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第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ
第107話:×は探索、〇は突破──勇者の記号作戦
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「ここにはいない」
「もういくつの部屋を探れば気が済むんだ...ここにもいないだろうが」
衛兵たちの監視のもと、"ユキナ"と名乗るセリナは中枢エリアをくまなく探索していた。彼女の手には消えないマーカーが握られ、また一つ壁に×印が刻まれる。
「おい!また落書きするな!」
「これは探すためのおまじないよ」セリナの声には一切の感情の揺らぎがない。「あの子はこの印で私の居場所がわかるの。呪いを早く解きたいでしょ?」
衛兵が喉をごくりと鳴らす。壁に刻まれた×印が、不気味に赤く輝いているように見えた。
「後で消せば問題ないわ」
セリナの冷たい指先が、次の部屋の扉に触れる。
「さあ、次に行きましょう。時間は...あまり残されてないよ」
何部屋も探索を重ねた後、セリナはついに中枢最深部の一室前に到達した。突然、周囲衛兵たちが彼女の進路を塞いだ。
「そこはダメだ! 絶対に入るな!」
特別な重装備をした兵士たちが守る重厚そうな扉だ。
「でも...あの子はこの中にいるかもしれない」
セリナの指先が扉に触れる寸前で止まる。
「たとえ中にいたとしても諦めろ」
衛兵長の声が震える。
「ここに入れば、呪いより先にクセリオス王の手で...皆殺しにされる」
一瞬の沈黙。
「...わかった」
セリナは静かに踵を返す。しかし──
(カチッ)
誰も気づかない死角で、マーカーの蓋が開く音。
「他を探そう」
そう言いながら、彼女は自然な動作で壁に◯印を残していった。
(◯印は二つ...これで任務完了でしょうか? でもまだ地下階層を確認してません。念のため──)
セリナの思考が途切れる。まさかこの王宮に、彼女の正体を知る人物がいるとは。
「勇者セリナ!!」
その声は、セルペンティナ滞在時──シエノの屋敷で共に働いた執事セバスのものだった。魔王も予想していなかった展開だ。
「聖剣戦略!私再改造!」瞬時セリナ天使化の判断を下し、マーカーを装備し聖剣へと変貌した。
「ッ!」
セリナの羽が光り、爆音と共に加速。
ガラスの破片が陽光を跳ね返し、廊下に冷たい光を散らした。
聖剣の残像が廊下の窓を次々と貫く。ガラスが爆散する間もなく、すでに次の窓へ──
「何をぼんやりしている! 捕まえろ!」
セバスの怒声で我に返った衛兵たちが追跡を開始する。
(ガラッ!)
割れるガラスの音が、魔王への合図となる。
(プランA失敗...プランBに移行)
空中で身を翻しながら、セリナは次の行動へと移った。窓から差し込む光が、彼女の天使化した姿を浮かび上がらせる。
*
(バキーン! ガシャーン!)
王宮中に響き渡るガラス割りの音。魔王が耳をピクッと動かす。
「...プランA失敗だ」
レンの眉に皺が寄る。「早すぎない? セリナ、無事か...」
「ふん…セリナがヘマするとは思えん。あの娘に知り合いがいたな。…まあ、万が一に備え、逃げ切る方法は教えておいた。◯印の魔力マーカーの印——四階の突き当りと、二階中央にあるか」
「二階のあの部屋は『王の座』だ。二人がそこに閉じ込められるはずがないだろう!」
「両方一度に見つけようとするのは甘かったか…まあ、四階にはおそらく王妃がいる。戦闘能力のない彼女なら、高い階に閉じ込めれば脱出は難しいだろう。君はそちらに向かえ。私はセリナと地下を探す。」
「了解。父上とセリナさんをお願い。」
「いや、案外二人とも私の助けなど必要ないかもしれん。何と言っても勇者だからな!」
*
地下牢に閉じ込められた元王・勇者のカズキ。重い手枷と足枷を付けられ、明日処刑されるというのに、その顔には微塵も恐怖の色が見えない。
「わしも明日で終わりじゃ。牢番の若いの、最後の願いじゃが、せめてうまいものを食わせてくれんか? あの世行きの前に、ひとつ良いものを腹に収めたいのじゃ」
「断る。クセリオス王の命により、貴様との接触は一切許されていない」
カズキはくすくす笑う。
「今のわしに何ができよう。明日になればこの命も尽きる…誰にも知られずに済むさ。クセリオスがあえてこんな薄暗い牢まで見に来ると思うか? そうだな…もしこの願いを叶えてくれたら、クセリオスも知らぬ王家の秘宝の在り処を教えてやろう。どうじゃ?」
「馬鹿な! そんなものが存在するはずがない。これは脱獄の方便だな!」
「ふん…これは歴代の王のみが口伝えで受け継ぐ秘密じゃ。マサキに伝えるつもりだったが…叶わぬ夢となった。せっかくの知識を無駄にしたくない。脱獄? この状況で一人の老人に何ができる? わしの時代は終わったのじゃ。ただ…最後にひとつ、旨い飯が食いたいだけじゃ」
牢番はしばし考え、やがて頷いた。
「…分かった。だが手錠は外せぬ」
ほどなくして牢番が持ってきたのは質素な粥一碗。米だけの貧相なものだったが、何日もまともな食事を取れていないカズキには十分すぎるご馳走だった。
「すまぬが、手が動かん。食べさせてくれぬか」
「…わがままな野郎だ。ほら」牢番がスプーンで粥を口元に運ぶと、カズキは一粒一粒を噛みしめるように味わった。
小さな碗の粥などすぐに平らげた。
「ごちそうさまじゃ。満足した」
「なら、宝の在り処を言え」
「はっはっは! すまぬのう、それは嘘じゃ!」カズキは舌を出して嘲笑った。
「この野郎ッ!」
怒りに震える牢番は気付かない――自分が持っていたカズキの枷の鍵が、いつの間にか消えていたことを。
「カチャン!」
連鎖するように枷が外れていく音。
「わしが書いた本を見ておらんようじゃの、わしがの世界に召喚された時、授かったチートスキルは『万能スティール』…つまり盗み尽くす能力じゃ」故にカズキは盗賊としての全てを極めていた。鍵に触れさえすれば、瞬時に解錠できるほどに。
長い間、脱出の機会を伺っていたが、飢えで体力が衰えていた。脱走にはある程度の体力が必要――だからこそ、この芝居を打ったのだった。
「──これも借りるぜ。返済日は…永遠に無いがな」
気付けばカズキの手には、牢番の剣が握られていた。鞘から抜かれた刃が、薄暗い牢獄で鈍く光る。
「俺の剣が…!?」牢番が懐を探るが、そこには何もない。
「日輪一刀(にちりんいっとう)」
閃光。
風圧。
次の瞬間、牢番たちは崩れ落ちていた。カズキの放った斬撃は、肉眼で追える速度を超越していた。
「技も盗めるのがこのスキルの恐ろしいところよ。…はっ、レンはスキルなしでそれができるから、むしろこっちが恐れをなしたもんだ」
カズキは軽く剣を振り、血飛沫を落とす。幾多の修羅場をくぐり抜けてきた元勇者にとって、こんな状況は日常茶飯事でしかない。
「……さて、次はあの爺仲間たちを迎えにいくかのう」
「もういくつの部屋を探れば気が済むんだ...ここにもいないだろうが」
衛兵たちの監視のもと、"ユキナ"と名乗るセリナは中枢エリアをくまなく探索していた。彼女の手には消えないマーカーが握られ、また一つ壁に×印が刻まれる。
「おい!また落書きするな!」
「これは探すためのおまじないよ」セリナの声には一切の感情の揺らぎがない。「あの子はこの印で私の居場所がわかるの。呪いを早く解きたいでしょ?」
衛兵が喉をごくりと鳴らす。壁に刻まれた×印が、不気味に赤く輝いているように見えた。
「後で消せば問題ないわ」
セリナの冷たい指先が、次の部屋の扉に触れる。
「さあ、次に行きましょう。時間は...あまり残されてないよ」
何部屋も探索を重ねた後、セリナはついに中枢最深部の一室前に到達した。突然、周囲衛兵たちが彼女の進路を塞いだ。
「そこはダメだ! 絶対に入るな!」
特別な重装備をした兵士たちが守る重厚そうな扉だ。
「でも...あの子はこの中にいるかもしれない」
セリナの指先が扉に触れる寸前で止まる。
「たとえ中にいたとしても諦めろ」
衛兵長の声が震える。
「ここに入れば、呪いより先にクセリオス王の手で...皆殺しにされる」
一瞬の沈黙。
「...わかった」
セリナは静かに踵を返す。しかし──
(カチッ)
誰も気づかない死角で、マーカーの蓋が開く音。
「他を探そう」
そう言いながら、彼女は自然な動作で壁に◯印を残していった。
(◯印は二つ...これで任務完了でしょうか? でもまだ地下階層を確認してません。念のため──)
セリナの思考が途切れる。まさかこの王宮に、彼女の正体を知る人物がいるとは。
「勇者セリナ!!」
その声は、セルペンティナ滞在時──シエノの屋敷で共に働いた執事セバスのものだった。魔王も予想していなかった展開だ。
「聖剣戦略!私再改造!」瞬時セリナ天使化の判断を下し、マーカーを装備し聖剣へと変貌した。
「ッ!」
セリナの羽が光り、爆音と共に加速。
ガラスの破片が陽光を跳ね返し、廊下に冷たい光を散らした。
聖剣の残像が廊下の窓を次々と貫く。ガラスが爆散する間もなく、すでに次の窓へ──
「何をぼんやりしている! 捕まえろ!」
セバスの怒声で我に返った衛兵たちが追跡を開始する。
(ガラッ!)
割れるガラスの音が、魔王への合図となる。
(プランA失敗...プランBに移行)
空中で身を翻しながら、セリナは次の行動へと移った。窓から差し込む光が、彼女の天使化した姿を浮かび上がらせる。
*
(バキーン! ガシャーン!)
王宮中に響き渡るガラス割りの音。魔王が耳をピクッと動かす。
「...プランA失敗だ」
レンの眉に皺が寄る。「早すぎない? セリナ、無事か...」
「ふん…セリナがヘマするとは思えん。あの娘に知り合いがいたな。…まあ、万が一に備え、逃げ切る方法は教えておいた。◯印の魔力マーカーの印——四階の突き当りと、二階中央にあるか」
「二階のあの部屋は『王の座』だ。二人がそこに閉じ込められるはずがないだろう!」
「両方一度に見つけようとするのは甘かったか…まあ、四階にはおそらく王妃がいる。戦闘能力のない彼女なら、高い階に閉じ込めれば脱出は難しいだろう。君はそちらに向かえ。私はセリナと地下を探す。」
「了解。父上とセリナさんをお願い。」
「いや、案外二人とも私の助けなど必要ないかもしれん。何と言っても勇者だからな!」
*
地下牢に閉じ込められた元王・勇者のカズキ。重い手枷と足枷を付けられ、明日処刑されるというのに、その顔には微塵も恐怖の色が見えない。
「わしも明日で終わりじゃ。牢番の若いの、最後の願いじゃが、せめてうまいものを食わせてくれんか? あの世行きの前に、ひとつ良いものを腹に収めたいのじゃ」
「断る。クセリオス王の命により、貴様との接触は一切許されていない」
カズキはくすくす笑う。
「今のわしに何ができよう。明日になればこの命も尽きる…誰にも知られずに済むさ。クセリオスがあえてこんな薄暗い牢まで見に来ると思うか? そうだな…もしこの願いを叶えてくれたら、クセリオスも知らぬ王家の秘宝の在り処を教えてやろう。どうじゃ?」
「馬鹿な! そんなものが存在するはずがない。これは脱獄の方便だな!」
「ふん…これは歴代の王のみが口伝えで受け継ぐ秘密じゃ。マサキに伝えるつもりだったが…叶わぬ夢となった。せっかくの知識を無駄にしたくない。脱獄? この状況で一人の老人に何ができる? わしの時代は終わったのじゃ。ただ…最後にひとつ、旨い飯が食いたいだけじゃ」
牢番はしばし考え、やがて頷いた。
「…分かった。だが手錠は外せぬ」
ほどなくして牢番が持ってきたのは質素な粥一碗。米だけの貧相なものだったが、何日もまともな食事を取れていないカズキには十分すぎるご馳走だった。
「すまぬが、手が動かん。食べさせてくれぬか」
「…わがままな野郎だ。ほら」牢番がスプーンで粥を口元に運ぶと、カズキは一粒一粒を噛みしめるように味わった。
小さな碗の粥などすぐに平らげた。
「ごちそうさまじゃ。満足した」
「なら、宝の在り処を言え」
「はっはっは! すまぬのう、それは嘘じゃ!」カズキは舌を出して嘲笑った。
「この野郎ッ!」
怒りに震える牢番は気付かない――自分が持っていたカズキの枷の鍵が、いつの間にか消えていたことを。
「カチャン!」
連鎖するように枷が外れていく音。
「わしが書いた本を見ておらんようじゃの、わしがの世界に召喚された時、授かったチートスキルは『万能スティール』…つまり盗み尽くす能力じゃ」故にカズキは盗賊としての全てを極めていた。鍵に触れさえすれば、瞬時に解錠できるほどに。
長い間、脱出の機会を伺っていたが、飢えで体力が衰えていた。脱走にはある程度の体力が必要――だからこそ、この芝居を打ったのだった。
「──これも借りるぜ。返済日は…永遠に無いがな」
気付けばカズキの手には、牢番の剣が握られていた。鞘から抜かれた刃が、薄暗い牢獄で鈍く光る。
「俺の剣が…!?」牢番が懐を探るが、そこには何もない。
「日輪一刀(にちりんいっとう)」
閃光。
風圧。
次の瞬間、牢番たちは崩れ落ちていた。カズキの放った斬撃は、肉眼で追える速度を超越していた。
「技も盗めるのがこのスキルの恐ろしいところよ。…はっ、レンはスキルなしでそれができるから、むしろこっちが恐れをなしたもんだ」
カズキは軽く剣を振り、血飛沫を落とす。幾多の修羅場をくぐり抜けてきた元勇者にとって、こんな状況は日常茶飯事でしかない。
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