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第四章 揺れる心
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その日、隆二は会社に戻ることなく爽についていた。きっと妊娠していなかったことに、がっかりしているだろう爽を慰めるためだと思った。
いつも以上に甘く、家でずっとくっついている。
「爽、子供はいつだって作れるよ。そんなに落ち込まないで」
「え、うん」
爽は落ち込んでいない。子供は初めからいなかったし、それよりも隆二はこの流れを信じたのだろうか。
「でもこれで正当な順番にできるね。今度はご両親に 番の許可をもらいに行こう。それと、結婚の」
「え」
「爽、結婚しよう。本当は結婚して番になってから子供が理想的だけど、爽はもう数か月後のお姉さんの結婚式で番がいなくてはいけない状況になっているから、番が先かな?」
「いや、妊娠が先じゃない?」
隆二が不思議な顔をする。
「どうして? だってアルファに会うには、番になるのが一番の解決法だよ。爽にはもう僕というアルファがいる。それなら妊娠を急がなくてもよくない?」
「隆二は妊娠したから俺の仕事を奪って、ここに連れてきたんでしょ。じゃあ妊娠していないなら、俺は仕事に戻れる? 番というのも、妊娠したから結婚して番って流れだったじゃん。いまさら、そこって必要なの?」
自分で聞いていて、爽は馬鹿らしくなった。こんなに周りから丸め込まれているのだから、もう隆二がこれだけの理由で開放されるわけがないことくらい想像がつく。それに、今はっきりと結婚しようと言われた。
「それは爽が決めた人生設計で、僕のじゃない。僕は爽を愛している。子供がいようがいまいが、愛しているから爽と一生を共にする。いい加減、そこに向き合ってくれてもよくない?」
「ごめん」
隆二の想いはずっと聞いていた。
妊娠していてナーバスな状況というのもあるからか、隆二は求めてこなかった。でも今はもう違う。爽はついに隆二と向き合わなくてはいけないときがきた。
「爽、少なからず爽は僕のことを受け入れてくれているよね?」
「う、うん」
受け入れている。これで受け入れていないわけがない。
しかし、それには隆二のアルファの香りを確認しなくてはいけないし、本当に爽はあの人への想いがないのかも知る必要がある。
たとえあの男を想っていたとしても、結ばれることは絶対にないのだけれど、もし他の男を想ったままなら隆二と番になんてなれない。それはあまりにも失礼な行為でしかない。気持ちに嘘をつきながら、他のアルファと一生を過ごせない。
「隆二、でも俺まだ隆二の匂い、わからない……」
「ああ、そうだったね。アルファのフェロモンを感じないのも想像妊娠のせいだって、先生は言っていたか。でもそれはじきに戻るよ。想像妊娠じゃないと理解した時点で、爽の症状はすべて元に戻るって医者も言っていたし」
「うん。だから、隆二の香りを確かめてじゃなくちゃ、俺は何も言えない」
言い訳苦しいが、今はそうしてこの場を逃れるしかない。
隆二は微笑みながら、いつも通り爽の言い訳に流されてくれた。結局爽が妊娠を望んでいるのと、番候補がいるということを医者が確認してしまったせいで、過剰に抑制剤を貰うことができなくなった。
どうしようも無い時の処置程度の処方だけだった。
いつも以上に心もとない抑制剤の量。そして医者からは、想像妊娠で狂ってしまったフェロモンの数値を通常に戻すために、抑制剤の使用を避けるようにとも言われてしまった。
「爽、オメガの機能が戻ってきたら、ちゃんと考えて。それからオメガの機能が戻る前に、心で考えて。フェロモンに左右されない、爽の心で」
「隆二……」
隆二はキスをする。爽も自然と口を開けて隆二を受け入れる。これだけでも、隆二を好きじゃないわけがない。いい加減、隆二がこうやって爽を逃がさないように優しく優しく囲ってくれている内に、それに応えた方がいいのもわかる。
――俺は、いったい。
やはり考えたくなくて、隆二に縋った。爽の悪い癖だが、隆二は甘えると喜ぶから、たいていのことはこうしていれば無理を言わなくなる。
「隆二っ」
「爽? スイッ入っちゃった? 妊娠していないなら、抱いてもいい? 正直もう僕は爽を抱けなくて限界だよ。妊娠中なら医者から許可が出るまで待つつもりだったけど、今はもういいよね?」
「んっ、んん、でも、俺、今やっても妊娠しなっ、あん、からっ」
隆二がキスをしながら、胸をいじくる。その快感をすぐに拾ってしまった。
「さっきも言ったけど、それは爽の事情でしょう? 僕は孕ませるためだけに爽を抱いてない。僕は爽を抱きたいから抱く。愛しているから、抱くんだよ」
「はっ、んん。お前、セフレの時からずっと嘘つきだぁ」
隆二の唇は、はだけた胸に下がっていった。体を吸われる。隆二の唇を体で感じて、気持ちがよすぎて会話ができる気がしない。
「爽が僕から離れないように必死だったんだよ。恋する男なんてこんなもんだ」
「恋って……あっ! ちょ、ちょっと待て! ちょっとどけ!」
爽は我に返って、腹まわりを舐めまわす隆二の顔を手でどけた。
「なに?」
隆二はご馳走を奪われたかのような、不服な顔をして見てきた。腹まわりへの口づけはやめた。
「なに? じゃねぇだろう。オメガ改革とやらをやっている役員なら、オメガの仕組み知っていただろ? オメガがヒート以外に妊娠しないって知っていたんじゃないの? もしかして、俺が妊娠してないって知ってた?」
隆二は爽の言葉を聞いて、起き上がり目の前に座った。髪をかきあげて、しれっとした顔をする。髪を触る仕草が超絶色っぽくて、爽はドキッとした。こういうところがアルファのズルいところだ。そんな理不尽な怒りと、隆二の色気にやられた爽は少し鼓動が激しくなった。
「ああ、それね。でもヒート以外でも稀に妊娠することもあるっているのも事実だから、つわりや食べ物の好みが変わったのを見て、本当に妊娠しているのかもって思うようになったんだ。だから、全く疑っていたわけじゃないよ」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
それにしても、そんなにオメガに詳しいアルファも、そもそもオメガ専門医も、爽のただの偽装妊娠を見破れないなんてことあるのだろうか。
演技が相当なものなら、姉の結婚式でもすんなりと周りを騙せて、運命の男を見ても動揺せずに義理の兄として接することができるかもしれない。
運命に気づかれない方法が取れたとしても、爽の態度が挙動不審だったら台無しだ。演技力を今から認めてもらえたのは、これからの未来の安心材料の一つになったから良しとしようと思った。
いつも以上に甘く、家でずっとくっついている。
「爽、子供はいつだって作れるよ。そんなに落ち込まないで」
「え、うん」
爽は落ち込んでいない。子供は初めからいなかったし、それよりも隆二はこの流れを信じたのだろうか。
「でもこれで正当な順番にできるね。今度はご両親に 番の許可をもらいに行こう。それと、結婚の」
「え」
「爽、結婚しよう。本当は結婚して番になってから子供が理想的だけど、爽はもう数か月後のお姉さんの結婚式で番がいなくてはいけない状況になっているから、番が先かな?」
「いや、妊娠が先じゃない?」
隆二が不思議な顔をする。
「どうして? だってアルファに会うには、番になるのが一番の解決法だよ。爽にはもう僕というアルファがいる。それなら妊娠を急がなくてもよくない?」
「隆二は妊娠したから俺の仕事を奪って、ここに連れてきたんでしょ。じゃあ妊娠していないなら、俺は仕事に戻れる? 番というのも、妊娠したから結婚して番って流れだったじゃん。いまさら、そこって必要なの?」
自分で聞いていて、爽は馬鹿らしくなった。こんなに周りから丸め込まれているのだから、もう隆二がこれだけの理由で開放されるわけがないことくらい想像がつく。それに、今はっきりと結婚しようと言われた。
「それは爽が決めた人生設計で、僕のじゃない。僕は爽を愛している。子供がいようがいまいが、愛しているから爽と一生を共にする。いい加減、そこに向き合ってくれてもよくない?」
「ごめん」
隆二の想いはずっと聞いていた。
妊娠していてナーバスな状況というのもあるからか、隆二は求めてこなかった。でも今はもう違う。爽はついに隆二と向き合わなくてはいけないときがきた。
「爽、少なからず爽は僕のことを受け入れてくれているよね?」
「う、うん」
受け入れている。これで受け入れていないわけがない。
しかし、それには隆二のアルファの香りを確認しなくてはいけないし、本当に爽はあの人への想いがないのかも知る必要がある。
たとえあの男を想っていたとしても、結ばれることは絶対にないのだけれど、もし他の男を想ったままなら隆二と番になんてなれない。それはあまりにも失礼な行為でしかない。気持ちに嘘をつきながら、他のアルファと一生を過ごせない。
「隆二、でも俺まだ隆二の匂い、わからない……」
「ああ、そうだったね。アルファのフェロモンを感じないのも想像妊娠のせいだって、先生は言っていたか。でもそれはじきに戻るよ。想像妊娠じゃないと理解した時点で、爽の症状はすべて元に戻るって医者も言っていたし」
「うん。だから、隆二の香りを確かめてじゃなくちゃ、俺は何も言えない」
言い訳苦しいが、今はそうしてこの場を逃れるしかない。
隆二は微笑みながら、いつも通り爽の言い訳に流されてくれた。結局爽が妊娠を望んでいるのと、番候補がいるということを医者が確認してしまったせいで、過剰に抑制剤を貰うことができなくなった。
どうしようも無い時の処置程度の処方だけだった。
いつも以上に心もとない抑制剤の量。そして医者からは、想像妊娠で狂ってしまったフェロモンの数値を通常に戻すために、抑制剤の使用を避けるようにとも言われてしまった。
「爽、オメガの機能が戻ってきたら、ちゃんと考えて。それからオメガの機能が戻る前に、心で考えて。フェロモンに左右されない、爽の心で」
「隆二……」
隆二はキスをする。爽も自然と口を開けて隆二を受け入れる。これだけでも、隆二を好きじゃないわけがない。いい加減、隆二がこうやって爽を逃がさないように優しく優しく囲ってくれている内に、それに応えた方がいいのもわかる。
――俺は、いったい。
やはり考えたくなくて、隆二に縋った。爽の悪い癖だが、隆二は甘えると喜ぶから、たいていのことはこうしていれば無理を言わなくなる。
「隆二っ」
「爽? スイッ入っちゃった? 妊娠していないなら、抱いてもいい? 正直もう僕は爽を抱けなくて限界だよ。妊娠中なら医者から許可が出るまで待つつもりだったけど、今はもういいよね?」
「んっ、んん、でも、俺、今やっても妊娠しなっ、あん、からっ」
隆二がキスをしながら、胸をいじくる。その快感をすぐに拾ってしまった。
「さっきも言ったけど、それは爽の事情でしょう? 僕は孕ませるためだけに爽を抱いてない。僕は爽を抱きたいから抱く。愛しているから、抱くんだよ」
「はっ、んん。お前、セフレの時からずっと嘘つきだぁ」
隆二の唇は、はだけた胸に下がっていった。体を吸われる。隆二の唇を体で感じて、気持ちがよすぎて会話ができる気がしない。
「爽が僕から離れないように必死だったんだよ。恋する男なんてこんなもんだ」
「恋って……あっ! ちょ、ちょっと待て! ちょっとどけ!」
爽は我に返って、腹まわりを舐めまわす隆二の顔を手でどけた。
「なに?」
隆二はご馳走を奪われたかのような、不服な顔をして見てきた。腹まわりへの口づけはやめた。
「なに? じゃねぇだろう。オメガ改革とやらをやっている役員なら、オメガの仕組み知っていただろ? オメガがヒート以外に妊娠しないって知っていたんじゃないの? もしかして、俺が妊娠してないって知ってた?」
隆二は爽の言葉を聞いて、起き上がり目の前に座った。髪をかきあげて、しれっとした顔をする。髪を触る仕草が超絶色っぽくて、爽はドキッとした。こういうところがアルファのズルいところだ。そんな理不尽な怒りと、隆二の色気にやられた爽は少し鼓動が激しくなった。
「ああ、それね。でもヒート以外でも稀に妊娠することもあるっているのも事実だから、つわりや食べ物の好みが変わったのを見て、本当に妊娠しているのかもって思うようになったんだ。だから、全く疑っていたわけじゃないよ」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
それにしても、そんなにオメガに詳しいアルファも、そもそもオメガ専門医も、爽のただの偽装妊娠を見破れないなんてことあるのだろうか。
演技が相当なものなら、姉の結婚式でもすんなりと周りを騙せて、運命の男を見ても動揺せずに義理の兄として接することができるかもしれない。
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