まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第四章:勝者も敗者も、恋を知る――月下の武闘会は乙女を育てる

第75話:堕ちたイカロス

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セリナには、ふたりの師がいた。

レンからは「女戦士としての戦い方」を――

身体の柔軟性、筋力差を補う技術。

マオウからは「戦術と逆転の発想」を――

力では勝てぬ相手に勝つための、知恵と工夫を。

だから彼女は“聖剣”というハンデを背負いながら、勝ち上がってきた。

今、準決勝――マサコをも追い詰めている。

________________________________________

「……はぁ、はぁ……」

マサコは息を切らしていた。

彼女はまだ“女性の体”に慣れていない。

レンのように、女性として最も剣を使いやすい筋肉の使い方を、何年もかけて研究したわけではない。

今まで通り、男の感覚で剣を振る――それは、疲労が溜まりやすかった。

セリナは、それを見抜いている。

だからこそ、戦いをあえて持久戦に持ち込んだ。

彼女は、生まれながらの女である。

体の使い方も心得ている。

さらに日々の鍛錬と家事で培った体力は、すでに“人間離れ”していた。

マサコの猛攻を、セリナは最小限の力で避ける。

時折、腹・膝・顎などの急所へカウンターを差し込む。

マサコの両手剣では、それに対処しきれない。

(クソ……レンのような正面勝負でもない。

搦め手でじわじわ削ってくる……こんな戦い、見たことない)

マサコの前世知識――RPGの敵は正面からしか攻撃してこない。

だが現実の戦いはPvPに近い。

セリナは“勝つため”に相手の弱点を徹底的に突く。

そして、あえてたまにしかカウンターを使わないのも、動きのパターンを読ませないためだ。

「セリナ! もっと剣で来いよ! 勇者なら、真正面から来いよ!」

煽りにも反応はない。

むしろ、フェイントでマサコに休む間すら与えない。

(……どうする? マサキ……レンと再戦するって、約束したんじゃなかったのか)

思考が揺れた、その瞬間だった。

セリナが飛び込んでくる――

(またフェイクだろ)

だが――違った。

(ヤバい、本気だ!)

構えた時にはもう遅い。

ズドン、と腹に重い一撃。

反撃しようにも、セリナはすでに間合いの外にいた。

リスクを最小限するため、決して攻め過ぎはしない。

(強い……)

レンは“数値上”勝てない相手を、剣技で超える。

だがセリナは、“行動パターン”から勝負を支配していた。

すでに2時間以上戦っているのに、マサコは一撃もセリナに当てていない。

(だったら……最後の一手だ!)

「セリナ! これを食らえ!

覇王剣・零式改改Ver.2!!」

マサコは限界ギリギリの一撃に賭けた。

セリナは当然、それを回避する。

……その瞬間。

(今だ!)

マサコは剣を“囮”にして放り投げた。

本命は――柔道技。

(前世で習った柔道、こんなところで役に立つとはな……!)

マサコは体を低く落とし、セリナに組みついた。

完全な体重移動、投げに入る!

だが。

「――聖剣戦略、私・再改造」

セリナの身体が、ふわりと宙に浮いた。

《天使化》――!

セリナは空を飛び、組みつかれた状態のまま高度を取る。

マサコは重心を崩され、酔うようにバランスを失った。

「うっ……!」

セリナはそのまま空中で回転しながらマサコを振り回す。

高度、回転、遠心力――

そして。

(……ごめん、レン。

俺……約束、守れなかったよ……)

マサコはその手を離し、落ちていった。

まるで、伝説のイカロスのように。

――ドンッ。

「マサキ兄様っ!!」

レンの叫びが響くが――

「上半戦、勝者――勇者セリナ!」

その声は歓声の嵐にかき消された。
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