回帰したシリルの見る夢は

riiko

文字の大きさ
37 / 54
番外編

幸せに包まれた世界

しおりを挟む
 僕たちがつがい契約をして本当の意味で結ばれたあと、王都を離れることなく過ごしていた。そして結婚して一年が過ぎた頃、若き王太子夫妻として王都から離れた場所への公務があった。
 せっかくの遠出だから二人でのんびりしてきなさいとお義父様から言われ、公務のあとは遠慮なく遅めのハネムーンへと来た。
 ここは王都から離れた地にある、王族が休暇で利用する城。

「うわぁ、すごく綺麗だね。湖がまるで鏡みたい!」
「あぁ、ここは月の光でもっと幻想的になるよ。夜の散歩も一緒に来よう」

 寝室のバルコニーからは、とても美しい景色が広がっていた。沢山の緑と湖、整備された庭園。こんなところに来たら、帰りたくなくなっちゃうな。

「フラン、こんな素敵なところまで連れてきてくれてありがとう、大好きっ!」
「シリルは嫁いでからとても頑張ってくれて、お礼をしなければと思っていたんだ。ここでは好きなだけゆっくりして、日頃の仕事は忘れるといい」
「フランこそ、いつもお疲れ様です。フランも目一杯休んでね」

 二人で微笑み合うと、いつの間にか口づけが始まる。どちらからともなく、お互いの身体に触れ、そしてベッドへと歩きだし愛を交わした。
 到着して二人が燃え上がることを周りはわかっていたようで、この城で待ち構えていた出来の良い従者たちはすぐに部屋に案内してくれた。そして情事が終わる頃、控えめに部屋に軽食が運ばれてきた。
 翌日は寝室に篭ることなく、朝から二人で城の周りを散策する。安全な場所とはいえ、ここは王宮内ではないので、従者も騎士も引き連れて歩くことになる。その時、ふと城門に知っている顔を見た。

「あれ? あなたは……リーグ卿?」
「妃殿下、お久しぶりでございます。覚えていていただき光栄でございます」
「どうして、ここに?」
「お二人のご成婚後、配置移動になりこの地に赴任しました」

 驚いた。リーグはアシュリー断罪後、こんなところにいたなんて……

「リーグ、久しいな。元気そうでなによりだ。この地はどうだ?」
「殿下。希望場所への配置ありがとうございました。毎日楽しく暮らしております。ここは高位貴族の方たちの保養地としても人気なので、王都ほどではないにしても騎士としての仕事は飽きることなくあり、毎日充実しております」
「それは良かった。この土地は王族にも大切な場所だ。安全に守りを固めてくれているのがよくわかる。感謝している」

 久しぶりに見るリーグは穏やかな顔をしていた。
 僕が学園で見る時は、いつもアシュリーの行動にハラハラしている姿ばかりだったけれど、本来リーグがしたいことを今はさせてもらえているのかな? 
 あの時のリーグは、アシュリーの断罪に加担したんだよね? フランからの命令だといえ、聞いた時は凄く驚いた。

「リーグ、お前が望んだから王太子直属の騎士を辞したが、できればお前には王都に戻ってほしいと思っている。いつかは私のもとに帰ってくる気はないか?」
「はい。その……お恥ずかしながら、殿下にも、もしかしたら妃殿下やリアム様にも知られていたかもしれませんが、私はアシュリー様をお慕いしておりました。あの方は既にリアム様とご成婚されたと聞いて、王都にいてはいつまでもこの想いが絶ちきれないので、この地で骨を埋めようと決意しました」

 僕たちの後ろにいるリアム様をちらりと見るリーグ。
 そうだ、彼の恋心は前の生も今も本物だった。彼の想いは二回とも成就しなかった。そう思うとなんだか悲しくなってしまい、フランをそっと見上げた。フランも申し訳ないと思ったのか、僕の手をぎゅっと握って一言。

「そうか……」

 アシュリーの断罪に、ただ巻き込まれただけのリーグ。あの時の僕たちの波乱のせいで、恋心をフランに利用された一人だった。
 好きなのにフランから強制されて、ヒートを起こしたアシュリーを抱いた。僕が少し複雑な顔をしたら、後ろに控えていたリアム様も気まずそうにした。
 そんな僕たち当事者三人の表情を読み取ったのか、リーグが穏やかに話を続ける。

「私は殿下の恩情により一瞬でも想う方の側に……。思い残すことなくこの地で生きる決意ができました。どちらにしても結婚したらここで生活をしたいと昔から考えていたので、少し予定より早く来ただけです。ですから殿下には感謝しております」
「そうか、穏やかなお前には、王都よりもこういった場所の方が肌に合うかもしれないな。いつまでも息災でいてくれ」

 そこでリーグとの会話は終わった。
 リアム様はその場にとどまり、リーグと少し話をしたいと言った。リアム様もアシュリーを抱いた騎士を知っているだろうし、二人も複雑な関係だろうと思う。だけどリアム様とリーグは前を向いているから、きっと大丈夫だろう。
 リーグはまだ王家の騎士という立場にいるので、この城に誰か来た時は城の門に配置されるのだという。なんとなく彼のその後が気になっていたから知れて良かった。リーグも何かに見切りをつけて前に進んでいるし、なんだか幸せそうに見えた。あの彼ならこの地で愛する人を見つけていつか家族を作って落ち着く、そんな気がした。
 そして湖のほとりを歩いてから、二人で芝生に座り自然とイチャイチャし始めた。僕とフランがキスをすると、側近たちはみんな気を使って少し離れてくれた。
 リアム様は相変わらず王太子の側近として仕えてくれている。フランが行く先にリアム様がいつもいるのは、以前と変わらない。だから僕とも以前のように……まではいかなくてもお話くらいはする。そんなリアム様は、リーグと話が終わったのだろう。湖の近くでお花摘みをしていたのが見えて、僕は驚いてフランに目を向ける。

「ああ、リアムは子どもに押し花を作ると言っていた。あいつはそういう男だ」
「えっ、どういう男!?」
「わりと乙女な思考があるということだな……、甘いものが好きだし、可愛いだろう」
「それは、か、可愛いね。でもお子様、本当に可愛いもんね。お花が似合う可愛い女の子か。リアム様はお花を見てにやにやしちゃうくらいに、子煩悩だよね」

 僕とフランを二人きりにしてくれたリアム様は、ちょっと離れた場所に待機しつつも、家族のことを想っているのは、なんだかほっこりする。あの夫夫ふうふの関係は少しもどかしいような感じもするけど、上手くいっているように見えた。
 僕とフランもこうやって、ずっと一緒に過ごすくらいに上手くいっている。
 この幸せを手に入れるまで、皆が沢山の苦労をしたけれど、僕の周りはあれから愛に溢れていた。

「フラン、僕幸せだよ」
「私も幸せだ、シリル」


 ―― fin ――

しおりを挟む
感想 593

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

運命を知っているオメガ

riiko
BL
初めてのヒートで運命の番を知ってしまった正樹。相手は気が付かないどころか、オメガ嫌いで有名なアルファだった。 自分だけが運命の相手を知っている。 オメガ嫌いのアルファに、自分が運命の番だとバレたら大変なことになる!? 幻滅されたくないけど近くにいたい。 運命を悟られないために、斜め上の努力をする鈍感オメガの物語。 オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω 『運命を知っているアルファ』というアルファ側のお話もあります、アルファ側の思考を見たい時はそちらも合わせてお楽しみくださいませ。 どちらかを先に読むことでお話は全てネタバレになりますので、先にお好みの視点(オメガ側orアルファ側)をお選びくださいませ。片方だけでも物語は分かるようになっております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。 コメント欄ネタバレ全解除につき、物語の展開を知りたくない方はご注意くださいませ。 表紙のイラストはデビュー同期の「派遣Ωは社長の抱き枕~エリートαを寝かしつけるお仕事~」著者grottaさんに描いていただきました!

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。