娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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19、静かなる掌握~ロベール2~

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ロベールの手が、強く握られたまま動かない。
そのまま、長い沈黙が落ちる。
エリオットは焦らず、ただ静かに待った。
こういうとき、無理に言葉を重ねてはいけない。
相手が「口を開かざるを得ない」状況を作るのが肝心だ。
やがて、ロベールは深く息を吐き、口を開いた。

「……ヴェロニク様が、公爵家のために動いているか、と聞かれれば……」

言葉を選ぶように、慎重に続ける。

「少なくとも、"公爵閣下のために" というより……"自身のために" 動いているように見えます」

(……やっと出たね)

エリオットは表情を変えず、ただ静かに頷く。

「つまり……公爵家よりも、ご自身の利益を優先されている、と?」
「……はい」

ロベールの声は低いが、明らかに今までとは違う。
慎重に言葉を選びながらも、その奥には"確信"があった。

「それは由々しきことですね……」

わざとらしく、エリオットはロベールが言いやすくなるように、言葉を繋いだ。
ロベールは小さく頷く。

「ヴェロニク様は確かに優秀です。財務や交渉の手腕もある。ですが……彼の行動が、本当に"公爵閣下の利益" に繋がっているのかどうか……私は、時折、疑問に思うのです」
「例えば?」

エリオットが自然に問い返すと、ロベールは一瞬、逡巡した。

(……ここで引いては駄目だよ、ロベール)

エリオットは静かに視線を向ける。
それだけで、ロベールの中にある迷いを少しずつ削り取っていく。

「……例えば……」

ロベールは、ゆっくりと視線を伏せた。

「前公爵の時代です」

(……そこに繋がるか)

エリオットは内心で頷く。
すでに情報を集めていたが、やはり 「前公爵の問題」 が関係しているらしい。

「前公爵様は……公爵家を導く立場としては、決して悪い方ではありませんでした」

エリオットは黙って聞く。

「……ですが、ある時期……賭博に手を出されるようになったのです」
「賭博、ですか?」

ロベールは、小さく頷く。

「当時、公にはされていませんでしたが……前公爵様は、一時期かなりの額を賭け事に費やされました。その損失を埋めるため、私はある方法を用いて財務の帳尻を合わせていました」

(……やはり)

エリオットは表情を変えず、ロベールの話を促す。

「どのような方法を?」
「……貴族間の"借金の整理" です」

ロベールの声は、低く抑えられていた。

「公爵家の財政を守るため、前公爵様は他の貴族と複雑な金銭のやり取りをしておられました。その調整を担っていたのが、私です」
「つまり、"見えない形で資金を動かしていた" ということですね?」
「……はい」

エリオットは頷いた。

(これで確信が持てた。ロベールは"悪意" ではなく"忠誠" で動いていた)

「それで……ヴェロニク殿は?」

ロベールは、苦しげに目を閉じる。

「……ヴェロニク様は、その"帳簿" を持っています」

(……そういうことか)

「つまり、あなたの"過去の財務処理" に関する証拠を?」

ロベールは、小さく頷いた。

「……彼は、私に直接何かを強要したことはありません。しかし……"このことを閣下が知ったら、どう思われるでしょうね" という言葉を……何度か」

(それは……十分な脅しだよ)

ヴェロニクはロベールを直接支配していたわけではない。
だが、 "弱みを握る" ことで、ロベールが"動けない" 状況を作っていたのだ。
エリオットは静かに目を閉じる。

(ヴェロニク……本当に、手が込んでいるね。貴族でない彼がどこでこんな手段を学んだのだかね……)

ロベールのような有能な執事を、強引に支配するのではなく、 "動けなくする" 。
それによって、 "都合のいい道具" として利用し続ける——。
エリオットは、ゆっくりと目を開けた。

「ロベール、あなたは公爵家に忠誠を誓う者"ですね?」
「……当然です」

その答えには、一切の迷いがなかった。
エリオットは、穏やかに微笑む。

「ならば、この家にとって本当に必要なものは何か……考えてみてください」

ロベールは、深く息を吐いた。

「……」
「ヴェロニク様の存在が、本当に"公爵家のため" になっているのかどうか」
「……」

ロベールは、拳を握り締めたまま、何も言わない。

(……でも、もう決まったようなものだね)

エリオットは微笑みながら、静かに続ける。

「あなたが本当に"公爵家のために" と考えているのなら……僕は、あなたのことを信じますよ」

ロベールは、しばらく黙っていた。
—— そして。

「……私は……」

ついに、彼は"ヴェロニクに対する本当の感情" を口にした。



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次の更新→2/14 PM10:30頃
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