まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

第86話:この街には、心がない――帝国、入港

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キャプテン魔王が海賊たちを狩りまくっていた頃――

セリナたちの船は、特に何事もなく帝国の港へ到着していた。

道中の海賊たちは……もうすでに“駆除”されたのかもしれない。

「陸だーっ! 揺れない地面って……最高……」

レン、完全復活。航海の間じゅう、彼女にとっては拷問でしかなかった。

「帰りも船を使いますのよ? ふふふ……」

モリアの一言で、レンの顔がさらに青くなった。

「皆さん、ありがとうございました! 帰りもよろしくね!」

マリは笑顔で同人誌の箱を荷台に乗せ、即売会の会場へと向かっていった。

「お姉さんが全部おごるから、みんなは自由に帝国の街を楽しんでいいよ!」



「これが……帝国、ですか」

セリナの目に映る光景は、王国とはまるで違っていた。

一軒家はほとんどなく、代わりにそびえ立つのは十階以上ある高層ビル。

石畳の凹凸道ではなく、一直線に舗装された滑らかな公道。

馬車の姿はなく、魔力も使わず走る“車”と呼ばれる鉄の馬。

市場の屋台も見当たらない。

大規模なショッピングモールが、生活のすべてを担っている。

「まるで……異世界のようです」

セリナは小さくつぶやいた。



「お嬢さん方、ようこそ帝国の港へ。私、この街の案内人でございます」

町に入ると、老紳士が優雅な口調で話しかけてきた。

「あの、ここって……なんて名前の街なんですか?」

「帝国の港です」

「えっと……街の名前は?」

レンが首をかしげて尋ねる。

「帝国の港です。“複雑な名称”よりも、“機能性”を重んじるのが、我々帝国流の美学です」

淡々とした口調が、かえって不気味に感じられた。

「では、お嬢さま方、ご希望の行き先はございますか?」

「……なにか、美味しい食べ物が食べたいです」

セリナの希望に、老紳士は頷いた。

「かしこまりました。フードコーナーへご案内いたします」

だが――

セリナは、彼の笑顔の奥に“心”を感じなかった。

笑顔は社会が求めたからそうしている。

案内も、礼儀も、丁寧語も――

彼自身がそうしたいからではない。ただ、“正しいとされる行動”を選んでいるだけだ。

光にあふれているのに、どこか冷たい街だった。



「ホットドッグ……ハンバーガー……?」

レンが戸惑うメニューを眺めていると、白衣の料理人が応じた。

「肉、野菜、炭水化物。人間に必要な栄養素をすべて含みます。調理時間は約五分。非常に効率的です」

にこやかに話すが、その笑顔もまた、型通りの“正解”の表情にしか見えなかった。

「私はハンバーガーをお願いします」

「じゃあ、俺はホットドッグで」

「私は遠慮しますわ。カロリーが高すぎますもの。戦士でもない私が食べたら……太っちゃいますわ」

「ご安心くださいませ。こちらに“レディーセット”もご用意しております」

「……サービスはいいのは嫌いじゃないわ、だけど今回は遠慮します、ファーストフードは好みじゃありません。」

モリアは言葉だけ礼儀正しく、静かに断った。

「かしこまりました。まだのご来店お待ちしております。」笑顔が崩さない、まるで機械のような不気味さだ。

料理はすぐに運ばれてきた。が――

「うわ、油すごっ。あと塩辛すぎ……これじゃ全部同じ味じゃねぇか」

レンが渋い顔をする。

セリナは黙って口を動かした。

ハンバーガーを一口、もう一口。

食べ終えると、静かに立ち上がり、金を払い――

「ごちそうさまでした」

それだけ言って、店を出た。



「なんなんだこの町……みんなからくり人形みたいだ。まるで魔族にでも魂を抜かれたようだぞ」

レンのぼやきに、モリアは静かに応じた。

「これは帝国の“日常”ですわ。帝国は実力社会。性別や出自に関係なく、能力さえあれば誰でも認められます。

ですが――能力のない者には、“生きる場所”すらない」

モリアの目は、どこか冷めていた。

「だから、競争は過酷。最適化と効率化がすべてを支配する……それが帝国がここまで強くなった理由であり――

娯楽も、心も、生まれない砂漠となった理由でもありますわ」

セリナは、小さく首を横に振った。

「セリナは――この街が、嫌いです」

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