まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
80 / 171
第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる

第73話:これが最強武闘会!秒で散る者、立つ者、変わる者

しおりを挟む
武闘会、ついに開幕。

毎年強者が集うが、今年はとくにレベルが高い。

その分、力の差が明確な試合は一瞬で決着する。



「白虎貫撃掌びゃっこかんげきしょう! 青龍流転脚せいりゅうるてんきゃく! 太極穿心打たいきょくせんしんだ!」

王 小梅の三連撃が炸裂した。

推進力を乗せた掌底で“破砕型”の打撃を加え、間髪入れず回転蹴り三段――

そして最後に、体幹を破壊する直打ちをリッパーの胴へ叩き込む。

まさに一瞬。反撃の隙すら与えず、実況の解説すら追いつかないまま――

「……勝者、王 小梅!」

間を置いて歓声が爆発する。

誰もが理解していた。“強い”のではない、“規格外”なのだ、と。



一方その頃、レンの試合。

(……影に潜んで、死角から狙ってくるか)

対戦相手は、暗殺系スキルに特化した【影毒融合】ベノム・シャドウ。

姿を消し、影の中を滑るように動き、ナイフで一撃――

麻痺毒を塗られたその刃に掠れば、立つこともできなくなる。

だが――

(もらった)

彼が放った一撃は、レンの“残像”を斬り裂いた。

(なっ……速すぎる!?)

影殺し専門の自分より速い相手など、想定していなかった。

「――影月流し(えいげつながし)」

残像の中に紛れた本体の一撃が、ベノムを切り裂いた。

「勝負あり! ユウキ選手の勝利!」

「ユウキ様素敵ーっ!」「結婚してー! 抱いてー!!」

女子からの黄色い歓声が鳴り止まない。

レン、人気がすごすぎる。



「お疲れ」

レンの控室に、ふわふわの毛玉が現れる。

「……セリナが、参加している……あの子が、誰より優しいあの子が」

「遅れて来た反抗期さ。今まで“いい子”でい続けた分、反動も大きい。

まあ、誰かさんみたいに家出しないだけマシだが?」

「……悪かったよ。家出して。でも、聖剣って、人を傷つけられないんだろ?

あんなのじゃ、まともに戦えない――」

「舐めるな、レン。あの剣を持つのは、セリナ君だ。

私と君が育てた弟子だぞ。油断すれば、君だって――負ける」

レンの表情が一瞬、引き締まる。



一方その頃――

「よっしゃー勝ったぜ! さすが俺様!」

マサコ(マサキ)は腐っても剣聖の弟子。

剣の腕前はレンには及ばずとも、凡百の戦士とは格が違う。

初戦は順当に突破。

「勝者、マサコ! あの胸で剣を振るとは……ブルンブルンしてる! あれは自慢か?当てつけかッ!」

「まあまあ、気持ちは分かりますよ。

さあ、続いては今年の大穴――当代勇者セリナ選手の登場です!」

「対するは、“砲撃拳”キャノン・ハンド! デカイ!ゴツい!くまみたい!」

身長差、体格差、経験差――全てでキャノンの方が上に見える。

それでもセリナは、無言のまま聖剣を抜いた。

「嬢ちゃん……やめとけって。俺、元チャンピオンなんだぜ? 弱者を痛めつける趣味はない。棄権しろ」

しかし、セリナは答えなかった。

ただ静かに剣を構える。それだけで、戦意は伝わる。

「……そうかい。なら、遠慮なくいかせてもらうぜ!」

開幕と同時に、キャノンが砲撃のような拳を放つ。

だが――

「なにっ!?」

セリナはそれを軽やかに回避。

そしてそのまま、キャノンの膝裏にカウンターの重い蹴りを叩き込んだ。

「がっ……!」

膝裏は装甲で守れない急所。

巨大な体重を支える脚を崩されれば、当然バランスを失う。

ドン――!

巨体が崩れる音と同時に、

セリナは距離を詰め、今度は――

「くっ……ぁあっ!」

膝蹴り。顎に叩き込み、脳を揺らす。

ふらついたキャノンの巨体が崩れ落ちる。

床に倒れた彼の胸元には、抜かれた聖剣が――「突きつけられて」いた。

聖剣は、人を“傷つけられない”。

それを知る者は少ない。

だがキャノンには、それを見抜く術がない。

彼女の“覚悟”に、気圧された彼は――

「……参りましたっ!!」



――ブラックセリナ、初戦突破。

静かに、確実に。

その歩みは“感情”と“聖剣”を乗せ、加速していく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...