娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

１、もう一度、生きる

目を開けると、ぼんやりとした視界に柔らかな光が滲んだ。
寝台の上、天蓋の薄絹が揺れている。
エリオットはゆっくりと手を動かした。指がしっかりと動く。
関節の痛みもなく、体の奥にあったはずの重苦しい倦怠感が嘘のように消えている。
信じられない気持ちで、寝台から降りた。
裸足の足がふわりと絨毯の上に沈み込む。その肌触りも、どこか懐かしい。

「こ、こは……」

震える指先を握りしめて、部屋の中を見回す。
壁には豪奢なタペストリー、窓辺には花瓶に生けられた白い花。
窓の外には王都の景色が広がっている。
この部屋をエリオットは知っている。
ここは、アドリアン──アドリアン・オルディスの屋敷。
自分が嫁いできた時に、与えられた部屋。
そして、ここから地獄が始まった。

いや、夢だろうか……？
しかし、それはあまりにも鮮明な夢だった。
体の痛み、寒さ、死の間際に感じた熱。
そして、最後に自分を抱きしめた誰か。
あれは……誰だった？
思い出そうとするのに、名前が出てこない。
ただ、強く温かい腕の感触だけが残っている。
もう一度——会いたい。

そう思った瞬間、背筋が冷たくなる。
もし、あれが夢じゃないとして。現実だとして──自分が戻ったとして。
今、何日だ？自分はどの時点にいる？
急いで部屋の隅にある姿見へ向かう。
鏡に映ったのは、まだ痩せ細る前の自分。
肌には血色があり、目元のくまもない。
肩まで流れる銀の髪は、前世の終わりには無惨に乱れていたはずだ。
だが今は違う。月光を含んだような銀糸が、滑らかに揺れている。
瞳を細めると、そこには 菫色 の光が映った。
以前のエリオットは、どこか弱々しくこの瞳を伏せることばかりだった。
だが、もう俯かない。頬にそっと触れる。

「本当に、戻ったのか……」

すると——扉の向こうで足音がした。
心臓が煩く音を立てた。
この展開を知っている。
この後、扉を開けて入ってくるのは……。
エリオットは一瞬で思考を巡らせる。
このまま何も知らない振りをするのか、それとも。

——いいや。
今度は違う。
もう、何もかも前と同じにはさせない。
静かに、扉を見つめる。
そして、そっと微笑んだ。



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