まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
91 / 171
第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

第82話:海賊? ああ、なんかそれっぽい人たちなら来たよ

しおりを挟む
マリ商会からの依頼を受け、私たちは黒真珠を手に入れる代わりに、彼女たちの商船を帝国海域まで護衛することになった。

そして今――ラム・ランデブーの港を発ち、公海を航行中である。

……のだが。

「マオウ……俺はもうダメだ……今までありがとう……」

「バカなこと言うな! たかが船酔いごときで!」

レンは完全にダウンしていた。

どうやら、不規則な波の揺れにやられたらしい。

武闘会の決戦でもそうだったが、彼女は船に弱すぎるようだ。

「レン君、大丈夫ですか? お腹をさすってあげましょうか」

「無理……今それやったら、昨日の晩ごはんまで戻しそう……」

この魔王が直々に膝枕までしているというのに、一向に良くなる気配がない。

……それに対して、別の誰かは――

「すごいすごい! 海って広くて気持ちいい!」

ルーは海面すれすれを音速で飛び回り、ソニックブームの波で天災まがいの衝撃を撒き散らしていた。

どこまでも絶好調。レンとの差が激しい。

「モリア、彼女を楽にする方法を知らないか?」

「気絶させればよろしいのでは?」

「もっと、穏便な方法をだ」

「ありませんわ」

……嘘だ。ルーと二人で宝探しに行くって言ったの、まだ根に持ってるんだな。

こんな時海賊でもきたら。

「大変よ! 海賊の旗が見えた!」

やれやれ。不幸は重なるものだ。



海の向こうに、小さな船影が見えた。

その船は大きくはなかったが、掲げた髑髏の旗は明らかに“それ”だった。間違いなく――海賊船。

「バンッ!」

船の向こうから大砲の音。今のは威嚇射撃だろうか。

降伏しろ、それとも沈めるか?というわけだな。

この魔王に、か? 冗談もほどほどに。

「どうしよう、この船には武装がない……」

「武装ならある! ルー!」

おのれ、海賊め……この魔王に刃向かうとは、運の尽きだな。

「はい、マスター! なに?」

「射撃ごっこだ。明星大砲を撃つぞ」

「いいの!? わーい!」

目をキラキラさせながら、ルーは天へと高く舞い上がった。手を空にかざす。

「――黎明の子、明けの明星よ。天から落ち、国々を打ち倒した者よ。お前は切られ、地に倒れた……」

破滅の呪文が響く中、ルーの手に現れたのは

――聖槍ロンギヌス。

「明星よ、堕ちよ」

我らが最強火力を喰らえ!

光の槍は、光速で海賊船へ向かい、貫いた。

……が、沈まなかった。威力が十分発揮される前に貫通したためだ。

船体に大きな穴は開いたものの、最終的な破壊には至らなかったようだ。

(アポロンにしておけばよかったか…)

ルーが次の一発を準備しようとしたとき――

白旗が上がった。



私たちの捕虜になった海賊は、たったの三人。

「降参だ! お願いだ、家族を殺さないでくれ!」

最初に出てきたのは中年の小柄な男。無理やり着込んだ“海賊服”は肩パッドが左右でズレていて、眼帯をしているが、ただの寝不足。鼻をかむ音がパフパフ鳴っていた。腰の包丁には「業務用」と記されている。

……これが海賊?

「やめろ、おやじ! あたいは海賊、略奪されるのも仕事のうち。さぁ、あたいを犯しな。代わりに、弟とおやじには手を出さないで……!」

続いて現れたのは、貝殻ビキニの女。サザエとホタテでサイズ合ってない上に、海風で髪が顔にペタペタ張りついている。ヒールで常にヨロヨロし、メイクは汗で崩壊してパンダ顔。

……これが海賊??

「とうちゃんとねえちゃんに、なにをするんだ! かかってこいやー!」

最後に出てきた少年はふんどし一丁で「海の荒くれ者」と書かれているが、肌は真っ白で焼け跡すらない。チラシを巻いた“宝の地図”と「リタール酒造」の浮き樽を抱え……いや、君、本当に泳げるのか? 海賊なのに?悪魔の実でも食べたのか君は。



セリナが「悪人には見えない」と言って三人を許した。

マリも損害なしと判断し、それ以上追及しない。

むしろ、あまりにも哀れなその姿に、私たちは彼らに食事まで振る舞うことになった。

聞けば、彼らは「シーサイレン一家」と名乗る家族で、今まで一度も略奪に成功したことがないらしい。

その格好のせいで、海軍にもサーカス団と間違われたことすらあるとか。

海賊家業だけじゃ辛いから、暇のときは運送業もやっているらしい。

じゃそっちに転職すればいいじゃない?

「夢がないね、兄ちゃん。海賊は男のロマンだぜ」

肉を頬張りながら笑うのは、船長にして父・デンジャラス・シーサイレン。

……ロマンて。君が言っても説得力がないぞ。

「海賊は男だけのもんじゃないわよ! 海は女の本能を呼ぶのよ!」

口いっぱいにパスタを詰め込むのは長女・ラブリー・シーサイレン。

……そのソース、胸まで飛び散ってるけど。

「俺はいつか海賊王になる男だ!!」

ピザのチーズを無限に伸ばすのは末弟・ナマズ・シーサイレン。

……無理だろ、君、泳げないじゃないか。

こうして――

私たちは初めて、海賊というものを見た。

そして――私たちは、“海の厳しさ”とは何かを、別の意味で知った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...