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第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い
第82話:海賊? ああ、なんかそれっぽい人たちなら来たよ
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マリ商会からの依頼を受け、私たちは黒真珠を手に入れる代わりに、彼女たちの商船を帝国海域まで護衛することになった。
そして今――ラム・ランデブーの港を発ち、公海を航行中である。
……のだが。
「マオウ……俺はもうダメだ……今までありがとう……」
「バカなこと言うな! たかが船酔いごときで!」
レンは完全にダウンしていた。
どうやら、不規則な波の揺れにやられたらしい。
武闘会の決戦でもそうだったが、彼女は船に弱すぎるようだ。
「レン君、大丈夫ですか? お腹をさすってあげましょうか」
「無理……今それやったら、昨日の晩ごはんまで戻しそう……」
この魔王が直々に膝枕までしているというのに、一向に良くなる気配がない。
……それに対して、別の誰かは――
「すごいすごい! 海って広くて気持ちいい!」
ルーは海面すれすれを音速で飛び回り、ソニックブームの波で天災まがいの衝撃を撒き散らしていた。
どこまでも絶好調。レンとの差が激しい。
「モリア、彼女を楽にする方法を知らないか?」
「気絶させればよろしいのでは?」
「もっと、穏便な方法をだ」
「ありませんわ」
……嘘だ。ルーと二人で宝探しに行くって言ったの、まだ根に持ってるんだな。
こんな時海賊でもきたら。
「大変よ! 海賊の旗が見えた!」
やれやれ。不幸は重なるものだ。
*
海の向こうに、小さな船影が見えた。
その船は大きくはなかったが、掲げた髑髏の旗は明らかに“それ”だった。間違いなく――海賊船。
「バンッ!」
船の向こうから大砲の音。今のは威嚇射撃だろうか。
降伏しろ、それとも沈めるか?というわけだな。
この魔王に、か? 冗談もほどほどに。
「どうしよう、この船には武装がない……」
「武装ならある! ルー!」
おのれ、海賊め……この魔王に刃向かうとは、運の尽きだな。
「はい、マスター! なに?」
「射撃ごっこだ。明星大砲を撃つぞ」
「いいの!? わーい!」
目をキラキラさせながら、ルーは天へと高く舞い上がった。手を空にかざす。
「――黎明の子、明けの明星よ。天から落ち、国々を打ち倒した者よ。お前は切られ、地に倒れた……」
破滅の呪文が響く中、ルーの手に現れたのは
――聖槍ロンギヌス。
「明星よ、堕ちよ」
我らが最強火力を喰らえ!
光の槍は、光速で海賊船へ向かい、貫いた。
……が、沈まなかった。威力が十分発揮される前に貫通したためだ。
船体に大きな穴は開いたものの、最終的な破壊には至らなかったようだ。
(アポロンにしておけばよかったか…)
ルーが次の一発を準備しようとしたとき――
白旗が上がった。
*
私たちの捕虜になった海賊は、たったの三人。
「降参だ! お願いだ、家族を殺さないでくれ!」
最初に出てきたのは中年の小柄な男。無理やり着込んだ“海賊服”は肩パッドが左右でズレていて、眼帯をしているが、ただの寝不足。鼻をかむ音がパフパフ鳴っていた。腰の包丁には「業務用」と記されている。
……これが海賊?
「やめろ、おやじ! あたいは海賊、略奪されるのも仕事のうち。さぁ、あたいを犯しな。代わりに、弟とおやじには手を出さないで……!」
続いて現れたのは、貝殻ビキニの女。サザエとホタテでサイズ合ってない上に、海風で髪が顔にペタペタ張りついている。ヒールで常にヨロヨロし、メイクは汗で崩壊してパンダ顔。
……これが海賊??
「とうちゃんとねえちゃんに、なにをするんだ! かかってこいやー!」
最後に出てきた少年はふんどし一丁で「海の荒くれ者」と書かれているが、肌は真っ白で焼け跡すらない。チラシを巻いた“宝の地図”と「リタール酒造」の浮き樽を抱え……いや、君、本当に泳げるのか? 海賊なのに?悪魔の実でも食べたのか君は。
*
セリナが「悪人には見えない」と言って三人を許した。
マリも損害なしと判断し、それ以上追及しない。
むしろ、あまりにも哀れなその姿に、私たちは彼らに食事まで振る舞うことになった。
聞けば、彼らは「シーサイレン一家」と名乗る家族で、今まで一度も略奪に成功したことがないらしい。
その格好のせいで、海軍にもサーカス団と間違われたことすらあるとか。
海賊家業だけじゃ辛いから、暇のときは運送業もやっているらしい。
じゃそっちに転職すればいいじゃない?
「夢がないね、兄ちゃん。海賊は男のロマンだぜ」
肉を頬張りながら笑うのは、船長にして父・デンジャラス・シーサイレン。
……ロマンて。君が言っても説得力がないぞ。
「海賊は男だけのもんじゃないわよ! 海は女の本能を呼ぶのよ!」
口いっぱいにパスタを詰め込むのは長女・ラブリー・シーサイレン。
……そのソース、胸まで飛び散ってるけど。
「俺はいつか海賊王になる男だ!!」
ピザのチーズを無限に伸ばすのは末弟・ナマズ・シーサイレン。
……無理だろ、君、泳げないじゃないか。
こうして――
私たちは初めて、海賊というものを見た。
そして――私たちは、“海の厳しさ”とは何かを、別の意味で知った。
そして今――ラム・ランデブーの港を発ち、公海を航行中である。
……のだが。
「マオウ……俺はもうダメだ……今までありがとう……」
「バカなこと言うな! たかが船酔いごときで!」
レンは完全にダウンしていた。
どうやら、不規則な波の揺れにやられたらしい。
武闘会の決戦でもそうだったが、彼女は船に弱すぎるようだ。
「レン君、大丈夫ですか? お腹をさすってあげましょうか」
「無理……今それやったら、昨日の晩ごはんまで戻しそう……」
この魔王が直々に膝枕までしているというのに、一向に良くなる気配がない。
……それに対して、別の誰かは――
「すごいすごい! 海って広くて気持ちいい!」
ルーは海面すれすれを音速で飛び回り、ソニックブームの波で天災まがいの衝撃を撒き散らしていた。
どこまでも絶好調。レンとの差が激しい。
「モリア、彼女を楽にする方法を知らないか?」
「気絶させればよろしいのでは?」
「もっと、穏便な方法をだ」
「ありませんわ」
……嘘だ。ルーと二人で宝探しに行くって言ったの、まだ根に持ってるんだな。
こんな時海賊でもきたら。
「大変よ! 海賊の旗が見えた!」
やれやれ。不幸は重なるものだ。
*
海の向こうに、小さな船影が見えた。
その船は大きくはなかったが、掲げた髑髏の旗は明らかに“それ”だった。間違いなく――海賊船。
「バンッ!」
船の向こうから大砲の音。今のは威嚇射撃だろうか。
降伏しろ、それとも沈めるか?というわけだな。
この魔王に、か? 冗談もほどほどに。
「どうしよう、この船には武装がない……」
「武装ならある! ルー!」
おのれ、海賊め……この魔王に刃向かうとは、運の尽きだな。
「はい、マスター! なに?」
「射撃ごっこだ。明星大砲を撃つぞ」
「いいの!? わーい!」
目をキラキラさせながら、ルーは天へと高く舞い上がった。手を空にかざす。
「――黎明の子、明けの明星よ。天から落ち、国々を打ち倒した者よ。お前は切られ、地に倒れた……」
破滅の呪文が響く中、ルーの手に現れたのは
――聖槍ロンギヌス。
「明星よ、堕ちよ」
我らが最強火力を喰らえ!
光の槍は、光速で海賊船へ向かい、貫いた。
……が、沈まなかった。威力が十分発揮される前に貫通したためだ。
船体に大きな穴は開いたものの、最終的な破壊には至らなかったようだ。
(アポロンにしておけばよかったか…)
ルーが次の一発を準備しようとしたとき――
白旗が上がった。
*
私たちの捕虜になった海賊は、たったの三人。
「降参だ! お願いだ、家族を殺さないでくれ!」
最初に出てきたのは中年の小柄な男。無理やり着込んだ“海賊服”は肩パッドが左右でズレていて、眼帯をしているが、ただの寝不足。鼻をかむ音がパフパフ鳴っていた。腰の包丁には「業務用」と記されている。
……これが海賊?
「やめろ、おやじ! あたいは海賊、略奪されるのも仕事のうち。さぁ、あたいを犯しな。代わりに、弟とおやじには手を出さないで……!」
続いて現れたのは、貝殻ビキニの女。サザエとホタテでサイズ合ってない上に、海風で髪が顔にペタペタ張りついている。ヒールで常にヨロヨロし、メイクは汗で崩壊してパンダ顔。
……これが海賊??
「とうちゃんとねえちゃんに、なにをするんだ! かかってこいやー!」
最後に出てきた少年はふんどし一丁で「海の荒くれ者」と書かれているが、肌は真っ白で焼け跡すらない。チラシを巻いた“宝の地図”と「リタール酒造」の浮き樽を抱え……いや、君、本当に泳げるのか? 海賊なのに?悪魔の実でも食べたのか君は。
*
セリナが「悪人には見えない」と言って三人を許した。
マリも損害なしと判断し、それ以上追及しない。
むしろ、あまりにも哀れなその姿に、私たちは彼らに食事まで振る舞うことになった。
聞けば、彼らは「シーサイレン一家」と名乗る家族で、今まで一度も略奪に成功したことがないらしい。
その格好のせいで、海軍にもサーカス団と間違われたことすらあるとか。
海賊家業だけじゃ辛いから、暇のときは運送業もやっているらしい。
じゃそっちに転職すればいいじゃない?
「夢がないね、兄ちゃん。海賊は男のロマンだぜ」
肉を頬張りながら笑うのは、船長にして父・デンジャラス・シーサイレン。
……ロマンて。君が言っても説得力がないぞ。
「海賊は男だけのもんじゃないわよ! 海は女の本能を呼ぶのよ!」
口いっぱいにパスタを詰め込むのは長女・ラブリー・シーサイレン。
……そのソース、胸まで飛び散ってるけど。
「俺はいつか海賊王になる男だ!!」
ピザのチーズを無限に伸ばすのは末弟・ナマズ・シーサイレン。
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そして――私たちは、“海の厳しさ”とは何かを、別の意味で知った。
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