2 / 22
2 潤
しおりを挟む
潤の両親は駆け落ち同然で家を出たので、互いの親戚も誰もいない状況だった。
父親は、五井園建設という建設会社の社長専属運転手をしていた。親以外の親族のいない潤を、たびたびそこの社長は可愛がってくれた。五歳年上の社長の息子である健吾も、潤に対してまるで弟のように接してくれたのもあり、たまに遊びに行く社長の家は、親戚の家に行くような感覚になっていた。
幸せの日々は突然崩れた。潤が中学二年生の時に、両親が二人とも交通事故で亡くなる。居眠り運転をしていたトラックが歩道に乗り上げ、潤をかばって両親は命を落としたのだ。潤は両親の命が目の前で消えていくのを見ていたこともあり、しばらく精神状態がおかしくなっていた。
親戚がいない潤のために、五井園建設の社員が葬儀から何から全てを終わらせる。事故を起こした相手会社との交渉を会社の顧問弁護士が対応した。そして潤には大金が入ったが、まだ中学生だったので生活能力が一切なかった。そもそも親を二人失った潤は、現実世界を受け入れられずに心を失ったように呆然としていた。そこで潤を心配する五井園社長が、潤を引き取ると言う。
「潤君、君はこれから私の息子として過ごしていくつもりはないか?」
「えっ」
葬儀の後、五井園は潤に温かい笑顔を向ける。父よりも少し年上のよく知っている五井園を「おじさん」と言って、潤は幼い頃より慕っていた。
「君はもともと親戚みたいなものだ。この家もよく知っているだろう。君はまだ若すぎるから一人で生きていくすべがない。もし成人して自由になりたくなったら、そうしてくれてもいいし、一生この家にいてくれても構わない。妻も息子も君のことはとても気に入っているんだ。あの家でひとりは寂しいと思うよ?」
すると五井園の妻が言う。
「そうよ、潤君。今は何も考えずここで悲しみを癒して、生活を立て直しましょう」
社長夫人は、社長同様に潤を可愛がってくれていたのもあり、二人は潤を無条件に受け入れた。彼らの優しさに、潤は涙を流して頷く。
「おばさん、う、うう、僕っ……」
言葉が出ない潤を、社長夫人は抱きしめた。二人の一人息子である健吾と、五井園も潤を包み込む。その時、呆然として世界が終わっていた潤の瞳に、やっと光が入ってきたのを感じた。
両親が急に亡くなり人肌が恋しくて仕方なかった潤は、その胸に抱かれ何も言えずにただ泣くことしかできなかった。
それが、潤がこの五井園の養子になった経緯だ。
その夜は、健吾が潤と一緒に就寝についた。潤は多感な年だったが、一人で寝ることがどうしてもできなかった。大学生の男と添い寝、しかも抱き合って眠るなんておかしいとは思うが、その時は人肌が恋しかった。昔から兄のように慕っていた健吾の腕の中こそが一番心や安らぐ場所。
潤は、夜一人になると寂しさに襲われて苦しくなる症状が現れた。そこで健吾が一緒の部屋で過ごそうと提案し、二人は同じベッドで寝るくらい仲のいい兄弟になっていった。
健吾はその時に付き合っていた彼女とあっさりと別れ、潤を一番に大事にした。潤は家ではいつも健吾にべったりとする。初めから四人家族だったかのように自然と潤は、義理の両親を「お父さん、お母さん」と呼ぶようになった。健吾のことは昔から呼び捨てだったので、急にお兄ちゃんとは呼ぶことができずにいると、健吾からそのまま名前で呼んでほしいと言われたので、変わらずに名前で呼んでいた。
そんな幸せな家庭だったが、潤が中学を卒業したと同時に、五井園家は夫人を乳がんで亡くしてしまう。
潤は両親を失ってすぐに、少しの間だったが母と慕っていた人を失った。義父も義兄の健吾も悲しみに明け暮れる。それから男三人で一生懸命に頑張り、何とか家族三人で家事を分担しつつ不慣れながらも仲良く暮らした。
いろんなことが片付き、潤が高校一年のその年に健吾は急にアメリカ留学を決めてきた。寂しかったが、これまで潤のことをとても大事にしてくれたことを思うと、泣いてばかりはいられないと笑顔で送った。
潤は義父と二人、生活をすることになった。その頃にはこの家にも慣れ、本当の親子関係のような穏やかな時を過ごし、高校三年間は必死に勉強し、いい大学を目指して過ごした。
いずれ父の役に立てるような人間になって、この家に恩返しをしたいという一心だった。
父親は、五井園建設という建設会社の社長専属運転手をしていた。親以外の親族のいない潤を、たびたびそこの社長は可愛がってくれた。五歳年上の社長の息子である健吾も、潤に対してまるで弟のように接してくれたのもあり、たまに遊びに行く社長の家は、親戚の家に行くような感覚になっていた。
幸せの日々は突然崩れた。潤が中学二年生の時に、両親が二人とも交通事故で亡くなる。居眠り運転をしていたトラックが歩道に乗り上げ、潤をかばって両親は命を落としたのだ。潤は両親の命が目の前で消えていくのを見ていたこともあり、しばらく精神状態がおかしくなっていた。
親戚がいない潤のために、五井園建設の社員が葬儀から何から全てを終わらせる。事故を起こした相手会社との交渉を会社の顧問弁護士が対応した。そして潤には大金が入ったが、まだ中学生だったので生活能力が一切なかった。そもそも親を二人失った潤は、現実世界を受け入れられずに心を失ったように呆然としていた。そこで潤を心配する五井園社長が、潤を引き取ると言う。
「潤君、君はこれから私の息子として過ごしていくつもりはないか?」
「えっ」
葬儀の後、五井園は潤に温かい笑顔を向ける。父よりも少し年上のよく知っている五井園を「おじさん」と言って、潤は幼い頃より慕っていた。
「君はもともと親戚みたいなものだ。この家もよく知っているだろう。君はまだ若すぎるから一人で生きていくすべがない。もし成人して自由になりたくなったら、そうしてくれてもいいし、一生この家にいてくれても構わない。妻も息子も君のことはとても気に入っているんだ。あの家でひとりは寂しいと思うよ?」
すると五井園の妻が言う。
「そうよ、潤君。今は何も考えずここで悲しみを癒して、生活を立て直しましょう」
社長夫人は、社長同様に潤を可愛がってくれていたのもあり、二人は潤を無条件に受け入れた。彼らの優しさに、潤は涙を流して頷く。
「おばさん、う、うう、僕っ……」
言葉が出ない潤を、社長夫人は抱きしめた。二人の一人息子である健吾と、五井園も潤を包み込む。その時、呆然として世界が終わっていた潤の瞳に、やっと光が入ってきたのを感じた。
両親が急に亡くなり人肌が恋しくて仕方なかった潤は、その胸に抱かれ何も言えずにただ泣くことしかできなかった。
それが、潤がこの五井園の養子になった経緯だ。
その夜は、健吾が潤と一緒に就寝についた。潤は多感な年だったが、一人で寝ることがどうしてもできなかった。大学生の男と添い寝、しかも抱き合って眠るなんておかしいとは思うが、その時は人肌が恋しかった。昔から兄のように慕っていた健吾の腕の中こそが一番心や安らぐ場所。
潤は、夜一人になると寂しさに襲われて苦しくなる症状が現れた。そこで健吾が一緒の部屋で過ごそうと提案し、二人は同じベッドで寝るくらい仲のいい兄弟になっていった。
健吾はその時に付き合っていた彼女とあっさりと別れ、潤を一番に大事にした。潤は家ではいつも健吾にべったりとする。初めから四人家族だったかのように自然と潤は、義理の両親を「お父さん、お母さん」と呼ぶようになった。健吾のことは昔から呼び捨てだったので、急にお兄ちゃんとは呼ぶことができずにいると、健吾からそのまま名前で呼んでほしいと言われたので、変わらずに名前で呼んでいた。
そんな幸せな家庭だったが、潤が中学を卒業したと同時に、五井園家は夫人を乳がんで亡くしてしまう。
潤は両親を失ってすぐに、少しの間だったが母と慕っていた人を失った。義父も義兄の健吾も悲しみに明け暮れる。それから男三人で一生懸命に頑張り、何とか家族三人で家事を分担しつつ不慣れながらも仲良く暮らした。
いろんなことが片付き、潤が高校一年のその年に健吾は急にアメリカ留学を決めてきた。寂しかったが、これまで潤のことをとても大事にしてくれたことを思うと、泣いてばかりはいられないと笑顔で送った。
潤は義父と二人、生活をすることになった。その頃にはこの家にも慣れ、本当の親子関係のような穏やかな時を過ごし、高校三年間は必死に勉強し、いい大学を目指して過ごした。
いずれ父の役に立てるような人間になって、この家に恩返しをしたいという一心だった。
315
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる