娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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17、アドリアンの誤解

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アドリアン・オルディスは、机の上に広げた書類を前にしながら、昨夜の出来事を思い返していた。

エリオットが持ってきた紅茶。
珍しく穏やかに交わした会話。
そして、眠ってしまった自分に、静かに毛布をかけてくれたこと——

(……思っていたのと違うな)

結婚前、ヴェロニクが言っていたことを思い出す。

「貴族の方です。実は気が強いのでは……」
「お金の使い方はどうなのでしょうか」
「アドリアン様を束縛しようとするかもしれませんね」
「すぐに泣いて、ヒステリックになったらどうすれば……」

そんな言葉を聞いていたから、アドリアンもそれなりの心構えをしていた。
貴族の伴侶には、公爵夫人という立場に固執し、夫の行動を監視したがる者もいる。
エリオットも、きっとそうなのだろうと——思っていた。

(だが、実際は……)

エリオットと過ごした日々を思い返す。

まず、 ヒステリックに騒がない。
ヴェロニクの存在について、咎められたことは一度もない。
むしろ、結婚してすぐにエリオット自身がこう言った。

「旦那様と平穏に過ごせればそれでいい」

……それだけ? 本当にそれだけなのか?
普通、妻なら「愛人を遠ざけてほしい」と願うものではないのか?
ましてや、自分は公爵だ。求められるものが多くてもおかしくない。

なのに—— 何も要求してこない。

「新しいドレスを仕立てたい」「宝石が欲しい」
そういった話を、一度もしてこない。
なんならヴェロニクの方がそういう話はしてくるのだ。

(……いや、公爵夫人なんだから、欲しいもののひとつやふたつ、あるだろう?)

使用人たちとも上手くやっているように見える。

気づけば、エドモンドを始め、医者やメイドたちに慕われているようだった。
いや、それどころか "私よりも人望があるのでは?" と思うことすらある。

(いつの間に……?)

そして極めつけは、 「形式的な夫婦でいい」と言ってきたこと。

「僕は、旦那様と友人のように過ごしたいのです」

……友人?
それはつまり、「公爵夫人」としての立場さえ守れれば、 夫婦としての関係は求めていない ということか?

(……もしかして、本気で私に興味がないのか?)

アドリアンは、書類の上に肘をつきながら、そっとため息をついた。

(いや、誤解してはいけない。エリオットは……確かに、優しい)

ヴェロニクのことを悪く言わない。
自分の態度にも怒りを見せない。
そして、昨夜も 眠ってしまった自分をそっと気遣ってくれた。

だが、ふと考える。

(あれは優しさなのか? それとも……)

優しさとは、相手のためを思って尽くすものだ。
だが、エリオットの行動には、どこか 「諦め」のようなもの を感じる。
まるで 「最初から期待していない」 かのように——。

(……いや、それは考えすぎか)

アドリアンは、ゆっくりと頭を振った。
エリオットが何を考えているのか、まだ分からない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。

(……私は、彼のことを誤解していた)

アドリアンは、結婚前にヴェロニクから聞かされた言葉を、静かに思い返す。

—— 「貴族の方です。実は気が強いのでは……」

(違うな)
──「お金の使い方はどうなのでしょうか」

(むしろ堅実的なような気さえする)

—— 「アドリアン様を束縛しようとするかもしれませんね」

(そんなことはなかった)

—— 「すぐに泣いて、ヒステリックになったらどうすれば……」

(むしろ、泣くどころか…………この結婚を、どうでもいいと思っているようにさえ見える)

それが、アドリアンにとって 最大の違和感 だった。

(……もう少し、彼のことを知るべきだな)

ヴェロニクの言葉ではなく、 自分の目で見て、判断しよう。
エリオット・オルディスという人物が、何を考え、何を望んでいるのか。
今までの「夫婦」の形とは、違うものなのかもしれない。
アドリアンは、静かに息を吐いた。

(……さて、彼は今、どこで何をしているのだろうか)

そう考えながら、再び書類に目を落とした。



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