「するかもしれない、かつての私ならね」

「……条件としては悪くありません。あの勇者の娘に義理でも立てるつもりかしら?」

「いや。これまで人間を観察して、私は一つの結論に至った。

クセリオス・ヴェスカリア――あれは、“最も組んではならぬ男”だ」

私は静かに言った。

「利益で繋がった絆は頑固に見えるが、脆い。

カズキ王が障害である今、やつは私に手を差し伸べた。

だが、やがて王が排され、ヴェスカリア家が安定すれば――

やつの次の“敵”は誰になる?」

「帝国か、あるいは――この魔王か」

私は唇の端を持ち上げる。

「いつ噛みつくか分からぬ蛇など、飼う趣味はない。

バカな勇者の方が、よほど信頼できる」

それに、私は――

「沈みゆく船に乗る趣味もない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...