特別な人

鏡由良

文字の大きさ
253 / 552
大切な人

大切な人 第4話

しおりを挟む
「葵、落ち着いて?」
「でも……」
「茂斗を追いかける前に、まず俺の話を聞いてくれる?」
 追いかけるかどうか、その後に決めて欲しい。
 そう僕に言い聞かせる虎君の口調は、茂斗の異変の理由を全て知っているかのようだった。
 僕は逸る気持ちをグッと堪えて虎君を見つめて双子の片割れの異変はいったい何が原因なのか教えて欲しいと願った。
「茂斗の不機嫌の理由を説明するには、まず葵の勘違いを訂正しないとダメなんだ」
「僕の『勘違い』って?」
「茂斗は凪ちゃんのことを本当に大切に想ってるし大事にしてるし、なんなら俺に張り合う位愛してるって豪語してるんだけど―――」
「ちょ、ちょっと待って! 虎君に張り合う位愛してるって、何? 虎君、僕だけって言ってくれてるのにっ!?」
 大人しく話を聞こうと思ってたけど、聞き捨てならない言葉が出てきたら茂斗の不機嫌の理由を知るよりもそっちに僕は食いついてしまう。僕だけを愛してるって言葉は嘘だったの!? と。
 すると虎君は苦笑交じりに「違う違う」って暴走する僕を宥めるように騒ぐ僕の唇に指を添えてきた。
「俺の葵への想いと同じかそれ以上に茂斗は凪ちゃんを愛してるって言ってたってことだよ」
「! 本当に?」
「本当に。……まぁ、俺の方が圧倒的に愛してるんだけどな」
 虎君は勘違いしすぎだと笑って僕の鼻の頭にキスをすると、「葵のためなら死んでもいいよ」なんて囁いてくる。
 優しい声だったけど冗談とは思えない雰囲気。
 僕は虎君の愛に込み上がる愛しさを必死に押し殺して、死ぬなんて言わないでって愛の言葉を受け取ることを拒否した。
(だって虎君が死んじゃったら、僕、絶対におかしくなっちゃうもん)
 もし虎君が居なくなってしまったら、僕は大切な家族を置いて後を追いかけてしまいそうだ。
 そんなの全然幸せじゃないしハッピーエンドとは程遠い終わり方だから、絶対に嫌だと虎君にしがみついた。
「僕の事、一人にしちゃヤダ……」
「! 葵……」
「虎君は僕とずっと一緒にいて、いっぱい笑っていっぱい幸せになって、それで、最後は一緒におじいちゃんになってずっと幸せだったねって言いながら二人で眠るように死ぬの!」
 それ以外で死ぬのは絶対ダメだからね!
 想像してしまった虎君のいない世界が怖くて、僕は自分が今できる精一杯の幸せな人生を口にする。
 でも、それでもやっぱり一度覚えた恐怖はなかなか払拭されなくて……。
「二人で一緒に?」
「そうだよっ! 嫌なの!?」
「嫌なわけないだろ? 俺もそうであって欲しいって思ってるよ? でも、流石に一緒に老衰は難しいんじゃないかなぁ……。俺の方が5歳も年上だし、めちゃくちゃ健康に気を使ってもやっぱり俺の方が先に―――」
「僕の事置いて死んだら、僕、他の人の事好きになるよ!? それでもいいの!?」
 もう! こういう時に現実的な話しないでよ!
 ちょっぴりデリカシーに欠ける返答に怒ってついできないことを口にしてしまう僕。
 けど、僕の言葉もデリカシーに欠けたものだったから、虎君は笑顔を真顔に戻して「葵」って僕を呼んできた。
 怒っているようなその表情に、僕は言い過ぎたと焦る。
 でも、でも付き合い始めてまだ2カ月のラブラブな時期に別れの話をされたら僕だって対抗したくなるってもので、そんなに怒らないで欲しいってついつい思ってしまう。
「俺がずっと傍にいたら、葵は他の誰も好きにならないか? 俺だけをずっと好きでいてくれるか?」
 怒りのオーラが見えそうな虎君に怯えていた僕の耳に届くのは、そんな問いかけ。
 ジッと僕を見据え問いただしてくる声には抑揚がない。でも、尋ねられた内容は威圧するどころか縋るような頼りないもので、虎君は怒ってるわけじゃなくて不安になっているんだと理解できた。
 僕は虎君の頬っぺたをぺちっと両手で叩くと、さっきの言葉は嘘だと告げた。
「虎君だけだよ。虎君が居なくなっても、僕にはずっと虎君だけだよ。……だから、僕を残して死ぬとか絶対言わないで。僕のこと幸せにしたいって思ってくれてるなら、何が何でも僕の傍にいてね?」
 冗談でも一人で死ぬとか考えて欲しくない。それがたとえ僕のためであっても、僕はそれを望んではいないから。
「ごめん、葵……」
「今度からは、僕のために『永遠に生きてやる』って言ってね?」
「! 分かった。約束する」
 僕の言葉に愛しげに笑う虎君は、目尻にチュッと口付けてくる。
 どうやら僕はまた泣きそうになっていたようだ。
 感極まった心に虎君の笑顔は堪らなく愛しくて、ぎゅーって抱き着く僕。
 すると虎君は僕を優しく抱きしめ返してくれて、本当に幸せ過ぎてちょっとだけ怖くなった。
「……続きはどうする?」
「『続き』……?」
 僅かとはいえ覚えた恐怖に虎君にしがみつく腕には力が籠ってしまった。
 それを虎君は気づいたからか、僕の背をあやす様に叩きながら、それてももういい? と尋ねてきた。
 でも僕はそれが何に対する質問なのか分からなくて、何の話? と虎君を見上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...