まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

第64話:世界の半分で足りると思うなよ

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「――あなた様は、やはり“本物”の魔王ですね」

クセリオス・ヴェスカリア。

この男は、最初から私の正体に気づいていた。

世間知らずの姫や、天然のメイドとは違い――一筋縄ではいかぬ。

私は案内された貴族邸の客間で、彼を前に静かに観察していた。

「それでも、君は私を呼んだ。自殺願望か? それとも……勇者の代わりに魔王を討つつもりか?」

「いいえ。私ごときが敵う相手でないことくらい、承知しています。

ただ――命を懸けてでも、あなたと“話”をしたいと願ったまでです」

……食えぬ男だ。

使命感に駆られているわけでも、欲望に溺れているわけでもない。

これだから、人間は

好きになれないものだ。

「話ね。世界の半分でも欲しいのか? ……与えはしないが」

「世界など、必要ありません。

我がヴェスカリア家の手が届かぬ世界に、価値などないのですから」

なるほど。

莫大な富や栄光すら、自らの統治が及ばねば意味がないと――

つまり。

「君は、“国”を売りたいのか? クセリオス・ヴェスカリア」

この男……思っていた以上に危険だ。

________________________________________

「誤解なきよう願います。これは売国ではなく、“和平交渉”です」

「……人間の王を無視して、魔王と和平を結ぶ? なるほど、それが人間のやり方か」

「今の“王”では、あなたにとって価値のある交渉などできはしません。

私は、あなた様に実利のある提案を――それだけです」

「王を見限ったか?」

「カズキ王が生きている限り、我が家の影響力は削がれ続けます。

ですが、あなた様と手を組めば――」

「なるほど、話は聞こう」

彼は懐から文書を取り出し、机の上に静かに差し出した。

「王国は、魔王様の統治を認め、毎年、金銀・布帛・美女・奴隷など、望むままに献上いたします。

加えて、勇者を討伐に差し向けることは、二度と致しません」

「……見返りは?」

「王国への不可侵条約。そして、我がヴェスカリア家の“永遠の栄誉”を」

――この男、己の家名を永劫守るために、王を、民を、国を丸ごと私に差し出したというのか。

恐れを知らぬ胆力。

私が“応じたくなる条件”を見定めて出す、この算段。

……悪魔のような男だ。

「……足りないな。それは、私が直接やれば手に入るものばかりだ。

君が差し出す“対価”としては不十分だ」

「そうですか……」

「だが、クセリオス・ヴェスカリア、君の誠意は認めよう。次に会う時までに、“私が納得する対価”を用意してみせろ。

私は退屈が嫌いだ。次の交渉で、私を楽しませてみせろ。――失望させるなよ、“人間”」

「さすが魔王様。これしきで応じるとは思っておりません。

次こそ、満足いただける“条件”を――必ず、お持ちいたします」

「それを楽しみにしているよ」

私は一礼し、空間魔法で貴族邸を後にした。

________________________________________

邸の外で待機していたルーとモリアが、私の帰還を出迎えた。

「マスター、あの人間と……本当に取引を?」

「するかもしれない、かつての私ならね」

「……条件としては悪くありません。あの勇者の娘に義理でも立てるつもりかしら?」

「いや。これまで人間を観察して、私は一つの結論に至った。

クセリオス・ヴェスカリア――あれは、“最も組んではならぬ男”だ」

私は静かに言った。

「利益で繋がった絆は頑固に見えるが、脆い。

カズキ王が障害である今、やつは私に手を差し伸べた。

だが、やがて王が排され、ヴェスカリア家が安定すれば――

やつの次の“敵”は誰になる?」

「帝国か、あるいは――この魔王か」

私は唇の端を持ち上げる。

「いつ噛みつくか分からぬ蛇など、飼う趣味はない。

バカな勇者の方が、よほど信頼できる」

それに、私は――

「沈みゆく船に乗る趣味もない」
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