娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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18、静かなる掌握~ロベール1~

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エリオットは、穏やかに紅茶を啜りながら、目の前のロベールを観察していた。
長年公爵家を支えてきた執事の立ち姿は完璧で、表情も一切崩れていない。
しかし—— どこか "探られること" に対する警戒心 が滲んでいるように見えた。

「お呼びでしょうか、公爵夫人」

低く落ち着いた声。
エリオットは、微笑みながら頷く。

「ええ、少しお話ししたくて。あなたは長年、公爵家を支えてこられたと聞いています」
「恐れ入ります」

ロベールは淡々と答えるが、その視線はじっとエリオットを観察するようだった。

(やはり慎重な人だな)

エリオットは、わざと穏やかな口調を崩さずに続ける。

「旦那様のことを、もう少し知りたくて」

ロベールは、少しだけ目を細めた。

「公爵閣下のことを、ですか?」
「ええ。旦那様とは結婚前に数度お会いしましたが……彼がどういう方なのか、まだ十分に理解できていません」
「閣下は多忙な方ですから、仕方のないことでしょう」
「そうですね。でも、公爵家を支える者として、できる限り旦那様を理解したいのです」

エリオットは、少しだけ紅茶のカップを揺らしながら言葉を選ぶ。

「……例えば、旦那様がどのような方々を信頼され、どのような考えで公爵家を運営されているのか。あなたは長年仕えておられるから、そういったこともよくご存じでしょう?」

ロベールの指が、わずかに動いた。

「公爵閣下は、非常に公正で聡明な方です」
「ええ、僕もそう思います」

エリオットは、柔らかく微笑んだ。

(僕はそう思わないけれどねぇ……悪くない采配をしているのも事実だけど)

「公爵家のことを第一に考えておられる。でも、どんなに聡明な方でも、すべてを完璧に把握するのは難しいものですよね?」

ロベールは、エリオットをじっと見つめたまま、何も言わない。

(慎重だね。でも、それでいい)

エリオットは、ゆっくりとカップを置く。

「例えば……旦那様に近しい方々が、何を考えているのか。皆が常に、公爵家のために最善を尽くしていると、あなたはお思いになりますか?」

ロベールのまぶたが、ぴくり、と動く。

「……公爵家に仕える者は、皆、閣下に忠誠を誓っております」
「それは素晴らしいことですね」

エリオットは、微笑みを崩さない。

「ですが、長くお仕えしていれば……時には"異なる考えを持つ者"もいるのでは?」

ロベールの指が、また小さく動く。

「……どういう意味でしょう?」
「いえ、ただの考え事ですよ」

エリオットは、さらりと流す。

「僕は旦那様を支える立場です。ですから、できるだけいろいろな視点から旦那様を理解したいのです」
「……」

ロベールは沈黙する。

(さて……ここでどう出る?)

エリオットは、次の一手を慎重に探るように、ゆっくりと息を吐いた。

「旦那様の顧問を務めるヴェロニク殿も、とても優秀な方ですよね」

ロベールの瞳が、一瞬だけ揺れたのは気のせいではなかっただろう。
この執事にしても出身は貴族だ。オリヴィエと同じ思いは多かれ少なかれ存在しているだろうとエリオットは予測している。

「……ええ、閣下はヴェロニク様を信頼しておられます」
「彼はとても有能ですからね。旦那様にとっても、頼りになる存在でしょう」

エリオットは、紅茶を啜りながら言葉を続けた。

「ですが……彼が"本当に公爵家のために"動いているのかどうか、あなたはどう思います?」

ロベールの指が、ぐっと強く握られる。

「……何を仰りたいのです、公爵夫人」
エリオットは、ただ静かに笑う。


「何も。ただ、僕はあまりにも彼を知らないでしょう?長く共に暮らしていくならば、彼のことも知っておきたい。それならば、あなたのご意見も聞いてみたかっただけですよ」

ロベールは沈黙する。

「あなたは、公爵家を長く支えておられる方。だからこそ、公爵閣下の周囲にいる人々が"本当に公爵家のためになる存在か"、見極める力をお持ちでしょう?」

ロベールの目が、一瞬だけ伏せられる。

(……まあ、彼は実際……公爵家の名前を落している存在だものね)

人を脅せるということは、洞察力と頭の良さはあるのだろう。
ただし、いかんせんやり方が悪い。
もっと頭が良ければ、エリオットを立てて影で掌握すれば良かったのだが、そのあたりは自尊心が勝ってしまったのか、自分が伴侶だと言いふらしてしまったのだから。

「……ヴェロニク様は、有能な方です」
「ええ、僕もそう思います」

エリオットは再び頷く。

「ですが、彼が"公爵家のために最善を尽くしている"と、あなたは心から言い切れますか?」

ロベールの手が、膝の上で強く握られる。

「……」

彼は何かを考えるように、静かに息を吐いた。
エリオットは、ゆっくりと椅子にもたれかかる。

(さて、どうする?)

ロベールが"ヴェロニクに対する疑念"を口にするまで、あと一歩。
エリオットは、静かに微笑んだ。




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