まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる

第70話:妹が最強で、兄がヒロインだった件について

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 転生する前、俺は「わしかわ」系のラノベにちょっと惹かれていた。

 美少女になって、チヤホヤされて、無双して、スローライフ――最高じゃないか。

 でも、現実はこれだ。

「髪、洗うのめんどくさい……」

「マサコ様。女の子は髪の手入れを怠ってはいけません」

「俺は男だ! しかも“マサコ”でもねぇ!!」

 ……毎朝この調子である。スカートとか足冷たいし、いろいろ足りなくて不安だし、座り方にも神経使うし、セリナに手伝われても、正直やってられない。

「ちょっとこれスースーするけど?」

「マサコ様、足開きすぎです。下着、見えてます」

「減るもんじゃないだろ!」

「はしたないです!」

 そういやセリナって元メイドだったんだよな。だから小うるさいのか。

いいじゃないか、だってレンも。

レン…

 

* * *

 

 俺は前世、ひとりっ子だった。

 ラノベ読んでは「妹が欲しい」なんて夢想してた。兄様命のブラコン妹――憧れるだろ、普通。

 でも現実ではしかし、俺のこの世界の初めての妹―――レンは俺に懐かった。

 あいつはいつも剣ばっかり。俺のことなんて構ってくれなかった。

 懐かれなかったのが悔しくて、いつの間にか逆恨みようになった。

 しかもあいつ、俺より強かった。俺は転生者なのに、一度も彼女に勝てなかった。

 だから俺は、レンのことを……理解しようともしなかった。

 (「私じゃない。レンに謝れ」

  「お前のくだらない命を、本気で心配していた唯一の人間だ」)

 ――あの毛たまが言ってた通り、俺を救いに来てくれたのは、レンだった。

 自尊心も、プライドも、何もかもボロボロだった俺を、妹は兄として見捨てなかった。

 本気で、俺のことを“兄”として信じてくれていたんだ。

 ……レンは、すごいよな。

 俺は剣を手に取る。

「……お、重ッ!!」

 この身体で扱うと、剣ってこんな重いのか。レンがあれを平然と振ってたってことは――

 そうか、相当な努力をしたな。だから俺に構っている時間はなかったか。

 ……俺は、自分のことばっかり考えてた。最低な兄貴だ。

 

* * *

 

「……なによ」

 夜。俺はレンを部屋に呼んだ。鍛錬帰りで汗もかいているのに、顔を合わせたくてたまらなかった。

「久しぶりに、兄妹で話したいじゃないか」

「何か変なもんでも食べた? お姉ちゃん」

「俺は男だ!!」

 皮肉が止まらないいつものレン。なのに――安心する。

「……ごめん」

「え、あんた、俺のプリン食べたの?」

「食べてないし、それはたぶんあの天使の仕業だ。

 そうじゃなくて……今までのこと。全部、謝りたいんだ」

「……あ、そう」

 軽い。あまりにも軽い。

「……こっちは、すげえ覚悟してたのに」

「兄妹でしょう? 謝罪なんて、軽いくらいでいいの。それとも何、ビンタして「許さない」で言ってほしいって?」

「いや、ビンタはもう勘弁」

 ふたりで、くすっと笑った。

 レンって、やっぱ可愛い妹だ。ずっと、気づけなかっただけで。

「俺、武闘大会に出るよ。もう一回、ちゃんとお前と勝負する」

「いいよ。今回は手加減しないからね……お姉ちゃん」

「だから俺は男だぞ!」

 でも――女になって、よかったかもしれない。

 初めて、素直にそう思えた。

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