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初めての人
初めての人 第3話
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リビングへのドアを開ければ、オープンキッチンで料理をしている虎君の姿が目に入った。
虎君はすぐに僕に気が付き、もうすぐできるから座って待っててと笑いかけてくれる。
言われるがまま四人掛けのテーブルにつけば、程なくして運ばれてくる朝食。
スクランブルエッグとベーコンとソーセージ。それにサラダが盛り付けられたプレートの隣には食べやすいサイズに切られたサンドイッチとヨーグルトが並んで、ミルクとオレンジジュースが注がれたグラスと合わせれば完璧な朝食がセッティングされる。
「いただきます!」
「どうぞ召し上がれ」
美味しそう! とはしゃぐ僕に、向かいの椅子に座る虎君は優しく笑って自分用に淹れたコーヒーを口を付けた。
虎君が大人の男の人だってことはちゃんと分かってるつもりだけど、こういう不意の仕草に改めてカッコいいと思い憧れた。
「……どうした? 口に合わない?」
「! ううん。そんなことないよ! 凄く美味しい!」
ただ虎君に見惚れていただけ。とは流石に恥ずかしくて言えなかった。
付き合ってもう何カ月もたっているのに今更こんな風に惚れ直すなんて、僕って本当、虎君のことが好き過ぎる。
正直に伝えればきっと虎君は喜んでくれるとは思うんだけど、毎日毎日同じことを言い続けたら言葉が嘘っぽくなって嫌だから秘密にしておこう。
「ならよかった。あ、トマトとキュウリ、残しちゃダメだぞ?」
「ちゃんと食べるもん!」
子ども扱いしないでよ! って僕がほっぺたを膨らませて見せれば、大人になっても食べない人はいるからな? って片眉を下げて笑う虎君。
僕は虎君に態度で示すようにちょっぴり苦手なトマトとキュウリを口に運んで食べて見せた。
ドレッシングがかけられているとはいえ、生野菜の独特の青臭い風味が口の中に広がってちょっぴり辛い。
それでも何とか飲み込めば、偉い偉いと褒められた。
「昔は絶対食べないって泣いて逃げてたのに」
「もう! それは初等部に入る前の話でしょ! あれからもう10年以上経ってるんだから当然でしょ?」
「でも茂斗はこの前樹里斗さんが作ったミネストローネを俺に食わせたぞ?」
「嘘! 茂斗そんなズルしてたの!?」
母さんが最近作ったミネストローネはトマトの風味がいつも以上に残っていて、その味が苦手な僕は物凄く苦労して完食した。
それなのに同じくトマトの風味が苦手な茂斗は食べずにやり過ごしていたなんて、卑怯だと思ってしまうのは仕方ない。そしてその方法に虎君を巻き込んだなんて、違う意味でもムッとしてしまうというものだ。
「僕は頑張って食べたのに」
「ああ、葵は偉かったよ。俺が作ったものも残さず食べてくれるしな」
苦手な食材も使ってるのに。
そう言って僕を褒めてくれる虎君。でも、僕はちゃんと知ってるんだからね?
(『好き嫌いはダメ』って言うけど、僕が本当に食べられない物は絶対出さないよね?)
そういうところからも感じる、虎君の愛。
僕は心を満たす幸せな気持ちに「虎君のご飯は全部おいしいもん」と笑顔を向けた。
「虎君はなんでもできて凄いよね」
「『なんでも』は言い過ぎだよ」
「言い過ぎじゃないよ。料理だけじゃなくて掃除もできるじゃない」
「それは一人暮らしをしてるからだよ。必要に駆られてそれなりにできるようになっただけ」
「そうやって自分が凄いってこと自覚してないところも凄いなぁって思うよ? 優しくて思いやりがあって、それでいて謙虚だなんて。こういうの何て言うんだっけ? 人格者?」
すべてにおいて虎君は完璧だよ?
そう至極真面目に伝えれば、虎君は苦笑を漏らす。それは葵限定だよ。と。
「えぇ? こう思ってるのは僕だけじゃないと思うよ?」
「そうじゃなくて、今葵が言ってくれた俺は、葵にしか見せない俺だってこと」
「! えっ」
「誰だって大切な人には優しくしたいし、大事にしたいって思うだろ? 正直、葵以外に対して俺は冷たい奴だと思うよ。自分でもな」
でも葵以外本気でどうでもいいから円滑な人間関係のためでも他人に愛想よくする気になれない。
そう言葉を続けた虎君は、「全然『謙虚』じゃないだろ?」と笑って見せる。
「きっと他の連中が聞いたら『人格者じゃなくて人格破綻者だ』って言うと思うぞ」
「そ、そんなことないっ!」
「俺は葵がそう言ってくれるだけで十分だよ」
虎君は僕の否定の言葉に愛しげに笑みを浮かべ、幸せだと言ってくれる。葵がいれば他に何もいらない。何て言いながら……。
「でも、……でも僕は僕の好きな人を誤解して欲しくないよ……」
「葵……。なら、俺は他の人にも優しくした方が良い?」
虎君はこんなに優しいのに、他の人がそんな虎君を誤解しているなんてやっぱり嫌だ。
でも、虎君の優しさをみんなに知って欲しいと思っているのに、投げかけられた虎君の質問には『他の人にも優しくして』と頷くことはできなかった。
虎君はすぐに僕に気が付き、もうすぐできるから座って待っててと笑いかけてくれる。
言われるがまま四人掛けのテーブルにつけば、程なくして運ばれてくる朝食。
スクランブルエッグとベーコンとソーセージ。それにサラダが盛り付けられたプレートの隣には食べやすいサイズに切られたサンドイッチとヨーグルトが並んで、ミルクとオレンジジュースが注がれたグラスと合わせれば完璧な朝食がセッティングされる。
「いただきます!」
「どうぞ召し上がれ」
美味しそう! とはしゃぐ僕に、向かいの椅子に座る虎君は優しく笑って自分用に淹れたコーヒーを口を付けた。
虎君が大人の男の人だってことはちゃんと分かってるつもりだけど、こういう不意の仕草に改めてカッコいいと思い憧れた。
「……どうした? 口に合わない?」
「! ううん。そんなことないよ! 凄く美味しい!」
ただ虎君に見惚れていただけ。とは流石に恥ずかしくて言えなかった。
付き合ってもう何カ月もたっているのに今更こんな風に惚れ直すなんて、僕って本当、虎君のことが好き過ぎる。
正直に伝えればきっと虎君は喜んでくれるとは思うんだけど、毎日毎日同じことを言い続けたら言葉が嘘っぽくなって嫌だから秘密にしておこう。
「ならよかった。あ、トマトとキュウリ、残しちゃダメだぞ?」
「ちゃんと食べるもん!」
子ども扱いしないでよ! って僕がほっぺたを膨らませて見せれば、大人になっても食べない人はいるからな? って片眉を下げて笑う虎君。
僕は虎君に態度で示すようにちょっぴり苦手なトマトとキュウリを口に運んで食べて見せた。
ドレッシングがかけられているとはいえ、生野菜の独特の青臭い風味が口の中に広がってちょっぴり辛い。
それでも何とか飲み込めば、偉い偉いと褒められた。
「昔は絶対食べないって泣いて逃げてたのに」
「もう! それは初等部に入る前の話でしょ! あれからもう10年以上経ってるんだから当然でしょ?」
「でも茂斗はこの前樹里斗さんが作ったミネストローネを俺に食わせたぞ?」
「嘘! 茂斗そんなズルしてたの!?」
母さんが最近作ったミネストローネはトマトの風味がいつも以上に残っていて、その味が苦手な僕は物凄く苦労して完食した。
それなのに同じくトマトの風味が苦手な茂斗は食べずにやり過ごしていたなんて、卑怯だと思ってしまうのは仕方ない。そしてその方法に虎君を巻き込んだなんて、違う意味でもムッとしてしまうというものだ。
「僕は頑張って食べたのに」
「ああ、葵は偉かったよ。俺が作ったものも残さず食べてくれるしな」
苦手な食材も使ってるのに。
そう言って僕を褒めてくれる虎君。でも、僕はちゃんと知ってるんだからね?
(『好き嫌いはダメ』って言うけど、僕が本当に食べられない物は絶対出さないよね?)
そういうところからも感じる、虎君の愛。
僕は心を満たす幸せな気持ちに「虎君のご飯は全部おいしいもん」と笑顔を向けた。
「虎君はなんでもできて凄いよね」
「『なんでも』は言い過ぎだよ」
「言い過ぎじゃないよ。料理だけじゃなくて掃除もできるじゃない」
「それは一人暮らしをしてるからだよ。必要に駆られてそれなりにできるようになっただけ」
「そうやって自分が凄いってこと自覚してないところも凄いなぁって思うよ? 優しくて思いやりがあって、それでいて謙虚だなんて。こういうの何て言うんだっけ? 人格者?」
すべてにおいて虎君は完璧だよ?
そう至極真面目に伝えれば、虎君は苦笑を漏らす。それは葵限定だよ。と。
「えぇ? こう思ってるのは僕だけじゃないと思うよ?」
「そうじゃなくて、今葵が言ってくれた俺は、葵にしか見せない俺だってこと」
「! えっ」
「誰だって大切な人には優しくしたいし、大事にしたいって思うだろ? 正直、葵以外に対して俺は冷たい奴だと思うよ。自分でもな」
でも葵以外本気でどうでもいいから円滑な人間関係のためでも他人に愛想よくする気になれない。
そう言葉を続けた虎君は、「全然『謙虚』じゃないだろ?」と笑って見せる。
「きっと他の連中が聞いたら『人格者じゃなくて人格破綻者だ』って言うと思うぞ」
「そ、そんなことないっ!」
「俺は葵がそう言ってくれるだけで十分だよ」
虎君は僕の否定の言葉に愛しげに笑みを浮かべ、幸せだと言ってくれる。葵がいれば他に何もいらない。何て言いながら……。
「でも、……でも僕は僕の好きな人を誤解して欲しくないよ……」
「葵……。なら、俺は他の人にも優しくした方が良い?」
虎君はこんなに優しいのに、他の人がそんな虎君を誤解しているなんてやっぱり嫌だ。
でも、虎君の優しさをみんなに知って欲しいと思っているのに、投げかけられた虎君の質問には『他の人にも優しくして』と頷くことはできなかった。
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