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第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ
第94話:悪魔が引く糸、貴族が踊る
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クセリオスのクーデターは迅速だった。
わずか半日で王都は制圧された。
それはヴェスカリア家が、何百年の歴史の中で築き上げてきた“力”の結晶だった。
「な、なにをする! 俺たちはこの学校の生徒だぞ!」
――だが、公爵の命令により、その学校は廃校に。
いずれは貴族の別荘に改装される予定となった。
さらには、奴隷の売買までが復活を告げた。
「カズキ王は、そんなことを許すはずがない!」
学生たちは怒りと抗議の声を上げた。
「もう“カズキ王の時代”は終わった。……これからは、“クセリオス王の時代”だ」
衛兵たちは、冷たく言い放った。
王国の至る場所に、マサキ王子とレン姫の【懸賞令】が貼り出された。
カズキ王と王妃も、処刑の予定は一週間後と告げられている。
彼が何十年もかけて築き上げてきた改革は――
ここですべて、無に帰してしまうのだろうか?
*
「すべて、あなたの言った通りに上手く運んだ……パイモン」
王宮の地下室。
このクーデターの勝利者――クセリオス公爵は、ひとり呟いた。
そして彼の“影”から、もうひとつの影がゆっくりと形を成し、やがて姿を現す。
「ええ。私は全知の悪魔――こうなることを、最初から知っていました」
モリアである。
だが今日の彼女は、いつものゴスロリドレスではなく、執事風のテールコートを纏い、長い髪もショートカットに変えていた。
口調も女性的なものは消え、落ち着いた中性的な調子に変わっている。
――だが、その可愛らしい顔だけは、変わっていない。
なぜ彼女が、こんな場所にいるのか?
「異世界人の王が“議会制”を持ち出す。……それを事前に知っていれば、工作などいくらでもできる。
衛兵たちも所詮、目先の利益に釣られる“使いやすい駒”。
“改革による不確定な未来の利益”より、“明日の昇給”の方が重要なのさ。
それすら理解できなかった異世界人は、王の器ではなかった……
それにしても、剣聖と賢者の子女が、ちょうど王都に戻っていたとは――ふふ、運命は私の味方をしてくれる」
クセリオスは勝利の余韻を噛み締めるように、グラスにワインを注ぐ。
「よろしいのですか?
今まで“王座”には興味がないと語っていたあなたが、今さら“クーデター”などと」
「……今、叩かねば間に合わなくなる。
議会制が導入されてしまえば、民は“政治の味”を覚えてしまう。
一度知ったものは、もう元には戻らん。
貴族の権力は徐々に削られ、やがて歴史から消えていく。
異世界人が“半数の議席を貴族に譲る”などと語ったのは、ただの便宜に過ぎん。
ゆでガエルのように、ぬるま湯で我々を殺すつもりだ。……全知でなくとも、私には分かる」
クセリオスはワインを飲み干し、満足げに口元を拭った。
「それが、あなたの破滅を招くとしても……ですか?」
「……私の結末も知っているのか、悪魔め。
だが、知っているのなら、こうも分かるはずだ。
――私は、何もしなければ“ヴェスカリア家”が衰退する運命にある。
ならば賭けるしかあるまい。“悪魔の力”も利用する。それだけだ」
「ならば、私から言うことはありません。
あなたがどんな結末を迎えるか――見届けさせていただきます」
モリアはその言葉を最後に、ふっと姿をかき消した。
*
クセリオスが悪魔の召喚を行ったのは、何十年も前――
カズキ王が改革に乗り出した、その頃からである。
当時のクセリオスには、せいぜい低級な悪魔しか応じてくれなかった。
だが、そのとき――モリアは現れた。
彼女と契約を交わしたことで、クセリオスは“あのときの若さ”を保ち続けている。
さらに、モリアの全知の力を借りることで、カズキ王の行動を常に一手先、二手先まで読み切ることができた。
では、なぜ彼女はそんなことをしたのか?
それは、彼女が“見抜いた”からだ――この男は“利用できる”と。
クセリオスが“悪魔を使っている”つもりでいるように、彼女もまた――クセリオスを“使っている”。
魔王すら、いまだに彼女が裏で糸を引いていることを知らない。
「この姿……やっぱり好きになれませんわ。だって、可愛くないんですもの。
“仕事”のときは“パイモン”として、こういう格好をしなきゃいけないだなんて――乙女の心を持つ私にとっては、あまりに酷ですわ。
これだから、ビジネスってやつは苦手ですの……」
王宮のどこかの一室で、彼女はいつものゴスロリ風ドレスに着替え、髪型も戻していた。
「……これから忙しくなりますわね。魔王様にも、しばらく会えなくなるのが寂しいですわ。
でも――“正妻”って、ただ愛を求めるだけじゃダメ。
彼にも“幸せ”になってほしいんですの。
クセリオスという男は、魔王様の計画に大いに役立つでしょう……生贄としてね」
悪魔は、契約者の願いを叶える代償として“魂”を求める――
だが――“全知の悪魔”にとって、それだけでは足りないのらしい。
わずか半日で王都は制圧された。
それはヴェスカリア家が、何百年の歴史の中で築き上げてきた“力”の結晶だった。
「な、なにをする! 俺たちはこの学校の生徒だぞ!」
――だが、公爵の命令により、その学校は廃校に。
いずれは貴族の別荘に改装される予定となった。
さらには、奴隷の売買までが復活を告げた。
「カズキ王は、そんなことを許すはずがない!」
学生たちは怒りと抗議の声を上げた。
「もう“カズキ王の時代”は終わった。……これからは、“クセリオス王の時代”だ」
衛兵たちは、冷たく言い放った。
王国の至る場所に、マサキ王子とレン姫の【懸賞令】が貼り出された。
カズキ王と王妃も、処刑の予定は一週間後と告げられている。
彼が何十年もかけて築き上げてきた改革は――
ここですべて、無に帰してしまうのだろうか?
*
「すべて、あなたの言った通りに上手く運んだ……パイモン」
王宮の地下室。
このクーデターの勝利者――クセリオス公爵は、ひとり呟いた。
そして彼の“影”から、もうひとつの影がゆっくりと形を成し、やがて姿を現す。
「ええ。私は全知の悪魔――こうなることを、最初から知っていました」
モリアである。
だが今日の彼女は、いつものゴスロリドレスではなく、執事風のテールコートを纏い、長い髪もショートカットに変えていた。
口調も女性的なものは消え、落ち着いた中性的な調子に変わっている。
――だが、その可愛らしい顔だけは、変わっていない。
なぜ彼女が、こんな場所にいるのか?
「異世界人の王が“議会制”を持ち出す。……それを事前に知っていれば、工作などいくらでもできる。
衛兵たちも所詮、目先の利益に釣られる“使いやすい駒”。
“改革による不確定な未来の利益”より、“明日の昇給”の方が重要なのさ。
それすら理解できなかった異世界人は、王の器ではなかった……
それにしても、剣聖と賢者の子女が、ちょうど王都に戻っていたとは――ふふ、運命は私の味方をしてくれる」
クセリオスは勝利の余韻を噛み締めるように、グラスにワインを注ぐ。
「よろしいのですか?
今まで“王座”には興味がないと語っていたあなたが、今さら“クーデター”などと」
「……今、叩かねば間に合わなくなる。
議会制が導入されてしまえば、民は“政治の味”を覚えてしまう。
一度知ったものは、もう元には戻らん。
貴族の権力は徐々に削られ、やがて歴史から消えていく。
異世界人が“半数の議席を貴族に譲る”などと語ったのは、ただの便宜に過ぎん。
ゆでガエルのように、ぬるま湯で我々を殺すつもりだ。……全知でなくとも、私には分かる」
クセリオスはワインを飲み干し、満足げに口元を拭った。
「それが、あなたの破滅を招くとしても……ですか?」
「……私の結末も知っているのか、悪魔め。
だが、知っているのなら、こうも分かるはずだ。
――私は、何もしなければ“ヴェスカリア家”が衰退する運命にある。
ならば賭けるしかあるまい。“悪魔の力”も利用する。それだけだ」
「ならば、私から言うことはありません。
あなたがどんな結末を迎えるか――見届けさせていただきます」
モリアはその言葉を最後に、ふっと姿をかき消した。
*
クセリオスが悪魔の召喚を行ったのは、何十年も前――
カズキ王が改革に乗り出した、その頃からである。
当時のクセリオスには、せいぜい低級な悪魔しか応じてくれなかった。
だが、そのとき――モリアは現れた。
彼女と契約を交わしたことで、クセリオスは“あのときの若さ”を保ち続けている。
さらに、モリアの全知の力を借りることで、カズキ王の行動を常に一手先、二手先まで読み切ることができた。
では、なぜ彼女はそんなことをしたのか?
それは、彼女が“見抜いた”からだ――この男は“利用できる”と。
クセリオスが“悪魔を使っている”つもりでいるように、彼女もまた――クセリオスを“使っている”。
魔王すら、いまだに彼女が裏で糸を引いていることを知らない。
「この姿……やっぱり好きになれませんわ。だって、可愛くないんですもの。
“仕事”のときは“パイモン”として、こういう格好をしなきゃいけないだなんて――乙女の心を持つ私にとっては、あまりに酷ですわ。
これだから、ビジネスってやつは苦手ですの……」
王宮のどこかの一室で、彼女はいつものゴスロリ風ドレスに着替え、髪型も戻していた。
「……これから忙しくなりますわね。魔王様にも、しばらく会えなくなるのが寂しいですわ。
でも――“正妻”って、ただ愛を求めるだけじゃダメ。
彼にも“幸せ”になってほしいんですの。
クセリオスという男は、魔王様の計画に大いに役立つでしょう……生贄としてね」
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