運命の番は姉の婚約者

riiko

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第二章 男を誘う

11 バー御影

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 相原に送ってもらったのが昼だったので、爽は少しだけ部屋の片づけや溜まっている洗濯ものを片付けた。夕方になり身支度を整えると、相原の紹介してくれたバーに向かう。
 地図アプリを見たところで、簡単には辿り着けなかった。わかりづらいところにあったので、初めての人はなかなか入りづらい。まず知っていなければ見つけられない。相原は紹介制と言っていたので、初めてで一人で来る人がいないのかもしれない。
 もはや簡単には見つけられないというのが目的なのだろう。門構えを見た爽は、隠れ家バーという印象を覚えた。
 相原に渡された黒いショップカードを見てから、扉を見上げる。
「バー御影みかげ……ここか」
 重厚な扉を開けると、そこは夜にぴったりな幻想的な世界。
 薄暗い店内はそこまで広くなく、カウンターと二つほどのテーブル席があるだけだった。ちらほらと人はいるが、まだ二十時になったばかりの店内は閑散としていた。爽がキョロキョロと店内を入り口から見渡していると、カウンターの向こういる店主らしき男性から声がかかる。
「いらっしゃいませ、良かったらこちらのカウンターへどうぞ」
「あ、はい」
 とても美しい男性だった。
 バーテンダーの服装は、その人が着るとかっこいいというより妖艶な美しさを出していた。後ろに一つ結んだ長い黒髪は清潔感がある。女性のような華奢さはなく男性とわかるのに、なぜか目で追ってしまう美しさがあった。
「こちらは、初めてですよね?」
「あ、はい。昨日知り合った方から、ここを教えてもらって。相原さんっていう方なんですが……」
「ああ、あなたが! 相原から聞いてますよ、何をお飲みになりますか?」
「あの、アルコールの入っていないものってありますか?」
「ええ、じゃあノンアルコールでお出ししますね」
 メニューを見せられても、爽にはメニューに書かれている飲み物の名称がわからなかったのでお任せでお願いした。酒を飲める年齢じゃありませんと言って追い出されるわけにいかなかった爽は、ノンアルコールを進められてほっとした。
 そっと美しいグラスに入ったキラキラした飲み物が目の前に出てくる。それを見て、爽はほうっと美しさに一瞬、時が止まったような気がしていた。すると、バーの店主が爽を見てから微笑み、ぼそりと話す。
「相原は、僕の夫なんです」
「え!?」
「驚きました? 彼は僕のつがいで夫です。また外泊したから事件かと思ったら、オメガの男の子を保護したなんて言うんだもん。嫉妬したんですよ」
「それは、すいません」
「ふふ、彼はとても面倒見がいいんです。こちらには出会いを求めてお越しになったとか?」
「はい、実は昨日……」
 カウンターでバー御影の店主――相原みかげと話をした。
 最初から爽にとっては親しみやすい人で、昨日のことを気付けば全て話していた。とはいえ、寝るだけの相手を探しているなんてビッチ発言はできないので、恋人が欲しくて出会いを求めていたと言った。
「社会人になったし、俺もそういう経験もしてみたいなって思って……」
「ふふ、初々しくて、いいですね」
 みかげは微笑みながら、途中途中で相槌を打ってくる。さすが客商売だと爽は思った。初対面なのに話しやすい男性であり、オメガということでおのずとも警戒心がなくなっていた。
「まさか、酔わされてホテルに連れ込まれるとは思っていなくて……」
「それは、怖かったね」
「そ、そうですね」
 酒が入らなかったら、イケたかもしれないと、爽はいまだに考えてしまう。
 運命の香りを思い出さなければ、ホテルであの男の子種を貰っていたかもしれない。怖かったのは確かだが、今度こそ怖がるわけにはいかない。とにかく既成事実を! 爽が意気込んでいると、そのとき重厚なバーの扉が開いた。みかげが声をあげる。
「あっ、いらっしゃいませ」
「みかげさん、カウンターいい?」
「どうぞ」
 ドアの方向に向かって挨拶をするみかげと共に、爽も目で追った。仕立ての良さそうなスーツを着た男性が一人で来店していた。ここは紹介制バー、ということは常連だろうと考える。名前を気軽に言った男は、少し離れた席に座った。みかげはそちらに行くのだろう、爽との話を切り上げてきた。
「じゃあ、ごゆっくり。まずはこのバーに慣れてみるといいよ。あと良さそうな人がいたら、僕に言って。大体のお客さんのことは頭に入っているから、見極めてあげるね」
「はは、それは頼もしいです。ありがとうございます」
 みかげは男の接客についてしまった。みかげが良さそうな人と言うが、まだ人はあまりいない店内。引っ掛ける相手が見当たらない。今しがた入って来た男は、妻がどうのとみかげに世間話をしていた。妻がいる男は問題外。黙って子種だけを貰って子供を産むにしても、妻に知られることがないとはいえ、その家庭に悪い気がする。
 一人、ちびちびと出された飲み物を飲んでいると、テーブル席にいた男がドリンクを持って隣に座った。爽は戸惑う。
「えっと?」
「こんばんは、一人……だよね?」
「え、はい」
「俺もなんだ」
「……」
 確かこの男はテーブル席に連れがいたのを見た記憶があるので、爽はいぶかし気な目で男を見た。
「ああ、さっきまでいた人は急な仕事の呼び出しで会社に戻ってしまってね」
「そうですか」
「何、飲んでいるの?」
「なんだろ、お任せで出してもらったのでよくわかりません」
「ふふ、そう。君は……オメガだよね?」
「はい、そういうあなたは?」
 いきなりバース性を聞いてくるものだろうか? 爽にはよくわからなかった。男はよくいる会社員っぽく、身ぎれいな感じがする。十代の爽から見たら誰もが年上には間違いないだろうが、年齢はだいぶ年上に見えた。ここは爽みたいな子供が来るところではない気が早くもしてきた。
「俺はベータだよ。ここはみかげさんのパートナーの目が厳しくてね、アルファは基本出禁らしいよ」
「そうなんですか!」
 すごい情報だ。アルファは出禁。なんて素晴らしいバーだろうと、爽は心の中で昨日出会った相原に感謝した。求めている狩場にちょうどいい。しかし上品な雰囲気の店だけあって、ホテル行くか! みたいな感じになれるような気がしない。
 男はいつの間にか、爽の隣に居座って普通に会話をしていた。正直、つまらない。これがバーの過ごし方なのだろうか。爽は経験がないので想像がつかない。オメガというバース性を聞いた割に、清い話しかしてこない。それを爽は「はい」「へえ」「すごいですね」の相槌しか打っていない。
 会話の中で会社を経営しているという情報があったので、きっと金持ちなのは間違いない。
 爽がつまらなそうに男と話していると、いつの間にか店内には人が増えていた。男が席を立ちトイレに行った。男と離れた瞬間、爽の唇からは自然とため息がこぼれた。
 会話を楽しみに来たわけではなく、ホテルに行ける相手を探しに来ただけ。安全で楽しく酒を飲む相手としては最高かもしれないが、爽の目的はそんなことではない。金持ち男を引っ掛けるだけで、オメガとして底辺に見られてしまう可能性がある。爽にとって、金は必要ない。細かく言えば必要になるだろうが、そこは会社員なので保証があることから子供一人養える自信は少なからずあった。子種を求めるだけなので相手のスペックはいらない。
 ここも失敗かもしれない、ここには爽に見合うような、やり逃げしてくれる男はいないかもしれないと落胆した。相原は上質な出会いの場としてここを紹介したのだ、今更だが爽の目的と全く合わない。
「もう帰ろうかな……」
 一人になったので、ぼそりと不満が口から出てしまった。席を立とうとして、財布をポケットから取り出す。バーの主人であるみかげは、相変わらず来る人来る人の対応で話をしていて、金をいつどのタイミングで渡せばいいのか戸惑ってしまった。
 なんとなく、さきほどの男がトイレから戻る前にこの店を出たかった。
「君、つまらなそうだね」
「え……」
 左隣に、いつの間にか座っていた客に話しかけられた。
「今トイレに行った人は、知り合い?」
「……いえ」
 男は、この場の雰囲気に溶け込んでいる大人。先ほどの男より断然若いが、爽よりずっと年上、二十代後半から三十代くらいに見えた。今まで見た男で一番顔がいい。といっても、爽は引きこもりだからそこまでたくさんの男を見てきたわけではないが、みかげのつがいである相原と並ぶ美男子だった。
 座っているので身長は定かではないが、爽より背が高いのは座っている足の長さからそう思わせた。鼻が高い。こういう男とキスをしたら鼻はぶつからないのだろうかと、全く今思わなくてもいいことを考えている爽だった。それほどまでに、現実離れした顔が目の前にいた。
「彼に興味あるの?」
「いえ、興味は……ないかもしれません」
「ふふ、それは、面白いね。それであの人が戻る前に帰ろうと思った?」
「はあ、まあ」
「ふふ、じゃあお兄さんに任せなさい」
 男は、みかげのもとまで歩き軽く会話をしていた。客との会話を遮り店主と話せることからかなり常連と見えた。みかげは男と話したあと、爽にウィンクをしてきた。爽は戸惑う。すると男が爽の元に戻って来た。
「会計は終わらせたから、店を出られるよ」
「え、あ、俺の分は払います」
「いいよ、カードで切ったし、あっ、そうだ。じゃあ次の店でおごってよ」
「え?」
「君をあの男から救い出したお礼にね」
「……わかりました」
 ひょんなことから、爽は男を誘うことに成功した。いや、誘われたと言ったほうが正しい。男はラフな格好をしていたので、先程の会社経営の男性とはだいぶ違う。これならもしかしてワンナイトに持ち込めるだろうか。簡単にオメガを誘うチャラ男、それは今の爽には理想そのものだった。
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