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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
第63話:約束の10ゴールド
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マリさんは――屋敷をクビになりました。
理由は、同じメイド仲間に“暴力をふるった”からだそうです。
話によると、先輩たちを呼び出して、大喧嘩になったのだとか。
「自分が何をしてるか分かってるの?」
「分かってるよ。でも、もう……逃げる自分には、うんざりだったんだよ!」
たったひとりで、何人もの先輩を相手にしても、彼女は怯みませんでした。
むしろ、共に倒れる覚悟で立ち向かうその姿に、さすがの彼女たちも手を出せなくなったそうです。
そして、騒ぎを聞きつけてシエノ様とセバスさんが現場に駆けつけたときには――
マリさんは、もう引き返せないところまで来ていました。
当然のことながら、結果は……解雇処分。
退職金も支払われることなく、屋敷を去ることになったのです。
*
「……なんか、すっきりしたわ。こんな気持ち、生まれて初めてかも」
マリさんが屋敷を去る日、私は町外れまで見送りに行きました。
「……なにも聞かないのね。どうして私が、あんなことをしたのか」
「はい。でも、なんとなく分かっていました。
だけど、解決方法を見つける前に……」
「ううん、それでいいの。
自分を助けられるのは、自分だけ。
セリナは、私に勇気をくれた。でも、私が何もしなければ、それはただの依存よ。
人に頼ってばかりじゃ、私は変われないもの」
その言葉を聞いて、私は思い出しました。
――あのとき、マオウさんも私に“勇気”をくれました。
もしあのとき、私がマオウさんに頼りきりだったなら……今の私はいません。
「シエノのことも、諦めない。
彼は、私を“迎えに行く”って誓ってくれた。
でもね――待ってるだけじゃダメだって、やっと気づいた。
私は、待つだけのお姫様じゃない。
いつか、彼にふさわしい女になって……私のほうから迎えに行くの」
マリさんは、少し照れくさそうに笑いました。
「……ちょっと遅かったかもしれないけどね。
今まで、ずっと自分に甘えてた。これからは、“農婦のマリ”として頑張らなきゃ、ね。ははは」
それは、私がずっと憧れていた――
あの、明るくて、不真面目で、でもとても優しかった“お姉ちゃん”の笑顔でした。
「マリさん、これ……受け取ってください」
「げっ……なにこれ!? 10ゴールド!? ちょっと、あんた分かってる!?
それ、ちゃんとした農場すら買えちゃう額よ!?」
「はい。あのとき、マリさんがくれたお金のお返しです。
私の全財産ですけど……どうか、受け取ってください」
――あのとき、ゴーストタウンの依頼で得た報酬を、ちゃんと取っておいてよかったです。
これがあれば、マリさんはきっと、もっと早くシエノ様に会いに行けるはずですから。
「いやいや、あの時あげたの、たったの3シルバでしょ?
どんな金利でも10ゴールドにはならないわよ?」
「では……これは“貸し”です。
シエノ様と結婚したら、返してください。月一割、利息つきで」
「高っっ!! ……ほんと、しっかり者になったねぇ。
ちょっと会わない間に、立派になっちゃって……お姉ちゃん、寂しいわ」
そう言って、マリさんはくすくす笑いながら、小指を差し出しました。
「じゃあ返さないといけないから、早く結婚しなきゃね。私のほうから」
「はい。ぜひ、そうしてください」
私も小指を出して、彼女と約束を交わしました。
「……ありがとう、セリナ。元気でね」
それが、マリさんと別れた最後の言葉でした。
でも、今度の別れは――あの時みたいに悲しくありませんでした。
だって私は――
「また会えるって、信じていますから。マリさん」
理由は、同じメイド仲間に“暴力をふるった”からだそうです。
話によると、先輩たちを呼び出して、大喧嘩になったのだとか。
「自分が何をしてるか分かってるの?」
「分かってるよ。でも、もう……逃げる自分には、うんざりだったんだよ!」
たったひとりで、何人もの先輩を相手にしても、彼女は怯みませんでした。
むしろ、共に倒れる覚悟で立ち向かうその姿に、さすがの彼女たちも手を出せなくなったそうです。
そして、騒ぎを聞きつけてシエノ様とセバスさんが現場に駆けつけたときには――
マリさんは、もう引き返せないところまで来ていました。
当然のことながら、結果は……解雇処分。
退職金も支払われることなく、屋敷を去ることになったのです。
*
「……なんか、すっきりしたわ。こんな気持ち、生まれて初めてかも」
マリさんが屋敷を去る日、私は町外れまで見送りに行きました。
「……なにも聞かないのね。どうして私が、あんなことをしたのか」
「はい。でも、なんとなく分かっていました。
だけど、解決方法を見つける前に……」
「ううん、それでいいの。
自分を助けられるのは、自分だけ。
セリナは、私に勇気をくれた。でも、私が何もしなければ、それはただの依存よ。
人に頼ってばかりじゃ、私は変われないもの」
その言葉を聞いて、私は思い出しました。
――あのとき、マオウさんも私に“勇気”をくれました。
もしあのとき、私がマオウさんに頼りきりだったなら……今の私はいません。
「シエノのことも、諦めない。
彼は、私を“迎えに行く”って誓ってくれた。
でもね――待ってるだけじゃダメだって、やっと気づいた。
私は、待つだけのお姫様じゃない。
いつか、彼にふさわしい女になって……私のほうから迎えに行くの」
マリさんは、少し照れくさそうに笑いました。
「……ちょっと遅かったかもしれないけどね。
今まで、ずっと自分に甘えてた。これからは、“農婦のマリ”として頑張らなきゃ、ね。ははは」
それは、私がずっと憧れていた――
あの、明るくて、不真面目で、でもとても優しかった“お姉ちゃん”の笑顔でした。
「マリさん、これ……受け取ってください」
「げっ……なにこれ!? 10ゴールド!? ちょっと、あんた分かってる!?
それ、ちゃんとした農場すら買えちゃう額よ!?」
「はい。あのとき、マリさんがくれたお金のお返しです。
私の全財産ですけど……どうか、受け取ってください」
――あのとき、ゴーストタウンの依頼で得た報酬を、ちゃんと取っておいてよかったです。
これがあれば、マリさんはきっと、もっと早くシエノ様に会いに行けるはずですから。
「いやいや、あの時あげたの、たったの3シルバでしょ?
どんな金利でも10ゴールドにはならないわよ?」
「では……これは“貸し”です。
シエノ様と結婚したら、返してください。月一割、利息つきで」
「高っっ!! ……ほんと、しっかり者になったねぇ。
ちょっと会わない間に、立派になっちゃって……お姉ちゃん、寂しいわ」
そう言って、マリさんはくすくす笑いながら、小指を差し出しました。
「じゃあ返さないといけないから、早く結婚しなきゃね。私のほうから」
「はい。ぜひ、そうしてください」
私も小指を出して、彼女と約束を交わしました。
「……ありがとう、セリナ。元気でね」
それが、マリさんと別れた最後の言葉でした。
でも、今度の別れは――あの時みたいに悲しくありませんでした。
だって私は――
「また会えるって、信じていますから。マリさん」
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