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本編
32、温泉
しおりを挟む車で到着した先は、リゾート地にあるうちのホテル系列の温泉施設だった。
公人たちもお忍びで利用する、いわゆる普通の人間では使うことができない場所。誰にも邪魔されないような作りで、一般の人は敷地内にも入ることはできないし、ドローンだって入れない。
「正樹お疲れ様。ついたよ、まずは部屋に行ってゆっくりしようね。温泉もあるし、のんびりしようか」
「え! すげ――な、温泉あるのか?」
さっきまできょどきょどと不安な顔いっぱいだったのに、クソ可愛いな。温泉の一言に正樹の顔が明るくなった。
「好きなの?」
「ああ! 俺でかい風呂にゆっくり浸かるのが好きなんだ。だから、たまに銭湯に行くんだ! 露天風呂とかもいいよな」
正樹がルンルンの顔を隠さずに俺に向かって笑う。好きだって調査しておいて本当に良かった。百合子さんにお礼をしなければな。
「銭湯に? それは危ないな。今度からは……まぁ、今はいい。ここでは正樹の体を他の人に見せられないから、大浴場は連れていけないよ。部屋に露天ついているからそこで我慢してね?」
ベータよりの生き方をしていた正樹は、人に裸を見せることに羞恥はないのか? 銭湯って、一般人がうようよいる場所だろう? これからはそんなところには一人で行かせられない。
「おう! 部屋にもあるのか? すげっ」
温泉にテンションが上がっている正樹は、さっきまでの不機嫌を忘れているみたいだ。車の中で俺はずっと説教をされていたからな、授業を気安くサボるなとか、人を勝手に抱きかかえるなとか、なんだかワーワー言っていたが、結局怒った顔も可愛いしかなかった。俺はそれなりに正樹を満喫したから問題ないが、やはり機嫌がいい方がもっと可愛いな。
そして部屋付きの露天風呂に入る。
「こらっ、触るなっ、お湯が汚れるだろ」
「お湯が汚れるのは堪え性がない正樹が悪いんだろ、裸で好きな子がいるのに触らない男はいない」
もう俺のモノは既に固くなってしまった。正樹の裸を見てそうならない方がおかしいだろう。
「ちょっと、風呂くらいゆっくり浸からせろよ! 俺は温泉楽しみたいの」
「俺は正樹を楽しみたい」
「はいはい。わかったから、風呂ではやめろ。のぼせるだろ! お前いつもピリピリしているから、そんなにすぐ怒るんだよ、温泉でお前の心も解かせ」
「怒らせる正樹が悪いと思うんだけどな、まあいっか。結局正樹はこうやって俺を受け入れているし」
正樹はさっきからにこにこだ。
「ふはぁ、きもちいいな。昼間っから風呂入れるなんて最高! しかも外の空気吸いながら。強引だったけど連れてきてくれてありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
後ろから正樹を抱えた。
そして、風呂を出たら食事をして、正樹との会話を楽しんだ。一緒にいるだけで楽しいのに、会話まで正樹は楽しい。とにかく、俺は一生分の幸せを見つけてしまった。
食事も終わったし、もういいだろう? 終始可愛い正樹を見て俺は欲望を抑えていたのだから。
「ん? なんだよっ、ってか俺腹一杯でもう動けない、少し休んでもいい?」
「じゃ、ベッドに移動しようっ」
「ちょっと!! そういう意味じゃない、ってかまたっ、気軽に俺を抱き上げるな!」
「だって、もう動けないんだろ? 自分でそう言ったじゃないか、ほら俺に任せてればいいからっ」
「うぅぅぅ!! いつもいつもいつも」
なんだかんだ言いながらも、正樹は快楽に弱くとっても喜んでいた。最近思うんだけど、正樹チョロすぎやしないか? この先早く正樹を手に入れなければ、心配でハゲる。
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