運命を知らないアルファ

riiko

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本編

28、運命なんかに奪わせない

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 正樹も入江の隣にいるオメガ女も、俺と入江が顔見知りのような関係なのを見て、きょとんとしている。

 入江は彼女を小脇に抱き寄せ俺に牽制するかのように、彼女は自分のものだと見せつけ、正樹に説明をした。そんな女ひとかけらも興味がない。

「僕、執筆活動とか打ち合わせで彼のお家のホテルよく使うんだよ。それで何度か見かけたことがあるから」
「正樹、こいつはアルファだ、お前が会うべき人種じゃない。こんな年上が好みなのか?」

 入江は不敵に笑っている。正樹は何をそんなに赤い顔して恥ずかしがっているんだ?

「ってか、お前もアルファだろ、失礼なこと言うな! そして勘違いするな。入江さん、本当にすいません」
「いや、アルファらしいアルファだったんだね、西条君のことは噂でしか聞いたことなかったけど、随分噂と違うみたいだ。西条君、僕は彼女のつがいなんだ。今日は彼女の友達を紹介してもらっただけだよ。アルファならつがいの全てを知っておきたいからね、変な勘違いをさせて悪かったよ」

 正樹が説明する姿、ほんと可愛いな。

 旦那の言葉を正す妻、そして旦那の代わりに相手に謝るなんて、なんてできた嫁なんだ! 俺はもう新婚生活が目に浮かぶようで嬉しくなった、正樹になら尻に敷かれたい。

 ふと正樹が振り返って、俺をじっと見つめてきた。えっ、なになに? 早く二人きりになりたいっていうサインですか? 俺の気持ちが急上昇して思わず笑みがこぼれてしまった。そうとなれば、早く正樹と二人きりにならなくちゃ! 待たせてごめんね、正樹。

「それならもう済んだだろう、俺たちもこれで失礼する」
「ああ、じゃあ」

 入江はその女と退散しようとしていたが、女は正樹になにやらコソコソと話をしている。クソっ、オメガだろうとつがいがいようと、異性が正樹に近づくのは気分が悪かった。正樹もまんざらではなさそうな顔をしているのが、気に食わない。

 正樹を引き離すように、連れ去り車に乗せた。

 最近の俺は、どうも正樹をいろんな奴から引き離すことしかしていない。というか正樹はなんだ! アルファホイホイなのか? 見目のいい男ばかりが正樹に近づく。少しも油断できない。

 先程は正樹の友達という、オメガ女性のつがいを紹介されていたところだったらしい。

 あの入江が? まさかあの男があんな低俗な運命のつがいとやらにひっかかるとは、世も末だ。あいつも俺と同じでオメガは相手にしていなかったはず。聞けば二人は出会ったばかりで結ばれ、おとぎ話みたいだと正樹は言った。

「まさか……運命とか言わないよな?」
「だったら何なの? それこそ素敵じゃないか」

 正樹はオメガらしくないくせに、あの二人を運命だと羨ましそうな目で話した。

 そんな……正樹は運命を待っているのか!? 

 ダメだダメだ‼ そんなぽっと出の奴に、フェロモンしか感知しないようなアルファに正樹を奪われてたまるか!

「素敵なわけあるか! 匂いに反応して相手のことを知らず獣のように性欲に溺れる。運命でつがいになるなんて、俺が一番嫌う行為だ」
「えっ」
「俺は幼い頃からオメガどもからあの臭い匂いを嗅がされてきた。自分こそが運命だと言い張って、発情誘発剤でプンプン匂わせたやつらのやることを俺は軽蔑する」
「それはそうかもしれないけど。でも、そんな打算的なものじゃなくて、彼らは本物の運命のつがいだよ? アルファやオメガの憧れじゃないの?」

 違う! 俺はそんな理由で正樹を他のアルファに奪われたくない。二人築き上げた時間が全てであって、ただ出会っただけの運命なんかが、俺たちに入り込めるなんて有り得ない‼ これから先、正樹は誰にも渡さない。

「そうは思わない。もし俺の前に運命が現れたなら、他のアルファを宛がい俺以外とつがいにさせる」

 俺は運命なんかには惹かれない、一生正樹だけという想いを込めて、もしも俺の前に運命のオメガが現れても、すぐに他のアルファをあてがう。だから俺が正樹より運命を取ることは絶対に無い、そう安心させる為に言った。

 俺は正樹を愛してしまった為に、今まで考えたことの無いような、運命のアルファに取られるかもしれないという不安が生まれた。
 
「正樹? 青い顔して、どした。気分悪いのか」
「へっ」
「大丈夫だ、正樹以外のオメガなんか、たとえ運命だろうとも俺はつがいにすることないよ。俺には正樹だけだから安心して」

 正樹の手が震えている? オメガの正樹なら、俺よりももっと不安になっているかもしれない、安心して欲しかった。それほど、俺は正樹しか考えられないと伝えたかったんだ。

「あっ、だ……いじょうぶ。ちょっと車に酔ったみたい、外出てもいい?」
「ああ、すぐに止めさせるから」

 車に酔った? 心配で俺も一緒に車を降りた。

「司、ありがとう。もう大丈夫、ここからなら近いし、ひとりで帰る」
「いや、家まで歩いて送るから」
「ううん、大丈夫っ」
「でも、そんな真っ青になって危ないから、すぐそこだろ、俺に掴まれ」
「……」


 無事に家に送り届けた正樹は、運命の話をしてから何かを考えこんでいる様子だった。そんな顔をしたのは少し気になった。
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