まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ

第105話:シエノ、王宮でメイド愛を叫ぶ

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「クセリオス王は、今、多忙につき、面会は叶いません。」
伝令兵の声は冷たく、目も合わせようとしない。

「城内での滞在は特別に許可しますが──」

一瞬、言葉を切って、鋭い視線を向ける。

「中枢エリアに近づくような真似は、決してなさらないこと。」

その言葉の裏には、明らかな警告が込められていた。

「それと、シエノ様は構いませんが、お二人のメイドは王宮外でお待ちいただきます。敏感な時期ですので、外部の方の入城は極力控えたいのです。宿泊施設は手配いたしますが」

(まずい...僕だけ入られても意味がない...)

「僕はメイドフェチなんだ」

シエノの突然の告白に、伝令兵がぎょっとする。セリナとレンはそっと後ずさりした。「ですが、城内にもメイドはおりますので...」

「お前にはわからないだろう」

シエノは深く息を吸い、両手を広げて熱弁を開始した。

「諸君! 僕はメイドが好きだ!」

その声は王宮の壁に反響し、衛兵たちが思わず身を引く。

「メイド服のフリルに心躍らせ、

カチューシャの白さに胸を打たれ、

完璧なティーセレモニーに魂を震わせる!」

シエノの目が熱に浮かんだように輝く。

「小さな手で重い銀盆を運ぶ姿に感動し、

暗闇で刃を閃かせる姿に涙し、

朝もやの中を掃除する姿に神聖さを覚える!」

セリナとレンが顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。

「僕はメイドの笑顔に癒され、メイドの叱責に悦びを感じる。

メイドが掃除してくれる部屋こそが聖域であり、

メイドが立つ厨房こそが王国の心臓だ。

メイドが給仕するティータイムにこそ、人生の真価がある。

僕は信じている。」

シエノが突然伝令兵の肩を掴む。

「このエプロンのひだひとつに千年の歴史が宿っていることを

お前は知っているのか?

この微笑みの裏に鋼の覚悟があることを

理解できているのか?」

伝令兵が青ざめてうなずく。

「ならばわかるだろう!

彼女たちこそがこの腐敗した世界に最後の清流をもたらす存在なのだ!

彼女たちでなければ意味がないのだ!

僕のメイド愛を満たせるのは

この二人だけなんだ!」

長い沈黙の後、

「...どうぞお入りください」

伝令兵が疲れたように言った。

(どうやら...侵入は成功したらしい)



シエノの個室で、カズキ王と王妃救出作戦の会議が始まった。

「ねえ、お二人さん...さっきの演説は演技ですよ。 なんでそんなに距離取っていますか?」

シエノが困ったように言うと、

セリナとレンはさらに壁際へ後退した。

「演技...ですか?」

「目が本気だった...」

シエノが肩をすくめる。

「いやいや、別に君たちに変な期待はしていませんって...」

するとセリナが毒づいた:

「だからマリさんに惚れたんです? 本物のメイドマニアのシエノ様?」

「もうそれでいいです」シエノは疲れたように手を振り、それ以上弁明するのを諦めた。

「さて、茶番は終わりだ。これからは情報収集の方法を考えよう」

これまで黙っていた毛玉の魔王が突然口を開き、議論を仕切り始めた。その小さな手でチョッキの裏に作戦図を描きながら、

「現状、立入禁止の中枢エリアが最も怪しい。しかし...」

魔王の声が低く沈む。

「王と王妃を同じ場所に閉じ込めているとは考えにくい。単純にリスクが大きすぎる。一つのミスで全ての手札を失いかねない」

「つまり...」とレンが身を乗り出す。

「私たちも一人ずつ救出する作戦は諦めた方がいい。同時行動が必須だ」

シエノが眉をひそめた:

「でも分散すると危険では?ここは王宮の最深部、警備が最も厳重な場所ですよ」

魔王の毛玉がふわっと浮かび上がり:

「それも計算済みだ。だからレンは王妃を、セリナと私は王を救出に向かう。王妃様は戦闘経験がない。レンが護衛すれば、より安全に脱出できるだろう。」

魔王の小さな手が作戦図を指し示す。

「逆に、人間相手では不利なセリナには、元勇者であるカズキ王の救出を。戦力として相乗効果が期待できる」

ふと、魔王の表情が曇る。

「...だが大丈夫か、セリナ君?」

魔王は学校事件で彼女が受けたショックが気になるようだ。

「この先の過酷な作戦に耐えられるか?」

セリナの瞳が静かに輝いた。

「大丈夫です。私は...クセリオス公爵を倒したい。ホップタウンの悲劇も、今回の学校の惨劇も...あんなに多くの人を傷つけるなんて、絶対に許せない」

セリナは胸に手を当てた。その声には憎悪ではなく、傷ついた者たちへの想いが震えていた。

「では、よろしく頼む」



「誰だ!ここは立入禁止区域だ!」

中枢エリアを徘徊するセリナは、あっさりと衛兵に見つかってしまった。

「僕はユキナ。シエノ様に仕えるメイドだ。…大切なぬいぐるみを無くしてしまった、探しているのだ」

衛兵は疑い深そうに眉をひそめる。

「メイド?確かにシエノ様とメイド二人の入城記録はあるが…ダメだ。ここはクセリオス様の許可なしには通せん」

セリナの目が一瞬、薄く光る。

「そのぬいぐるみは…僕から離れると、寂しさのあまり呪いをかけるのだ」

「呪いだと?馬鹿な――」

衛兵の言葉が終わらぬうちに、隣の棚に飾られた花瓶が不自然に崩れ落ち、粉々に砕けた。

「なっ…!?」

遠くからレンが"気"を操り、わざと花瓶を破壊したのだ。

同時に、もう一人の衛兵が震える声で呟く。

「おい…なんだか急に寒くなったと思わねえか?」

「あ、ああ…背筋が凍りつくような寒さが…」

魔王が密かに周囲の気温を下げていた。

セリナは無表情のまま、ゆっくりと衛兵に近づく。

「今、僕と話したことで…あなたたちはもう呪われだ。今夜ても、夢の中に現れるかもしれないね。あの花瓶の欠片を食べながら、笑うあの子が……」

「ふ、ふざけるな!さっさと呪いを解け!でないと――」

「ぬいぐるみを見つけてくだされば、すぐに呪いは解ける。でも…もし彼が僕の元へ帰らないなら?」

ここで初めてセリナが笑う。それは氷のように冷たい笑顔だった。

「たとえ僕が死んでも、呪いはあなたたちが死ぬまで決して解けない」

衛兵たちは喉をごくりと鳴らした。セリナのあまりにも静かな物言いと、微動だにしない表情が、かえって話の真実味を増していた。

「わ、わかった…一緒に探してやるよ。だが、俺たちの目から離れるんじゃねえぞ!見つかり次第、すぐに退出しろ!」

「ええ、ご親切にありがとうございます。」衛兵たちが見えない死角で、セリナは満足げに微笑んだ。
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