まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

第81話:ドーンピースとメイド商会

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テンペスト・タイラント、かつて海賊王まで上り詰めた男。 その悪名は、ただその海賊旗を見るだけで白旗を上げる商船も多々あるほどだった。 海を股にかける覇者、多くの財宝を所有していたはずなのに、その死後は一向に見つからなかった。 だからこそ、海賊王は財宝を隠したという伝説が今も残っている。

この『ドーンピース』という本を見て、私は思った。 人間の欲が深いな、と。死んでもなお財を手放したくないとは。 あの世に持っていけないし、持っていけたとしても使えない。くだらない。 まあ、ルーは財宝より“海賊ごっこ”がしたいだけだし、最近あまり構ってあげていないから、たまには付き合ってやるか。

モリアから名刺を受け取り、私たちはそこに記された住所へ向かった。 レンはすごく嫌そうな顔をしていたが……まあ、前に何かあったんだろう。 店は見た目はまともそうだが、とりあえず中へ入ろう。

「いらっしゃいませ、ご主人様! マリ商会へようこそ――あれ?」 メイド服を着た女性が私たちを迎え入れた。 ご主人様? いやいや、うちのメイドは一人だけだが……

「マリさん!」

「セリナじゃない」 どうやらセリナの知り合いらしい。



「ねね、マスター、この箱開けると音楽が出るよ。魔法かな?」

「人の店の商品を勝手に触っちゃダメだぞ。後で買ってから。ちょっと我慢しなさい」

「はーい、マスター大好き」

なかなかよくできている店だ。 王国では見たことのない商品がずらりと並んでいる。 これは帝国の製品だ。 帝国は機械技術の発展が著しく、さまざまな機械を作れる。 しかも、魔力を使わなくても動くものが多く、便利なので私も時々利用している。

「帝国の香水の製造技術は王国より高くて、おかげで香りのバリエーションが増えましたの。 乙女的にはありがたいことですわ」 あのモリアですら、買い物を楽しんでいるようだった。

「マリさんは農場をするで、前は言いませんでしたか?」 「いや、それがね。仲間の農民たちの農産物を近隣の町で売ってみたら、 私に商才があるって気づいちゃってさ。なにより、このメイド服で接客したらが大好評なのよ、これ見当てに買い物来る客もいるくらいに。 だから王国中に支店を出して、今回は帝国の商品も扱うことになったの。 見てなさいよ、シエノ。すぐに私が迎えに行くから、首を洗って待ってなさいっての!」

「メイド服ね……セリナが勇者として活躍してるから、その影響かも。 本来は使用人の服なのに、今じゃ人気とはね。不思議だ」 そう言ったレンは、呆れているようでいて、どこか楽しそうだった。

「えー、この人が前にセリナが言ってた“マオウさん”? 若っ! 前に話を聞いた時は年上の落ち着いた人かと思ったのに、かっこいい! ダメよ、マリ。あなたにはシエノがいるんだから、友達の彼氏を変な目で見ちゃだめ!」

「いいえ、彼女はレン君です。マオウさんじゃありません」

「女の子!? いいじゃない、ね? メイド服着てみない? お姉さんが着替え手伝ってあげるから♡」

「絶対に着ない! 俺はあれから二度とメイド服を着ないと誓った!」 ……なるほど、武闘会決勝戦のトラウマはまだ尾を引いているらしい。

「マオウさんなら、あちらにいますよ」 セリナが私の方を指差す。

「……あれ? あれは荷物持ちのオジサンじゃないの!?」 パーティーの一員とすら思っていなかったのか。



「黒真珠? あるわよ」 マリは小さな箱を開けた。 中には、闇を凝縮したような深みのある光沢を放つ黒真珠が納められていた。 表面には微かな虹色の輝きが潜んでおり、夜の海に月光が差したような印象を与える。 触れればひんやりとしており、重厚な存在感を放っていた。

「非売品だけど……ちょっと商船の護衛を手伝ってもらえたら、売ってあげる」

「きっと密輸だ。その商船、何を積んでるんだ。武器か? 黄金か? ……まさか白粉じゃないだろうな」

「失礼ね、おっさん! これは“同人誌”よ!」

なにそれ? 本のようだがやけに薄い。一本手に取ると――

男同士が睦み合う絵が描かれていた。 なにこれ?

「本ですか? セリナも見てみたいです」 「いや、セリナ君にはまだ早い!」 好奇心旺盛な娘だが、これは……さすがに見せたくない。 なんか腐りそうな気がする。

「帝国は技術は発展しているけど、娯楽は乏しいの。 だからこういう物が飛ぶように売れるのよ。 今まで海賊たちも興味を示さなかったのに、最近は海賊が酷くてみんな船を出さないじゃん?だからそういうの関係なく襲ってくるかもしれない。心配だわ」

ホモ本を狙う海賊か…… 堕ちているというか、腐っている。

「分かりました、引き受けます」 セリナは心よく応じた。だよな、この娘なら条件なしで受けると思った。

「やだね、僕は宝探しがしたい」 ルーは不機嫌そうだった。前回我慢した分、今回も待たされるのが嫌らしい。

「わかった、途中まで同行して、マリたちが公海に出て帝国海域に入ったら、私がルーと宝探しに行く。 結果はともかく、マリたちがラム・ランデブーへ戻るときに合流する、いいな?」

「うん! 久しぶりにマスターと二人きりだ」

モリアまで連れて行くと喧嘩になりそうなので逆効果だ。 仮に財宝の在処を知っていても、ルーのために教えるはずもないだろ。

「セリナも一緒に行きたいです」

「セリナ君が受けた依頼だろ、責任もって最後まで付き添ってあげなさい。友達だろ?」

「はい……おっしゃる通りです」 心底残念そうだった。仕方ない娘だ。

「帰ったら二人で出かけよう」

「はい。セリナ、いい本屋知っています!」

「じゃあ、これで話はついたな――って、いつまでそれ読んでる!? 君はホモになりたいのか!!」 さっきからホモ本を真剣に読みふけっているレンの本を取り上げ、 私たちは港へと向かった。
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