まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
76 / 171
第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる

第68話:陰陽逆転!マオウ、毛玉になる

しおりを挟む
デュエロポリスの町の中、宿を探していたセリナは、どこか沈んだ顔でつぶやいた。

「……また、レン君のこと……」

最近、私……おかしいです

マオウさんがレン君を優先するたびに、胸の奥がチクリと痛むんです。

(《俺はアイツのことが好きだ。この気持ちは――本物だ》)

あのときのレン君の言葉が、何度も頭をよぎります。

マオウさんは、どう思っているんでしょうか?

レン君のこと、好きなんでしょうか……?

もし二人が両想いだったら――

「セリナは、どうなるんでしょうか……」

二人が結ばれたら、私はもう、マオウさんのそばにいられなくなるのでしょうか。

旅が終われば、私と一緒にいる理由も……きっと消えてしまう。

(「セリナが大人になったら……マオウさんは、離れてしまいますか?」

「……そうなるかもしれないな」)

……それだけは、嫌なんです。

________________________________________

「おいっ、セリナじゃないか!」

町の通りで、突然声をかけられた。

振り返ると――黒髪の、すごく美人な女の子が立っていた。

……これって、マオウさんが言ってた“ナンパ”ってやつでしょうか?

でも、相手も女の子だし……それに――

「おい、セリナ! 俺だよ、俺!」

なによりお胸が……すごく大きいです。

「……オレオレ詐欺ですか? マオウさんに注意されてます。お金は振り込みません!」

「違うって! 俺だよ、マサキ! ちょっとワケあって女になってたんよ!」

「そんなはずないです! マサキ様は男の人です。女になるなんて――」

「俺もそう思ってたよ。でもあの女……あいつ、マジでまともじゃねえ。

お前がここにいるってことは、レンも来てるんだな? 頼むから、あの女と戦わせないでくれ。

王 小梅は……マジでヤバいんだ……!」

焦るように、マサキ様はレン君のことを気にかけていた。

________________________________________

「俺は女の子だ。女と恋する趣味なんて――」

屋上で立ち上がったレンは、ふと動きを止めた。

何か――自分の身体の異変に気づいたようだった。

「あれ? ダーリン、女の子だったあるか。でも、そんなの小梅には関係ないあるよ。それに――」

小梅は、傷の治療まで始めていた。……気で回復までできるのか。習っとけばよかった。

……くそ、レンを回収するしかない!

私は飛行魔法で屋上に駆けつけた。

「レン! 今は退くぞ!」

けれど、動揺したレンはパニック状態だった。まるで――ゴーストタウンでの、あの時のように。

「今の俺に……触らないでっ!」

その手が私の肩を押し返した瞬間――

「……え?」

私の姿が、ふっと変わった。

変身が――解けた!?

なぜ……?

「あれ? こんな現象、初めてあるね。普通は逆の性別になるだけなのに……」

「マオウ……!」

……そうか、これも“気”の影響か。

________________________________________

帝国には、陰陽の原理に基づいた“陰陽学”という学問がある。

人体には“陰の気”と“陽の気”が流れ、それらがバランスを保つことで“太極”をなす。

だが、武術で“気”を打ち込まれると、このバランスが乱れることがある。

極陰あるいは極陽に偏りすぎたとき――

肉体に、思わぬ“変化”が起こる。

つまり――

「ダーリンは、男の子になればいいあるね」

「マオウ! なんでこんなことに、なんで……毛玉になっちゃったんだ……!」

レンの体内にある気の乱れが、私の身体にまで伝播していた。

その乱れが、私の“変身”を解いたのだろう。……くそ、こんなの、すぐ戻せるのに。

だが――“毛玉”の姿を見られた直後に急に戻ったら、不自然すぎる。

「大丈夫ある。ダーリンと違って、あの人は気の影響が少ないある。すぐ戻るあるよ」

「“すぐ”って……いつよ!」

「ダーリンこわいある♡ 運が良ければ一週間。運が悪ければ……知らないあるね♪」

「ふざけるなっ、今すぐ戻せ!」

レンは自分の身体の異変よりも、小梅との再戦に固執していた。

言いたいことは山ほどあったが、私は口をつぐんだ。

「今のダーリンの体じゃ、小梅には勝てないあるね。続きは、大会で。

小梅に勝ったら――なんでも、聞いてあげるあるよ? ふふ♪」

そして小梅は、何事もなかったかのように踵を返し、私たちの前から去っていった。

……さて。

この“毛玉”の姿で、どうするべきか――

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...