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大切な人
大切な人 第5話
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「茂斗の話だよ」
「! 忘れてた……」
苦笑交じりに僕の頬っぺたをなぞるように指を動かす虎君。
ああ。そうだ。今、僕は茂斗の不機嫌の理由を知りたがっていたんだった。
大事な双子の片割れを傷つけてしまったかもしれないって時に僕は自分の幸せに浸ってしまっていた。僕はなんて薄情な弟なんだろう……。
甘えたな僕は目に見えて落ち込んでしまう。これじゃ虎君が僕を優先するって分かっているのに。
「葵、そんな顔しないで……? 葵が悲しいと俺まで辛くなってくる……」
「うん……。ごめんなさい……」
顔を見せないように俯く僕の髪に落ちてくるキス。
僕は虎君にぎゅっと抱き着くと無言のまま甘えた。
「大丈夫。葵は家族想いの優しい子だよ」
「嘘だ……。そんなことないって分かったでしょ……」
本当に家族想いで優しい子なら、自分が傷つけた双子の兄のことをこんな一瞬で忘れたりしないはずだ。
僕を想っての優しい嘘は嬉しいけど、どう頑張っても嘘は嘘で真実じゃない。
落ち込む僕に虎君はもう一度キスを落とすと、言い聞かせるように「嘘じゃないよ」と繰り返してくれた。
「葵は優しいよ。……優しすぎるぐらいに優しくて俺はいつも心配してるんだからな?」
僕が傷ついてしまいそうで怖い。
そう呟く虎君。僕は、首を振って、僕こそ沢山の人を傷つけてしまっているとその言葉を受け取ることを拒否した。
でも―――。
「本当に薄情な奴なら、後悔なんてするわけないだろ? ……そうやって後悔して落ち込んでるってことは葵が優しい証拠だよ」
だから俺の言葉を信じて?
虎君にそんな風に言われたら、信じないとは言い辛い。
自分の弱さと甘さを痛感しながらも小さな声で分かったと頷く僕。虎君はもう一度髪にキスを落とすと、茂斗の話をしようと僕を促した。
「葵は茂斗と凪ちゃんが付き合ってるって思ってるんだよな?」
「付き合ってるんだから当然でしょ?」
なんでそんな当たり前のことを確認してくるんだろう? って僕は当然の疑問を抱く。
でも疑問を抱いてすぐに、虎君が分かり切っていることをわざわざ尋ねたりするだろうかと自分に問いかけ、浮かび上がったある可能性に『まさか』と思いながらも顔を上げた。
「もしかして、茂斗と凪ちゃん、付き合ってないの……?」
嘘だよね? と思いながら尋ねたら、虎君から返ってくるのは苦笑い。
それは僕の問いかけに対する肯定を意味していた。
「嘘、だ……。だって、二人、凄く仲良しじゃないっ」
「うん。仲が良いよな。茂斗は凪ちゃんのことを本当に大事にしてるし、凪ちゃんも茂斗のことを凄く信頼してるし」
僕のことからかってるんでしょ? ねぇ、そうだよね?
そんな僕の願いは届かず、虎君が見せるのは悲しそうな笑い顔。その笑顔に、心臓が締め付けられる……。
「俺と茂斗は似てるんだ。自分にとって唯一の人に愛されたくて必死なくせに肝心なところでどうしようもないほど臆病なところとか特にそっくりだと思う」
ぎゅっと僕を抱きしめてくる虎君は、何を考えているんだろう……。
(虎君、僕は此処にいるよ……? ちゃんと虎君のこと大好きだよ……)
虎君が僕を想ってくれていた年月のほとんどを、僕はその想いを知らずに『弟』として過ごしていた。
今思えば虎君からハッキリとした言葉はなくとも、ずっと愛されていると分かる態度は沢山もらっていたと思う。
当時の僕はそれに全く気付かなくて、無意識とはいえ虎君を沢山傷つけていただろう……。
「俺も茂斗も、どうしても自分から想いを伝えることができなかった。自分から想いを伝えてしまったら、葵は―――、葵と凪ちゃんは、俺達に同じ想いを返そうって努力してくれるだろうから……」
「虎君……」
「でも、それじゃダメなんだ。もし俺達の想いを伝えて葵達が想いを返してくれたとしても、俺も茂斗もその『想い』を葵達の意志だと信じることができない。きっとずっと『俺が言ったから』って疑念を捨てることができない。たとえそれが二人の本心だとしても、それでも―――」
僕を抱きしめる腕に力が籠る。
昔のことを思い出しているのだろうその様子に、僕は『ここにいるよ』と伝えるために同じように強く虎君に抱き着いた。
「俺は、俺の安心のために葵をずっとだましていたんだ……。兄貴面して、ずっと葵が欲しいと思っていたんだ……」
小さな声で「ごめん」と謝る虎君。
僕はその言葉に謝らないでと首を振った。虎君は何も悪くない。と。僕が虎君ならきっと同じことをしていたと思う。と。
「僕、嬉しいよ? 虎君、今、安心できてるってことだよね? 僕の気持ち、ちゃんと僕の意志だって信じてくれてるんだよね?」
「! ああ。信じてるよ。葵の想いはちゃんと届いてる。大丈夫、俺は今とても幸せだよ」
穏やかな笑顔の中に、ほんの少しだけ辛そうな表情が浮かんでいるのは僕の気のせいじゃないだろう。
でもこれはきっと過去のせいだと信じることができるから、虎君が僕を想ってくれる以上に虎君を大切にしようと決意を新たにその頬にチュッとキスをした。
「! 忘れてた……」
苦笑交じりに僕の頬っぺたをなぞるように指を動かす虎君。
ああ。そうだ。今、僕は茂斗の不機嫌の理由を知りたがっていたんだった。
大事な双子の片割れを傷つけてしまったかもしれないって時に僕は自分の幸せに浸ってしまっていた。僕はなんて薄情な弟なんだろう……。
甘えたな僕は目に見えて落ち込んでしまう。これじゃ虎君が僕を優先するって分かっているのに。
「葵、そんな顔しないで……? 葵が悲しいと俺まで辛くなってくる……」
「うん……。ごめんなさい……」
顔を見せないように俯く僕の髪に落ちてくるキス。
僕は虎君にぎゅっと抱き着くと無言のまま甘えた。
「大丈夫。葵は家族想いの優しい子だよ」
「嘘だ……。そんなことないって分かったでしょ……」
本当に家族想いで優しい子なら、自分が傷つけた双子の兄のことをこんな一瞬で忘れたりしないはずだ。
僕を想っての優しい嘘は嬉しいけど、どう頑張っても嘘は嘘で真実じゃない。
落ち込む僕に虎君はもう一度キスを落とすと、言い聞かせるように「嘘じゃないよ」と繰り返してくれた。
「葵は優しいよ。……優しすぎるぐらいに優しくて俺はいつも心配してるんだからな?」
僕が傷ついてしまいそうで怖い。
そう呟く虎君。僕は、首を振って、僕こそ沢山の人を傷つけてしまっているとその言葉を受け取ることを拒否した。
でも―――。
「本当に薄情な奴なら、後悔なんてするわけないだろ? ……そうやって後悔して落ち込んでるってことは葵が優しい証拠だよ」
だから俺の言葉を信じて?
虎君にそんな風に言われたら、信じないとは言い辛い。
自分の弱さと甘さを痛感しながらも小さな声で分かったと頷く僕。虎君はもう一度髪にキスを落とすと、茂斗の話をしようと僕を促した。
「葵は茂斗と凪ちゃんが付き合ってるって思ってるんだよな?」
「付き合ってるんだから当然でしょ?」
なんでそんな当たり前のことを確認してくるんだろう? って僕は当然の疑問を抱く。
でも疑問を抱いてすぐに、虎君が分かり切っていることをわざわざ尋ねたりするだろうかと自分に問いかけ、浮かび上がったある可能性に『まさか』と思いながらも顔を上げた。
「もしかして、茂斗と凪ちゃん、付き合ってないの……?」
嘘だよね? と思いながら尋ねたら、虎君から返ってくるのは苦笑い。
それは僕の問いかけに対する肯定を意味していた。
「嘘、だ……。だって、二人、凄く仲良しじゃないっ」
「うん。仲が良いよな。茂斗は凪ちゃんのことを本当に大事にしてるし、凪ちゃんも茂斗のことを凄く信頼してるし」
僕のことからかってるんでしょ? ねぇ、そうだよね?
そんな僕の願いは届かず、虎君が見せるのは悲しそうな笑い顔。その笑顔に、心臓が締め付けられる……。
「俺と茂斗は似てるんだ。自分にとって唯一の人に愛されたくて必死なくせに肝心なところでどうしようもないほど臆病なところとか特にそっくりだと思う」
ぎゅっと僕を抱きしめてくる虎君は、何を考えているんだろう……。
(虎君、僕は此処にいるよ……? ちゃんと虎君のこと大好きだよ……)
虎君が僕を想ってくれていた年月のほとんどを、僕はその想いを知らずに『弟』として過ごしていた。
今思えば虎君からハッキリとした言葉はなくとも、ずっと愛されていると分かる態度は沢山もらっていたと思う。
当時の僕はそれに全く気付かなくて、無意識とはいえ虎君を沢山傷つけていただろう……。
「俺も茂斗も、どうしても自分から想いを伝えることができなかった。自分から想いを伝えてしまったら、葵は―――、葵と凪ちゃんは、俺達に同じ想いを返そうって努力してくれるだろうから……」
「虎君……」
「でも、それじゃダメなんだ。もし俺達の想いを伝えて葵達が想いを返してくれたとしても、俺も茂斗もその『想い』を葵達の意志だと信じることができない。きっとずっと『俺が言ったから』って疑念を捨てることができない。たとえそれが二人の本心だとしても、それでも―――」
僕を抱きしめる腕に力が籠る。
昔のことを思い出しているのだろうその様子に、僕は『ここにいるよ』と伝えるために同じように強く虎君に抱き着いた。
「俺は、俺の安心のために葵をずっとだましていたんだ……。兄貴面して、ずっと葵が欲しいと思っていたんだ……」
小さな声で「ごめん」と謝る虎君。
僕はその言葉に謝らないでと首を振った。虎君は何も悪くない。と。僕が虎君ならきっと同じことをしていたと思う。と。
「僕、嬉しいよ? 虎君、今、安心できてるってことだよね? 僕の気持ち、ちゃんと僕の意志だって信じてくれてるんだよね?」
「! ああ。信じてるよ。葵の想いはちゃんと届いてる。大丈夫、俺は今とても幸せだよ」
穏やかな笑顔の中に、ほんの少しだけ辛そうな表情が浮かんでいるのは僕の気のせいじゃないだろう。
でもこれはきっと過去のせいだと信じることができるから、虎君が僕を想ってくれる以上に虎君を大切にしようと決意を新たにその頬にチュッとキスをした。
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