貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

文字の大きさ
1 / 83
1章 囚われた生活

1.1 プロローグ

しおりを挟む
  白い世界の中でフワフワと浮いていた。突然光が強くなりそちらに引っ張られる。そして呼吸が苦しい。
「オギャー」
 なんだ。なにが起きた。暖かなで静かな世界から急に冷たい空気が肌に触る。そしてうるさい。なんだうるさい理由は自分の鳴き声か。
 口に何かが当たる。お、なんかおいしいぞ。暖かくて幸せだ。

 エルと呼びかけてくる綺麗な女性が僕を抱いている。
 とても綺麗な部屋にいる。
 僕が着ている服は高級な肌触り、とても心地よい服だ。
 女性の着ている服は色合いが沢山入り、細やかな刺繍がされた見るからに高い着物だ。
 最近、母乳の時期は終り離乳食を食べてはじめた。今は夏。暑い日が続いているがこの辺りはからりとした気候なのかそれほど不快ではない。けっこう快適な生活だった。
 この女性がいつも僕に話しかけてくる。声は覚えたが何を言っているのかはさっぱり解らない。だが女性が僕を愛おしく抱いて世話をしてくれる。この世界のなかなかに心地よい世界だ。満足満足。
 ただしそれは昨日までだ。
 なぜか昨日と違い、今日、世界は一変してしまった。
 まず、夜中に僕が寝ていた僕の寝床にキラキラした宝石が放り込まれた。急にどすどす投げ込まれびっくりした。そして声を上げて泣こうとしたが、その前にいきなり違う場所に移動した。空が見えるのだ。満天の星空。そして赤い月。
 その後に馬車に乗せられたのだろうか、揺られる。かごの中で泣いたが誰も助けてくれなかった。
 2時間ほど馬車に揺られた。その頃には泣きつかれ声を出すことも出来なかった。
「おい、この子供の面倒をみろ」
 そう言って男は明らかに僕の母親では無い若い女性に僕を渡した。
 女は僕を受け取り部屋へと向かった。
 とりあえず殺されるわけでは無いようだ。僕は疲れて寝てしまった。
 次の日、女が柔らかくした食事を僕に与えてくれた。そしてまた眠る。すると何か冷たいものが僕のほほに当てられた。そのとたんに体から何かが吸われる。びっくりして目をさますと、昨日の男が僕に大きな石を当てていた。
 何をしているのか気になりステータスウインドウを出して確認すると魔力の数値が減っていた。どうやら勝手に僕の魔力を吸い取っているようだ。よくわからないがそのうち終わるかと思ったが半分を過ぎてもまだ吸い取る。嫌な予感がして動きにくい小さな手を使って石をどける努力をする。それでもなかなか手をどけてくれない。僕は赤ちゃんが唯一できる攻撃、泣くを試す。
 バタバタを音がして若い女性が走ってきた。
「ダーヴィッド様おやめ下さい。そんな小さな子供から魔力を吸い上げたら死んでしまいます。残りは私がやりますのでお放し下さい」
 その声を聞いたからか、ダーヴィッドと声をかけられた男性が石を放した。
 魔力の残りは1割程度。体が妙にだるい。熱が出てきた気がする。
「ああ、熱が出てきているわ。クリスト大丈夫?」
 そう声をかけ、僕の頬を触る。どうやら僕の名前はクリストになったらしい。
 頬にある手を握って、大丈夫だとアピールするが急速に眠くなってきた。僕は女性の手をとった。
「ウル、今日の分の魔力は集まった。さすが上級貴族の子供だ。お前とこいつがいれば屋敷の維持だけじゃなくて、転移の魔石も手に入る。こいつが死ねば前のようにお前の魔力を限界まで吸い取ることになるんだ。せいぜいかいがいしく世話をしろ。死なない程度に飯は融通してやる」
 ”ははは”と笑い声が小さくなる。そこで僕の意識も保てなくなり眠ってしまった。
 どうやら、誘拐されてすぐに死ぬことはないようだ。僕の体の中にある魔力を必要とするらしく僕はすぐに殺されることはないらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...