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12、静かなる反撃~オリヴィエ4~
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「ところで、どんな証拠?」
エリオットが問いかけると、オリヴィエは少しだけ目を伏せた。
しばし迷った後、意を決したように口を開く。
「……夫人からの"手紙"です」
その言葉に、エリオットの眉がわずかに動いた。
(……なるほど)
つまり、ジルが不倫した相手の女性——が、ジル宛に送った手紙がヴェロニクの手に渡っているということか。
「夫人がジルに宛てたもの?」
「……はい。彼女の方から、ジルへ何度も手紙を送っていたのです」
「なるほど。それで、ヴェロニク殿は?」
オリヴィエの手が、膝の上でぎゅっと握られた。
「ヴェロニク様は、私にこう言いました……」
彼女は、唇を噛み締めるようにして続けた。
「『私が黙っているうちは、あなたの息子は安全ですよ?』と……」
エリオットは、その言葉を噛み締めるように反芻した。
「つまり……ヴェロニク殿は、いつでもジルの不倫を公にできる状態で、君を従わせていたわけだね」
「……はい」
オリヴィエの声は低く、悔しさが滲んでいた。
「ですが、公爵家にこのような問題を持ち込むわけにはいきませんでした。ジルは愚かでしたが、私の息子です……ヴェロニク様の言いなりにならざるを得ませんでした……」
ヴェロニクは、ただジルの過去の過ちを暴露することでオリヴィエを脅していたわけではない。
もっと狡猾だった。
もしジルの不倫が公になれば、当然その母親であるオリヴィエの立場も揺らぐ。
「家族の醜聞を隠していた」 という事実は、公爵家に仕える者として致命的な問題になり得る。
ヴェロニクの狙いは、"息子の未来" だけではなく、"オリヴィエ自身の立場" までも崩すことだった。
(しかし……相手は誰だ?)
このスキャンダル自体は出てきたものの相手の名前はどう調べさせても出てこなかった。
「……オリヴィエ、相手は?」
エリオットの問いかけに、オリヴィエは今一度手を強く握ると、口を開く。
「……クラリス・リヴィエール侯爵夫人です……」
ああ、と得心がいったようにエリオットは頷く。
クラリス・リヴィエール。
嫁ぐ前の名はクラリス・オルディス──アドリアンの叔母だ。
リヴィエール侯爵は既に政界から引退はしているが、厳格な人間と耳にしたことがある。
妻の不貞など赦しはしないだろう。
かといってリヴィエール侯爵が騒ぎ立てればオルディス家としても分が悪い。
結構な醜聞だ。
それを隠すために、アドリアンは リヴィエール侯爵と交渉し、ジルを公の場から遠ざけた のだろう。
表向きは「海外留学」という形で。
——つまり、ヴェロニクの思惑通りに事が運んでいる。
「クラリス様はヴェロニク殿を嫌っていたのかな?」
「……それは……そう、ですね……。公爵閣下に意見をすることもありましたし」
「旦那様に?」
「公には出ていませんが、ヴェロニク様がこちらに来てから、何度か"奥方ではない"と進言されていました」
「……なるほど」
つまり、ヴェロニクにとってはオリヴィエの弱みもクラリスの弱みも握れて一石二鳥であったということだろう。
「その手紙は、今どこにある?」
オリヴィエの瞳が一瞬だけ揺れる。
「……アドリアン様の寝室にある金庫に」
「なるほど」
エリオットは軽く頷いた。
(場所が厄介だけど……まあ、大丈夫かな)
「オリヴィエ、その手紙がなくなったら?」
「……!」
オリヴィエが、驚いたように息を呑む。
エリオットは穏やかに続ける。
「ヴェロニク殿が君を脅せなくなるよね?」
オリヴィエは、驚いたようにエリオットを見た。
まるで「そんなことが本当に可能なのか」と疑っているような目。
だが、その瞳の奥には、わずかに光が灯り始めていた。
「……ですが、本当に……」
「君の手元に、僕がその手紙を戻してあげるよ」
「……っ!」
「ですが、金庫の鍵は……」
「大丈夫」
エリオットは、ゆっくりと笑った。
「まあ、鍵のありかくらい、聞き方次第でどうとでもなるよ?」
「……え……」
「僕に考えがある。少し待っててくれたらいい」
エリオットは微笑む。
オリヴィエは、しばし言葉を失っていたが——
「……ありがとうございます、奥様……」
やがて、深く頭を下げた。
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次の更新→2/11 PM10:30頃
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エリオットが問いかけると、オリヴィエは少しだけ目を伏せた。
しばし迷った後、意を決したように口を開く。
「……夫人からの"手紙"です」
その言葉に、エリオットの眉がわずかに動いた。
(……なるほど)
つまり、ジルが不倫した相手の女性——が、ジル宛に送った手紙がヴェロニクの手に渡っているということか。
「夫人がジルに宛てたもの?」
「……はい。彼女の方から、ジルへ何度も手紙を送っていたのです」
「なるほど。それで、ヴェロニク殿は?」
オリヴィエの手が、膝の上でぎゅっと握られた。
「ヴェロニク様は、私にこう言いました……」
彼女は、唇を噛み締めるようにして続けた。
「『私が黙っているうちは、あなたの息子は安全ですよ?』と……」
エリオットは、その言葉を噛み締めるように反芻した。
「つまり……ヴェロニク殿は、いつでもジルの不倫を公にできる状態で、君を従わせていたわけだね」
「……はい」
オリヴィエの声は低く、悔しさが滲んでいた。
「ですが、公爵家にこのような問題を持ち込むわけにはいきませんでした。ジルは愚かでしたが、私の息子です……ヴェロニク様の言いなりにならざるを得ませんでした……」
ヴェロニクは、ただジルの過去の過ちを暴露することでオリヴィエを脅していたわけではない。
もっと狡猾だった。
もしジルの不倫が公になれば、当然その母親であるオリヴィエの立場も揺らぐ。
「家族の醜聞を隠していた」 という事実は、公爵家に仕える者として致命的な問題になり得る。
ヴェロニクの狙いは、"息子の未来" だけではなく、"オリヴィエ自身の立場" までも崩すことだった。
(しかし……相手は誰だ?)
このスキャンダル自体は出てきたものの相手の名前はどう調べさせても出てこなかった。
「……オリヴィエ、相手は?」
エリオットの問いかけに、オリヴィエは今一度手を強く握ると、口を開く。
「……クラリス・リヴィエール侯爵夫人です……」
ああ、と得心がいったようにエリオットは頷く。
クラリス・リヴィエール。
嫁ぐ前の名はクラリス・オルディス──アドリアンの叔母だ。
リヴィエール侯爵は既に政界から引退はしているが、厳格な人間と耳にしたことがある。
妻の不貞など赦しはしないだろう。
かといってリヴィエール侯爵が騒ぎ立てればオルディス家としても分が悪い。
結構な醜聞だ。
それを隠すために、アドリアンは リヴィエール侯爵と交渉し、ジルを公の場から遠ざけた のだろう。
表向きは「海外留学」という形で。
——つまり、ヴェロニクの思惑通りに事が運んでいる。
「クラリス様はヴェロニク殿を嫌っていたのかな?」
「……それは……そう、ですね……。公爵閣下に意見をすることもありましたし」
「旦那様に?」
「公には出ていませんが、ヴェロニク様がこちらに来てから、何度か"奥方ではない"と進言されていました」
「……なるほど」
つまり、ヴェロニクにとってはオリヴィエの弱みもクラリスの弱みも握れて一石二鳥であったということだろう。
「その手紙は、今どこにある?」
オリヴィエの瞳が一瞬だけ揺れる。
「……アドリアン様の寝室にある金庫に」
「なるほど」
エリオットは軽く頷いた。
(場所が厄介だけど……まあ、大丈夫かな)
「オリヴィエ、その手紙がなくなったら?」
「……!」
オリヴィエが、驚いたように息を呑む。
エリオットは穏やかに続ける。
「ヴェロニク殿が君を脅せなくなるよね?」
オリヴィエは、驚いたようにエリオットを見た。
まるで「そんなことが本当に可能なのか」と疑っているような目。
だが、その瞳の奥には、わずかに光が灯り始めていた。
「……ですが、本当に……」
「君の手元に、僕がその手紙を戻してあげるよ」
「……っ!」
「ですが、金庫の鍵は……」
「大丈夫」
エリオットは、ゆっくりと笑った。
「まあ、鍵のありかくらい、聞き方次第でどうとでもなるよ?」
「……え……」
「僕に考えがある。少し待っててくれたらいい」
エリオットは微笑む。
オリヴィエは、しばし言葉を失っていたが——
「……ありがとうございます、奥様……」
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