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第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い
第88話:明星、深海に堕ちて
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「もしもし、こちらKG1132。例の海賊船らしきものを確認。……至急、増援を頼む」
帝国海軍基地――その最高責任者、少将カート・シュナイダーは無線の声に眉をひそめた。
「おのれ海賊め……よくも我が兵を殺しておきながら、堂々と賞金をせびりに来るとは。恥を知れ」
帝都では建国祭が開催中で、他の将官は不在。
この巨大基地は、今やカートの独壇場だった。
だが――彼こそが、“海賊船に偽装した帝国艦隊”による制海戦術《狼群ウルフパック》の発案者。
帝国の名を掲げず王国商船を襲い、同時に人魚の密猟まで行っていた張本人だ。
当初こそ順調だったその戦術も、最近突如現れた“謎の海賊船”によって壊滅寸前。
カートは激しい焦りに駆られていた。
「……無能の烙印だけは、絶対に避けねばならん。あれさえ潰せば、まだ間に合う……!」
だが、彼はまだ知らない。
それこそが“魔王の罠”であることを。
*
「うわぁ……僕、水の中でも平気だけど、濡れるのは好きじゃないんだよね」
ルーは不満げに言いながら、水中を進んでいた。
傍らには、シーサイレン一家の末弟――ナマズ。
彼らは今、帝国海軍基地の排水路を通り、極秘の潜入を遂行していた。
水圧に耐えられ、長時間の無呼吸にも耐えられる――人間には到底無理なルート。
だが、ルーは全能の天使。ナマズは人魚の血を引く者。
この程度、障害ではなかった。
「エンジェルマン、俺……家族以外で、ここまで一緒に潜れたの、初めてだ」
「ふふん、僕は全能のルキエル様だ。できて当然だ。」
*
「うおおおおおーっ!!」
突如ナマズが声を張り上げた。
だが、それは人間の耳には届かない――超高周波の“人魚ソナー”だ。
その声は、海軍基地の奥――人魚たちの元へと届く。
〈こっち……聞こえた!〉
返ってきたのは、同じく高周波の応答。
まるで海の中で交わされる“秘められた電話”のように。
「なんだ!? お前たちは……」
通路の先で兵士に見つかりかけたが、ルーが指先をひと振りするだけで――
灰となって、消えた。
「予想より少ない。マスターの陽動がうまくいったみたい」
彼らは、奥へと急ぐ。
そして、たどり着いた。
それは、大型の水槽。
その中には、信じがたい数の――人魚たちが閉じ込められていた。
「……ひどい」
スペースはあまりにも狭く、身動きすら困難。
ただひたすら涙を流すことで“真珠”を生産する装置のように扱われていた。
「人魚の涙には感情が宿る。だから黒真珠は、負の結晶だよ……」
ナマズがぽつりと呟く。
その水槽の底に、幾つもの黒真珠が沈んでいた。
それはこの国の罪の証。
帝国が“特産”として誇る宝石の正体だった。
「でも、どうやって彼女たちをここから逃がせば……ここから海まで遠いよ」
ナマズが悩む。
すると
「海なら近いじゃない」ルーは、地面を指差した。「この下すぐだ」
ルーはロンギヌスを出した。
「――黎明の子、明けの明星よ。天から落ち、国々を打ち倒した者よ。お前は切られ、地に倒れた……」
「明星よ、堕ちよ」
聖槍は地を貫いた。
ズズズ……と地鳴りと共に、海水が吹き上がる。
「よかった、溶岩じゃなくて。まあ、仮に出たとしても、僕ならなんとかなる。」
ルーは悪びれず笑い、水槽の壁に指を添えた。
パリン……
それだけで、分厚い強化ガラスが粉々に砕ける。
解放された水と共に――人魚たちは、動き出した。
はじめは一人。
次いで、二人、三人――
やがて全員が、海へと向かう水流に乗り、解き放たれるように泳ぎ始めた。
「もう大丈夫だよ。君たちは自由なんだ。好きなだけ、広い海を泳いでいい」
その声に、人魚たちは“歌”で応えた。
人間の耳には届かない、透明な音。
けれどルーとナマズには確かに聞こえた。
――ありがとう。
輝く海流の中で、真珠のように白い涙が、きらきらと舞っていた。
*
「急ごう、地震が来る」
ルーの槍が地脈を突いたことで、基地全体が揺れ始めていた。
「うわっ、ちょ、ちょっと待って! パンツが引っかかった!」
「バカ弟、置いてくぞ!」
「ごめんなさい!!」
月明かりの下。
水と光に飲まれてゆく帝国の“監獄”。
それは、囚われた人魚たちの“涙”によって、ゆっくりと沈んでいった。
だが、戦いはまだ終わらない。
――海軍の追撃部隊が、魔王の元へと迫っていた。
ルーはその気配を感じ取り、翼を広げる。
「待ってて、マスター。今、助けに行くから!」
そして――翼を広げ、彼は月光を弾きながら、夜空を切り裂いた。
明星――その名にふさわしい輝きとともに。
帝国海軍基地――その最高責任者、少将カート・シュナイダーは無線の声に眉をひそめた。
「おのれ海賊め……よくも我が兵を殺しておきながら、堂々と賞金をせびりに来るとは。恥を知れ」
帝都では建国祭が開催中で、他の将官は不在。
この巨大基地は、今やカートの独壇場だった。
だが――彼こそが、“海賊船に偽装した帝国艦隊”による制海戦術《狼群ウルフパック》の発案者。
帝国の名を掲げず王国商船を襲い、同時に人魚の密猟まで行っていた張本人だ。
当初こそ順調だったその戦術も、最近突如現れた“謎の海賊船”によって壊滅寸前。
カートは激しい焦りに駆られていた。
「……無能の烙印だけは、絶対に避けねばならん。あれさえ潰せば、まだ間に合う……!」
だが、彼はまだ知らない。
それこそが“魔王の罠”であることを。
*
「うわぁ……僕、水の中でも平気だけど、濡れるのは好きじゃないんだよね」
ルーは不満げに言いながら、水中を進んでいた。
傍らには、シーサイレン一家の末弟――ナマズ。
彼らは今、帝国海軍基地の排水路を通り、極秘の潜入を遂行していた。
水圧に耐えられ、長時間の無呼吸にも耐えられる――人間には到底無理なルート。
だが、ルーは全能の天使。ナマズは人魚の血を引く者。
この程度、障害ではなかった。
「エンジェルマン、俺……家族以外で、ここまで一緒に潜れたの、初めてだ」
「ふふん、僕は全能のルキエル様だ。できて当然だ。」
*
「うおおおおおーっ!!」
突如ナマズが声を張り上げた。
だが、それは人間の耳には届かない――超高周波の“人魚ソナー”だ。
その声は、海軍基地の奥――人魚たちの元へと届く。
〈こっち……聞こえた!〉
返ってきたのは、同じく高周波の応答。
まるで海の中で交わされる“秘められた電話”のように。
「なんだ!? お前たちは……」
通路の先で兵士に見つかりかけたが、ルーが指先をひと振りするだけで――
灰となって、消えた。
「予想より少ない。マスターの陽動がうまくいったみたい」
彼らは、奥へと急ぐ。
そして、たどり着いた。
それは、大型の水槽。
その中には、信じがたい数の――人魚たちが閉じ込められていた。
「……ひどい」
スペースはあまりにも狭く、身動きすら困難。
ただひたすら涙を流すことで“真珠”を生産する装置のように扱われていた。
「人魚の涙には感情が宿る。だから黒真珠は、負の結晶だよ……」
ナマズがぽつりと呟く。
その水槽の底に、幾つもの黒真珠が沈んでいた。
それはこの国の罪の証。
帝国が“特産”として誇る宝石の正体だった。
「でも、どうやって彼女たちをここから逃がせば……ここから海まで遠いよ」
ナマズが悩む。
すると
「海なら近いじゃない」ルーは、地面を指差した。「この下すぐだ」
ルーはロンギヌスを出した。
「――黎明の子、明けの明星よ。天から落ち、国々を打ち倒した者よ。お前は切られ、地に倒れた……」
「明星よ、堕ちよ」
聖槍は地を貫いた。
ズズズ……と地鳴りと共に、海水が吹き上がる。
「よかった、溶岩じゃなくて。まあ、仮に出たとしても、僕ならなんとかなる。」
ルーは悪びれず笑い、水槽の壁に指を添えた。
パリン……
それだけで、分厚い強化ガラスが粉々に砕ける。
解放された水と共に――人魚たちは、動き出した。
はじめは一人。
次いで、二人、三人――
やがて全員が、海へと向かう水流に乗り、解き放たれるように泳ぎ始めた。
「もう大丈夫だよ。君たちは自由なんだ。好きなだけ、広い海を泳いでいい」
その声に、人魚たちは“歌”で応えた。
人間の耳には届かない、透明な音。
けれどルーとナマズには確かに聞こえた。
――ありがとう。
輝く海流の中で、真珠のように白い涙が、きらきらと舞っていた。
*
「急ごう、地震が来る」
ルーの槍が地脈を突いたことで、基地全体が揺れ始めていた。
「うわっ、ちょ、ちょっと待って! パンツが引っかかった!」
「バカ弟、置いてくぞ!」
「ごめんなさい!!」
月明かりの下。
水と光に飲まれてゆく帝国の“監獄”。
それは、囚われた人魚たちの“涙”によって、ゆっくりと沈んでいった。
だが、戦いはまだ終わらない。
――海軍の追撃部隊が、魔王の元へと迫っていた。
ルーはその気配を感じ取り、翼を広げる。
「待ってて、マスター。今、助けに行くから!」
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